限局性前立腺がん切除後の放射線治療の遅延は悪影響を及ぼさない

【ロイター】限局性前立腺がんにおいて、アンドロゲン除去療法(ADT:いわゆるホルモン療法)後の放射線治療までの期間を最長180日まで延期しても全生存期間に悪影響はないという新たな報告があった。

「このように常にCOVID-19に脅かされている状況下では、ホルモン療法を受けている限局性前立腺がん患者は、COVID-19に感染するリスクを考えると、放射線治療を延期した方がよいと思います」と筆頭著者である Edward Christopher Dee 氏(ダナ・ファーバーがん研究所/ブリガム&ウィメンズ病院、ハーバード大学医学部、ボストン)はロイターに電子メールで回答した。

一般的に限局性前立腺がんは放射線治療のために毎日の通院が必要である。COVID-19による死亡リスクがすでに高い状態にあるがん患者が、通院することでCOVID-19への感染リスクが上昇してしまう。

本研究では、Dee氏らが全米がんデータベースから、2004年~2014年の間に予後中リスク、高リスク、または超高リスク前立腺がんと診断された男性のデータを分析し、放射線治療およびホルモン療法を受けている患者における放射線治療の時期と全生存期間の関連性を調査した。

予後不良中リスク前立腺がん男性の10年全生存率は、ホルモン療法開始60日前~開始日に放射線治療を開始した群で59.2%、ホルモン療法開始翌日~60日後に開始した群で57.9%、ホルモン療法開始61~120日後に開始した群で62.3%、ホルモン療法開始121~180日後に開始した群で58.9%であった。群間に統計学的な有意差はなかった。

同様に、高リスクまたは超高リスク前立腺がん男性の10年全生存率も有意差はみられず、ホルモン療法開始60日前~開始日に放射線治療を開始した群で58.9%、ホルモン療法開始翌日~60日後に開始した群で51.7%、ホルモン療法開始61~120日後に開始した群で54.8%、ホルモン療法開始121~180日後に開始した群で52.4%であったと、研究者らはJAMA Oncology誌で報告している。

「放射線治療を開始する時期を決定するには、状況を総合的に考慮しなくてはなりませんが、COVID-19のリスクも加わり状況はさらに複雑化して、多くのがん患者に感染の脅威を与えています」とDee氏は述べる。「われわれの知見が治療の時期を調整するのに役立つことを期待しています。本研究では、治療が遅延しても特定の患者サブグループの生存期間には悪影響を及ぼさないことを示しています」。

「結局のところ、治療開始時期は患者と医療者がよく話し合って決定するべきです」と同氏は述べる。

前立腺がんの放射線治療をさまざまな観点から研究しているカリフォルニア大学ロサンゼルス校のAmar U. Kishan医師は電子メールでロイターに以下のように回答した。「この研究結果は心強く、さらに、著者らが述べているように、ホルモン療法の順序を評価した別の2つのランダム化試験の結果と一致していますが、一部異なる点もあります。しかし、全般的に、前立腺がん患者は幸いにも治療による予後が良好であると見込まれており、さらに、初回治療が奏効しなかった場合の救済治療と呼ばれる治療が奏効していることを考えると、全生存期間に大きな差があったとしたら驚くべきことでしょう」。

「この研究結果から、このパンデミックの中でも、ホルモン療法の開始後に行う放射線治療が遅延した場合、高リスク前立腺がん患者でも全生存期間への悪影響はないだろうことを患者と医療者は認識していただいてよいでしょう」。「治療を要する別の健康問題を抱えている場合や、個人的または職業上の義務から放射線治療ができない場合などに、これらの知見が一般化できるでしょう」と述べた。

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 河村光栄(放射線科/京都医療センター放射線治療科)

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