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前立腺がん生涯死亡リスクを層別化する”遺伝的リスクスコア”

【ASCOの見解】

「現在の前立腺がん検診の推奨は家族歴および人種・民族に基づいており、これらの因子では個々の前立腺がん発症リスクまたは死亡リスクを十分に把握できていません。この新たな研究は、広範囲に及ぶ遺伝的リスクスコアが、転移性前立腺がんのリスクが高い人と低い人とを識別することにより、検診の決定に有効なツールとなり得ることを示しています。重要なのは、このツールが多様な集団で検証されたという点です」と語るのは、理学系修士(MS)、米国内科学会マスター(MACP)、米国臨床腫瘍学会フェロー(FASCO)、米国臨床腫瘍学会(ASCO ) 泌尿生殖器がん専門医のRobert Dreicer医師である。

※本記事には抄録に掲載されていないデータが含まれています。

前立腺がんの290種類の遺伝子変異を組み込んだスコアリングアルゴリズム(PHS290)は、転移性前立腺がんの発症または同疾患による死亡の生涯リスクが高い人と低い人とを正確に識別した。リスクスコアに基づくと、アフリカ系男性は、転移性前立腺がんの発症および同疾患による死亡のリスクが最も高かった。本研究は、2022年2月17〜19日にカリフォルニア州サンフランシスコで開催される2022年米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿生殖器がんシンポジウムで発表される予定である。

研究概要

【研究の焦点】 前立腺がん

【研究の種類】 遺伝的リスク解析

【対象患者数】 582,515人

【研究された側面】 診断時年齢と前立腺がんによる死亡リスクを高める前立腺がんの290種類の遺伝子変異のシーケンシングデータとを解析

【知見】・遺伝的リスクスコアが上位20%の男性は、下位20%の男性と比較して死亡リスクが4.41倍高かった。

・前立腺がんの転移および本疾患による死亡リスクは、アフリカ系男性が他の家系群と比較して最も高かった。

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現在の前立腺がん検診では前立腺特異抗原(PSA)検査が行われることが多いが、検査の精度や進行性疾患の発症リスクを正確に予測する有用性については不確かな点がある。前立腺がんは死につながる疾患であるため、研究者は数十年にわたり、より正確な検査を開発しようと試みてきた。2022年には米国で34,500人の男性が前立腺がんで死亡すると推定されている。前立腺がんによる死亡リスクは着実に減少していたが、近年、そのペースが鈍化し、年間1%未満の減少にとどまっている[1]

「これまでの遺伝研究のほとんどはヨーロッパ系男性に焦点を当てていますが、われわれのスコアリングアルゴリズムは、退役軍人の多様な集団で前立腺がんの死亡リスクを測定したものです」と語るのは、筆頭著者であり、退役軍人局(VA)保健医療制度(カリフォルニア州ラホヤ)、カリフォルニア大学サンディエゴ校医学博士候補のMeghana Pagadala氏である。「家族歴や家系を考慮してもなお、スコアリングアルゴリズムは、前立腺がんによる男性の死亡リスクについて説得力のある追加情報を提供してくれました」。

前立腺がんは最も遺伝性の高いがんの一つであるため、その人の遺伝子構成の変異が疾患リスクに大きく影響する可能性がある。このアルゴリズムには、これまでに特定された前立腺がんリスクに関連する290種類の遺伝子変異が組み込まれている。各変異の有無と患者年齢をアルゴリズムに適用し、前立腺がん診断時年齢と関連する最適なモデルを作成した。

研究について

2011年以降、「Million Veterans Study」(退役軍人の遺伝情報を用いた大規模コホート研究)には、退役軍人局保健医療制度の管轄下にある全国63の医療施設で医療ケアを受けている65万人以上の患者が登録されている。登録者のうち約60万人が男性で、研究者らはそのうちの97%近くの患者について臨床情報を得ることができた。約42万5千人がヨーロッパ系、約10万5千人がアフリカ系で、残りはアジア系またはヒスパニック系であった。研究対象の男性の年齢中央値は69歳で、全員が遺伝子型判定のための血液提供に同意した。

「現在市販されている複数の検査は、わずか十数種類のがん関連遺伝子と数種類の参照遺伝子の発現に基づいているのに対し、このスコアリングアルゴリズムは他のリスク検査とは異なり、親から子へと受け継がれた遺伝情報に関連する300種類近くの変異を用いています」とPagadala氏は述べている。「遺伝性の遺伝情報は生涯を通じて変化しないことが利点ですが、腫瘍遺伝子発現は非常に多様で、発症してからでないとわからないのです。このアルゴリズムは、さまざまな年齢で前立腺がんリスクを予測するために開発されました」。

主な知見

PHS290アルゴリズムで決定される遺伝的リスクスコアが上位20%であった男性は、下位20%の男性と比較して死亡リスクが4.41倍高かった。前立腺がんの発症または転移のリスクは、リスクスコアが下位20%の男性と比較して、上位20%の男性でそれぞれ5.66倍および4.18倍高かった。

ヨーロッパ系を基準にして家系を見た場合、PHS290スコアに基づく転帰が最も顕著であったのはアフリカ系男性で、ヨーロッパ系男性と比較して前立腺がんの発症リスクが1.84倍高かった。アフリカ系男性は、ヨーロッパ系男性と比較して、リスクスコアに基づく前立腺がん転移リスクが2.27倍、死亡リスクが1.97倍高かった。著者らはアジア系男性のデータも報告しているが、解析対象者数が少なく、信頼できるリスク推定値を決定することができなかった。ヒスパニック系男性のリスクは、ヨーロッパ系男性とほぼ同じであった。前立腺がんの家族歴も、前立腺がんの発症および死亡リスクを高める要因であった。

次のステップ

スコアリングアルゴリズムはまだ市販されていない。

研究者らは、より家系特異的な前立腺がんリスク変異を同定し、遺伝的リスクの推定に家系を組み込む方法について理解を深めたいと考えている。さらに、遺伝的リスクと環境要因の相互作用についても検討する予定である。

演題アブストラクト全文

[1]Cancer Facts and Figures, 2022:https ://www.cancer.org/content/dam/cancer-org/research/cancer-facts-and-statistics/annual-cancer-facts-and-figures/2022/ 2022-cancer-facts-and-figures.pdf

翻訳担当者工藤章子

監修榎本 裕 (泌尿器科/三井記念病院)

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原文掲載日

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