HIV感染高リスク成人でのHPVワクチン接種率は低い

後天性免疫不全症候群(AIDS)を引き起こすヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染するリスクの高い成人は、肛門がんや子宮頸がんの原因となり得るヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチン接種率が一般集団よりも低い傾向にあったことが、3月29日から4月3日までアトランタで開催された2019年度米国がん学会(AACR)年次総会で発表された結果により明らかになった。

HPV感染は健康な人にも多くみられる一般的な感染であるが、健康な人においては疾患を起こすことなく身体から除去される場合が多いと、本試験の筆頭著者であり、テキサスA&M大学(カレッジステーション)教育発達科学研究科、保健・運動学学部、保健衛生学科 助教であるLisa T. Wigfall博士(MCHES)は述べた。しかし、HIV感染が身体の免疫系を障害するため、HIV陽性の人はHPV感染を撃退することができず、肛門がんや子宮頸がんなど一部のがん種を発症する傾向が高くなる。

2006年以降、肛門がんや子宮頸がんを引き起こす傾向が最も高いHPV株を標的とするワクチンが接種可能である。米国疾病管理予防センター(CDC)は、青少年男女がワクチンを11~12歳から開始し、15歳までに2回接種することを推奨している。CDCガイドラインでは、一連のワクチン接種をより遅い15~26歳で開始する場合は、3回ワクチン接種を受けるよう推奨している。

HPVワクチン接種は公衆衛生専門家が期待するほど進んでおらず、接種率は現時点で全国目標の80%を大幅に下回っている。CDCデータによると、2017年時点で、米国の青少年の約49%がスケジュール通りにHPVワクチン接種を受けており、66%が初回接種をすでに受けている。Wigfall氏らはHIV感染のリスクが高い人々のHPVワクチン接種率を調査するために本研究を実施した。

研究者らは、2016年行動危険因子サーベイランスシステム(BRFSS)調査のデータを用いて、調査前の1年間に1つ以上の高リスク行動をしたと報告した人々のHPVワクチン接種率を調査した。2016年BRFSS調査を完了した成人486,303人のうち、麻薬使用やリスクの高い性行動をし、HIV感染において高リスクに分類されたのはわずか16,507人(3.39%)であった。

その集団で、完全データがあるのは416人のみであった。その中でHPVに対するワクチンをすべて受けた人はごくわずかであったことが、研究によって明らかとなった。ワクチン接種率は複数の高リスク集団群の間でさまざまであった。

主要な知見:
・ゲイまたはバイセクシャルの18~33歳男性では、約1/4(25.7%)が3回HPVワクチン接種を開始しており、6.2%が3回ワクチン接種を完了していた。
・リスクの高いヘテロセクシャルの18~36歳女性では、約1/4が3回HPVワクチン接種を完了していた。
・リスクの高いヘテロセクシャルの18~29歳男性では、3回HPVワクチン接種を開始していたのは全体のうちわずか11%であった。
・トランスジェンダーの男女や性別不適合の人々でHPVワクチン接種を開始した人はいなかった。
・非ヒスパニック系黒人の回答者のワクチン接種率は、他の人種/民族群と比較して非常に低かった。

「驚くべきことに、本研究において非ヒスパニック系黒人のほぼ全員がワクチン接種を受けておらず、特にマイノリティ群へのHIV/AIDSの負担が不均衡に重くなっていました」とWigfall氏は述べた。

Wigfall氏によれば、高リスク集団のワクチン接種率が低い理由の一つとして、HIV感染者に対する推奨が発表されたのが、一般集団に対するHPVワクチンが初めて利用可能となってから数年後であったことが考えられる。

これまでの研究から、医師によるHPVワクチンの説明の仕方が、ワクチン接種を子どもに受けさせるかどうかの親の決断に影響を及ぼすことが示されている。Wigfall氏は、ゲイ/バイセクシャルの男性やトランスジェンダーの人々など本研究が示す一部の高リスク集団に対して、高リスクの性行動とHIV/HPV同時感染の関連を医師らが説明していない可能性があると述べた。

「性別と性的指向は重要な問題であり、その問題が高リスク集団でのHPVワクチン接種対象者の特定と絞り込みの障壁となってはならないと思います」とWigfall氏は述べた。

Wigfall氏は、特にHIV陽性の男女やHIV陰性のゲイ/バイセクシャルの男性、トランスジェンダーの人々などの高リスク集団に対し、HPVワクチンについての患者と医療従事者間のコミュニケーションを強化すべきであるとの見解を述べた。

高リスク集団でのHPVワクチン接種増加への取り組みとして、「リスクが認識されているかどうかにかかわらず、最初にすべきことは、すべての青少年および成人に対する定期HIV検査の幅広い採用でしょう」とWigfall氏は述べ、CDCが2006年から定期HIV検査を推奨していることにも言及した。その推奨は広く守られているわけではなく、何千人もの人々は自分がHIV陽性であることに気づいていない状態であるとWigfall氏は述べた。

本研究は米国国立がん研究所(NCI)からキャリア形成助成金を受け取っている(認可番号:K01CA175239)。Wigfall氏はここで述べた意見は個人の見解であり、必ずしもNCIの公式見解を表すものではないと述べた。

翻訳担当者 太田奈津美

監修 東海林洋子(薬学博士)

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