非ホジキンリンパ腫にCAR-T細胞療法をより早期段階で使用すべきか

免疫療法の一種であるCAR-T細胞療法は、血液腫瘍である非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin lymphoma:NHL)患者の一部の治療に使用されることが多くなっている。しかし現在のところ、CAR-T細胞療法は、患者がすでに数種類の治療を受けた後にのみ使用される。とはいえ、標準治療である化学療法と造血幹細胞移植と比較して、患者の疾患経過のより早期にCAR-T細胞療法を使用する方が、がんに対してより有効かどうかは不明である。

3件の大規模臨床試験から得られた新たな結果から、標準的な治療と比較して、初回化学療法後の治療にCAR-T細胞療法がより有効である可能性が現在示唆されている。これらの結果は臨床診療に変化をもたらし、CAR-T細胞療法は疾患経過のより早期で使用される可能性があると複数の研究者が述べている。

これらの臨床試験3件はいずれも、高悪性度B細胞NHL(NHLの中で最も多い病態)の患者で、初回治療後に早期に再発または増悪した患者を対象としたものであった。

臨床試験3件のうちの2件であるZUMA-7試験と TRANSFORM試験で、化学療法を1回だけ受けた後CAR-T細胞療法を受けた高悪性度B細胞NHL患者で、標準的な治療アプローチを受けた患者と比較して、無増悪生存期間が延長した。通常、標準的なアプローチでは追加化学療法(救援化学療法)に引き続いて造血幹細胞移植が行われる。

しかし、3件目の臨床試験であるBELINDA試験では、CAR-T細胞療法を受けた患者と標準治療を受けた患者の間で、無増悪生存期間に差がないことが分かった。

ZUMA-7試験で得られたデータの中間解析では、CAR-T細胞療法を受けた患者は標準治療を受けた患者と比較して、2年生存率が高いと推定された。BELINDA試験とTRANSFORM試験では、患者の全生存期間の差の有無の判断は、時期尚早であった。

各臨床試験では、異なる種類のCAR-T細胞療法が使用された。ZUMA-7試験ではアキシカブタゲン シロルユーセル(イエスカルタ)が、TRANSFORM試験ではリソカブタゲン マラルユーセル(ブレヤンジ)が、およびBELINDA試験ではチサゲンレクルユーセル(キムリア)が使用された。

これらの臨床試験3件の結果は、2021年12月11~14日に開催された第63回米国血液学会(ASH)の年次総会で発表された。ZUMA-7試験とBELINDA試験の結果はそれぞれ、New England Journal of Medicine(NEJM)誌2021年12月11日号と14日号に発表された。TRANSFORM試験の結果は第63回ASH年次総会の抄録集に収載されている。

「BELINDA試験での相反する結果は、チサゲンレクルユーセルが検証された他の2つのCAR-T細胞療法と比較して効果が低いことを意味するのかどうかは不明です」とリンパ腫専門医であるChristopher Melani医師(NCIがん研究センター、いずれの臨床試験にも不参加)は述べた。

「各試験の実施方法や参加した患者には重要な差があり、それらが試験の結果に影響を与えた可能性があります」とMelani氏は解説し、CAR-T細胞療法同士を比較する直接比較試験がないため、「現段階ではわからないと思います」と述べた。

「それでも、試験3件のうち2件から、CAR-T細胞療法は救援化学療法や自家造血幹細胞移植と比較して、効果が高いことが示されています」とMelani氏は述べた。

「(ZUMA-7試験とTRANSFORM試験の)結果は実に素晴らしいと思います。また、(CAR-T細胞療法が)高悪性度NHL患者に対する二次治療における標準治療になることは必然だと思います」とリンパ腫専門医であるLaurie Sehn医師(ブリティッシュ・コロンビア大学医学部)は臨床試験3件に関するASHの記者会見で述べた。

化学療法抵抗性NHLの治療にはどの治療法が最適か

高悪性度B細胞NHL患者に対する標準的な一次治療は化学療法である。「(一次治療としての)化学療法で、概ね患者の約70%が治癒します」とMelani氏は述べた。

しかし、化学療法に反応しない、または最初は反応しても再発する30%の患者の転帰は、良く見ても不確実なものである。標準的な二次治療は、救援化学療法から始まることが多い。

「ほとんどの救援化学療法レジメンは高悪性度B細胞NHL患者の半数以上にある程度の効果をもたらしますが、それだけでは通常長期奏効には至りません」とMelani氏は述べた。

救援化学療法に反応した患者は、受けることができる健康状態であれば、通常造血幹細胞移植を受ける。

しかし、「(救援化学療法を受けた)患者の半数以上は造血幹細胞移植を受けることができません。患者は救援化学療法に十分に反応しないと、移植対象になりません」とMichael Bishop医師(シカゴ大学デヴィッド・エッタ・ジョナス細胞療法センター、BELINDA試験を主導)は述べた。

この一連の治療で治癒する患者もいるが、長期奏効が続く患者は、治療を受けた患者の20%未満である。

同様の場合に、2つ以上の治療を行った後にCAR-T細胞療法を実施すると素晴らしい結果が得られる。「再発または難治性高悪性度B細胞NHL患者の35%~40%が、救援化学療法が失敗した後でも、CAR-T細胞療法で治癒する可能性があります」とMelani氏は述べた。

そこで、CAR-T細胞療法が救援化学療法と造血幹細胞移植の後だけでなく、こうした他の治療法に代わる二次治療として使用できないかと研究者らは考えた。

ZUMA-7試験、TRANSFORM試験、BELINDA試験の類似点と相違点

第63回ASH年次総会で発表された臨床試験3件は、いずれも初回治療後に再発したB細胞NHL患者を対象に、CAR-T細胞療法と標準治療を比較する第3相臨床試験であった。

