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前立腺がんはホルモン療法後もグルタミン代謝スイッチを利用して増殖する

がんの燃料源を直接狙った新たな手法につながる発見

前立腺がんの細胞代謝に関する研究から、前立腺がんのホルモン療法がいずれは効かなくなる主な理由と、全く新しい治療法によりこの問題を回避する方法が、Duke Healthが主導する研究者チームにより明らかにされた。

ホルモン療法がアンドロゲン受容体を標的とすることで、どのようにして腫瘍細胞から重要な燃料源を奪うかを明らかにしたこの研究成果は、2021年3月22日の週に全米科学アカデミー紀要に発表された。この方法は、はじめのうちは腫瘍の増殖を止めるのに有効だが、いずれがん細胞は、燃料を利用するために別の酵素に切り替えるという代償機構を働かせ、ホルモン療法抵抗性となり増殖していく。

デュークがん研究所の研究者らは、この発見を利用して、アンドロゲン受容体を完全に阻害する必要がない治療戦略を提案した。目指したのは、腫瘍の好ましい燃料源であるグルタミンというアミノ酸を直接の標的とすることである。

前立腺がん細胞株、ヒト前立腺がん組織、および動物モデルを用いた研究では、この新しい治療戦略により腫瘍増殖を阻害することに成功した。腫瘍細胞によるグルタミン利用を阻害する既存の薬剤を用いた臨床試験が計画されている。

「ホルモン療法によりアンドロゲン受容体を阻害するのではなく、グルタミン利用を直接阻害するほうが優れた治療戦略です」と、論文の統括著者でデューク大学病理学主任教授のJiaoti Huang医学博士は述べている。

「グルタミンは正常組織にとっては必須でないため、ホルモン療法の最大の欠点の一つである副作用が少なくなるでしょう。グルタミン利用を制御する酵素を直接阻害すれば、腫瘍細胞が抵抗性を獲得することもより難しくなるでしょう」と、Huang医学博士は語った。

Huang医学博士と、臨床試験の計画を主導したデューク大学医学・外科学教授のDaniel George医師を含む共著者らは、未解明の部分が多い前立腺がんの細胞代謝についてより深く理解するためにこの研究を始めた。

研究により、ホルモン療法の初期には腎臓型グルタミナーゼ(KGA)と呼ばれるグルタミン転換酵素の一種が阻害されることが見出された。この腎臓型グルタミナーゼはアンドロゲン受容体に依存しており、がん細胞がグルタミンを利用できるようにする。ホルモン療法はこの酵素を抑制することにより、一時的にがんの増殖速度を遅くすることができる。

しかし、腫瘍細胞はいずれ、アンドロゲン受容体に頼らないグルタミナーゼC(GAC)という別の酵素に切り替えるという回避策を見出す。グルタミナーゼCに切り替わると、腫瘍は激しく増殖して去勢抵抗性前立腺がんとなる。

「この代謝スイッチが治療抵抗性と疾患進行の鍵となるメカニズムの一つであることを私たちの研究は示しています」と、George医師は述べた。

グルタミン代謝を標的とすることにより、研究者らは、複雑なアンドロゲン受容体の情報伝達経路を迂回し、代わりに前立腺がん細胞が必要とするエネルギーと構成要素の産生を直接阻害して実質的に腫瘍細胞を餓死させる方法を切り開いた。

「代謝活性は細胞増殖を直接制御するので、腫瘍細胞が代謝阻害を克服して抵抗性を獲得することはより難しくなる可能性があります。私たちの研究は、グルタミナーゼCを薬理学的に阻害することで、去勢抵抗性前立腺がんを顕著に抑制できることを示しています」と、Huang医学博士は語った。

Huang医学博士とGeorge医師以外の著者は以下の通りである。Lingfan Xu, Yu Yin, Yanjing Li, Xufeng Chen, Yan Chang, Hong Zhang, Juan Liu, James Beasley, Patricia McCaw, Haoyue Zhang, Sarah Young, Jeff Groth, Qianben Wang, Jason W. Locasale, Xia Gao, Dean G. Tang, Xuesen Dong, Yiping He and Hailiang Hu。

この研究は、国防総省(DOD-W81XWH-19-1-0411)、前立腺がん基金Movember Valor Challenge Award(2018)、および米国国立衛生研究所(K99- K99CA237618)の支援を受けた。

翻訳伊藤彰

監修石井一夫(計算機統計学/公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科)

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