膠芽腫など一部の高悪性度脳腫瘍でダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法が著効

・BRAF V600E変異は脳腫瘍において検出頻度は低いが、同変異を有する高悪性度および低悪性度の脳腫瘍に対して、ダブラフェニブ(販売名:タフィンラー)とトラメチニブ(販売名:メキニスト)の併用療法が期待のもてる割合で持続的な効果を示した。
 ・悪性度が極めて高い脳腫瘍である膠芽腫において、標的治療薬の有効性を示した初めての研究である。
 ・これらの治療法が有効な患者を特定するために、脳腫瘍におけるBRAF V600E変異検査のルーチン化を検討すべきである、と研究者は提言している。BRAF V600E変異は、高悪性度脳腫瘍ではまれであるが、特定の腫瘍型の低悪性度神経膠腫では認められることが多い。

頻度の低い遺伝子変異を有する高悪性度脳腫瘍の患者に対して、2種類の標的がん治療薬の併用が、これまでにない「臨床的に有意義な」効果を示したことが、ダナファーバーがん研究所の研究者らによる臨床試験で報告された。

ダブラフェニブとトラメチニブの併用療法には、細胞の増殖シグナル伝達経路の過剰な活性化を阻害する作用がある。本試験では、悪性度が極めて高い脳腫瘍である膠芽腫を含む治療困難な悪性神経膠腫患者45人のうち、3分の1の患者で腫瘍が50%以上縮小した。試験に参加した患者は、BRAF遺伝子にV600Eと呼ばれる遺伝子変異があることが確認されている。この遺伝子変異は、高悪性度神経膠腫では2~3%の患者にしか認められないが、特定の腫瘍型の低悪性度神経膠腫では約60%近くの患者に変異が認められる。本研究では、13人の低悪性度神経膠腫患者を対象としたが、うち9人がこの併用療法に規定以上の腫瘍縮小を示し、奏効率は69%だった。

「膠芽腫に対する標的治療薬の効果が臨床試験で示されたのは今回が初めてです」と、The Lancet Oncolgy誌に掲載された論文の筆頭著者であり、ダナファーバーがん研究所の神経腫瘍センター長であるPatrick Wen医師は述べている。「膠芽腫に対して従来の化学療法では奏効率が5%を超えることがなく、本併用療法による33%の奏効率と比べると大きく異なります」。Wen氏によると、40歳未満の患者では奏効率はさらに高く、約40%であったという。

この試験で併用された薬はダブラフェニブとトラメチニブで、どちらの薬もMAPK経路のタンパク質を標的としている。MAPK経路とは、細胞の増殖を促すスイッチの役割を果たすシグナル伝達経路で、「オン」の状態が持続すると制御不能な細胞増殖が起こり、腫瘍形成につながる可能性がある。

本併用療法の結果、3人の患者が完全奏効(画像診断で腫瘍を認めない状態)となり、12人では腫瘍の有意な縮小が認められた。治癒には至らなかった場合でも、腫瘍が縮小した患者ではその効果が非常に長く持続し、奏効期間の中央値はある評価では13.6カ月、別の評価では36.9カ月であった。

今回の知見は、ROAR試験(Rare Oncology Agnostic Research)という進行中の第2相試験から得られたもので、試験には世界13カ国の27カ所の地域がんセンターおよび大学がんセンターの患者が2014年から登録されている。ROAR試験はいわゆるバスケット試験方式、つまり、がん種にかかわらず共通の腫瘍特性(この場合はBRAF V600E変異)がある患者を登録していく方式で行なわれ、甲状腺がん、胆道がん、消化管間質腫瘍、有毛細胞白血病、多発性骨髄腫、低悪性度および高悪性度の神経膠腫など、さまざまながんの患者が含まれている。この研究デザインは、BRAF V600E遺伝子変異のあるがん患者に対するダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法の全奏効率を検討することを目的としたものである。BRAFタンパク質は、増殖シグナルに関連するプロテインキナーゼで、MAPKシグナル伝達経路を制御する働きをもつ。BRAF V600E変異は、多くのタンパク質で構成されるMAPK経路を活性化し、制御不能な細胞増殖と腫瘍の発生をもたらす。

本試験で使用されたダブラフェニブとトラメチニブは、過剰に活性化したMAPKシグナル伝達経路の特定箇所を阻害する経口薬である。ダブラフェニブはB-Rafという酵素を阻害し、トラメチニブはMAPK経路の一部であるMEK1およびMEK2という分子を阻害する。この2剤の併用療法はメラノーマ(悪性黒色腫)、非小細胞肺がん、および甲状腺がんの治療に使われている。

神経膠腫は、脳の神経細胞自体ではなく、神経細胞を構造的・機能的に支援するグリア細胞に発生するがんであり、悪性脳腫瘍の約80%を占める。増殖の遅い低悪性度神経膠腫もあれば、膠芽腫のように全摘出が困難でほぼ必ず再発する難治性の高悪性度神経膠腫もある。今回の試験報告のなかで筆者らは、神経膠腫の治療に近年大きな進展はなかったが、ダブラフェニブとトラメチニブの併用療法が神経膠腫に奏効したという単発の報告は数件あった、と述べており、ROAR試験の報告は、「BRAF阻害薬(ダブラフェニブ)とMEK阻害薬(トラメチニブ)の併用が、歴史的にも治療抵抗性を示し続けてきた膠芽腫を含む、治療困難な神経膠腫に著効することを示した初めての例」である。

この治療法は、まれな変異であるV600E変異のある脳腫瘍の患者にのみ有効であったが、「膠芽腫に対する有効な標的療法はないだろうと思われ始めていただけに、この結果は励みになります」とWen氏は話した。同氏によると、神経膠腫にはV600Eのほかにも標的治療薬で阻害できる標的が存在する可能性を示すエビデンスが上がってきているという。

ROAR試験は、GlaxoSmithKline社が開始当初の企画およびスポンサーを務め、現在はNovartis社がスポンサーを務めている。

翻訳担当者 岩佐薫子

監修 永根基雄

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