ZUMA-7試験はカイト・ファーマ社、TRANSFORM 試験はセルジーン社、および、BELINDA試験はノバルティス・ファーマシューティカルズ社からの資金提供を受けた。いずれも各臨床試験で検証されたCAR-T細胞療法の製薬企業である。

ZUMA-7試験はアキシカブタゲン シロルユーセルを評価するもので、患者359名が登録された。TRANSFORM試験はリソカブタゲン マラルユーセルを評価するもので、患者184名が登録された。BELINDA試験はチサゲンレクルユーセルを評価するもので、患者322名が登録された。

登録後、患者はランダムにCAR-T細胞療法もしくは救援化学療法のいずれかに割り付けられた。可能な場合、救援化学療法患者は造血幹細胞移植へと進んだ。

これらの臨床試験3件で、患者登録から疾患の増悪 、死亡、または新規治療の開始などの重要な「イベント」が発生するまでの期間が評価された。この指標が無イベント生存期間である。

全てのCAR-T細胞療法と同様に、検証された3種類の治療法はそれぞれ複雑な製造工程で製造され、人工タンパク質であるキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)遺伝子を患者のT細胞に導入し、T細胞ががんをより効果的に攻撃できるよう促す。

これらの臨床試験3件で使用された3種類のCAR-T細胞療法は多くの特徴が共通しているとはいえ、CARの「共刺激」分子などのいくつかの重要な相違点がある。共刺激分子は、T細胞の完全な活性化に必須である。また、患者のT細胞に対する遺伝子導入法も、各治療法で異なる。

もう1つの相違点は、CAR-T細胞療法では、患者の一部が、CAR-T細胞の製造中に、B細胞NHLの増悪を遅らせるために「ブリッジング療法」 を受けるという点である。製造工程期間は様々だが、通常2週間以上を要する。

BELINDA試験ではブリッジング療法を複数回受けることができた一方、TRANSFORM試験では1回のみで、ZUMA-7試験では実施されなかった。ブリッジング療法を許可すると、それを使用する臨床試験にさらに重症の患者を含めることができるため、臨床試験の対象集団に影響を与える可能性がある。

ZUMA-7試験とTRANSFORM試験では、CAR-T細胞療法を受けた患者は、標準治療である救援化学療法に加えて(可能であれば)造血幹細胞移植を受けた患者と比較して、無イベント生存期間が長かった。また、CAR-T細胞療法を受けた患者は、がんが完全に消失する(完全奏効)可能性も非常に高くなった。しかし、BELINDA試験では、無イベント生存率と完全奏効率は両群間で同一であった。

「TRANSFORM試験とZUMA-7試験の結果は患者に対する治療を進展させる可能性があります。標準治療と比較して、非常に良好な結果が得られたことは注目に値します」とSehn氏は述べた。

しかし、他の2つの研究では差が出たのに、なぜBELINDA試験では差が出なかったのか。BELINDA試験とZUMA-7試験を受けてNEJMに発表した論説で、BELINDA試験はブリッジング療法を認めたため、ZUMA-7試験と比較して、きわめて高悪性度の患者が多く登録されていた可能性があるとMark Roschewski医師(NCIがん研究センター)らは指摘した。

「これまでの研究から、チサゲンレクルユーセルは他の2種類のCAR-T細胞療法と比較して効果が劣るとは思えません」とMelani氏は述べた。その代わり、BELINDA試験と他の臨床試験2件の間の矛盾した結果は、臨床試験デザインと対象集団の違いを反映している可能性があることに同意した。

副作用は臨床試験3件全てで同様で、全体的に重度の副作用はまれであった。

サイトカイン放出症候群(cytokine release syndrome:CRS)は、CAR-T細胞療法において高頻度で認められる生命を脅かす可能性のある副作用で、臨床試験3件全てで認められた。CRSはZUMA-7試験参加患者で最も高い頻度で発生し、92%の患者がCRSを発症したが、重度CRSを発症した患者は6%のみだった。

BELINDA試験では、61%の患者がCRSを発症したが、重度CRSを発症した患者は5%のみだった。TRANSFORM試験では、約半数(49%)の患者にCRSの症状が認められ、重度CRS事象は1件(患者の1%)のみ報告された。

NHLに対するCAR-T細胞療法の最適化

「これらの臨床試験3件の結果の相違は、今後の研究に興味深い可能性をもたらします」とMelani氏は述べた。例えば、CAR-T細胞療法を直接比較する研究は、ある治療法が他の2種類の治療法と比較して有効かどうかの解決に役立つ可能性がある。ただ現在は、このような臨床試験は計画されていない。

「さらに、CAR-T細胞療法は全ての患者に有効ではなく、CAR-T細胞療法で治る人と治らない人を予測する有効な方法はありません」とMelani氏は述べ、「CAR-T細胞療法が特に有効な患者の疾患の特徴を特定するために、さらなる研究が必要です」と言い添えた。

ZUMA-7試験とBELINDA試験の結果を踏まえ、ブリッジング療法を行わずにCAR-T細胞療法を受けることができる患者は、二次治療としてCAR-T細胞療法を受けるべきであるとRoschewski氏らは結論づけた一方で、「すべての(造血幹細胞移植)適格患者に対してCAR-T細胞療法が優れていると結論づけることは時期尚早です」と戒めた。

Bishop氏も同意見であった。「CAR-T細胞療法が最も有効な患者を特定するために、臨床試験3件の相違点を調べる必要があると思います」とBishop氏は第63回ASH年次総会で述べた。

翻訳担当者 渡邊 岳

監修 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

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