HPV(子宮頸がん)ワクチン:親が子供に接種させない本当の理由

研究の結果、安全性への心配が理由の上位であり、医師が患者への教育およびワクチン推奨に力を入れる必要があることが示唆される。

ジョンズホプキンス研究者たちの新たな調査データ研究によると、性感染を起こすヒトパピローマウイルス(HPV)のワクチンを親が自分の子供に接種させないのは、ワクチン接種が若者の性行為を促したり、サポートにしたりすることが心配なためであると医師らはこのワクチン推奨がなかなか進まない理由をしばしば説明しているが、この理由でワクチン接種をさせなかった親はごく一部であった。むしろ、子どもを予防接種から遠ざける親の懸念は、安全性への不安、必要性の欠如、HPVに関する知識の欠如、および医師推奨がないことに集まる傾向であることが明らかになった。

研究結果は、Journal of Adolescent Health誌11月号で発表され、公衆衛生当局と専門家団体がHPVワクチン接種率上昇を目的とする新たな方策を進展させる上で役立つ可能性がある。

HPVワクチンは、米国において、推定で年間31,500件の子宮頸部、膣、外陰部、口腔咽頭および肛門のがん症例を含む、ウイルス感染によるがん種について長期的に上昇している発生率の抑制にすでに効果を発揮している。米国食品医薬品局(FDA)は、ワクチン接種を9歳から開始することを女性に対しては2006年に、また男性に対して2009年に承認している。しかしながら、一般市民に対するワクチンの指導を提供する医療専門家グループAdvisory Committee on Immunization Practices( ACIP:予防接種の実施に関する諮問委員会)は2011年まで男性への接種を推奨していなかった。世界的な研究から、ワクチンは実質的に100%有効であり、安全性が非常に高いことが示されており、FDAは、副作用の大半は深刻ではなく、かつ有益性が有害事象を継続して上回っていると結論づけている。

ACIPが、一連の定期小児期予防接種の一環としてHPVワクチンの組み込みを推奨しているにもかかわらず、現在米国におけるワクチンの使用は依然として比較的低調である。ワクチン接種率に関して入手可能な最新データが揃っていた2016年の時点で、一連のワクチン接種を最後まで受けたのは、接種可能な女性の50%、接種可能な男性の38%に過ぎなかった。

「私たちは、親が自分の子供にHPVワクチンを接種させないことにした理由をもっと理解したいと思いました。なぜならその情報は、公衆衛生キャンペーンと提供者メッセージを改善、展開して予防接種率を向上させるために不可欠だからです」と、研究著者であるジョンズホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生大学院疫学部助教のAnne Rositch氏(公衆衛生修士、博士)は述べた。彼女は、ジョンズホプキンス・シドニー・キンメル総合病院がんセンターで腫瘍学の共同役職を兼務している。

研究のために、研究者らは米国疾病対策予防センター(CDC)が実施している一連の年間ワクチンモニタリング調査である2010~2016年National Immunization Survey-Teen (NIS-Teen)からデータを取り出した。NIS-Teenは、子供のワクチン使用に関して、全国の親の代表的サンプルから情報を収集し、それぞれの子供の主治医から収集した情報をもとにワクチン接種率を確認した。

この調査には、調査期間中、親が自分の子供にHPVワクチンをまだ接種させていない場合、今後接種させるつもりかどうか、また、接種させないつもりである場合、なぜ接種させないことにしたのかという質問が含まれていた。研究チームは、上記質問に対する具体的な回答を分析したが、この質問は2010年から2016年まで毎年、行われた。2010年には、13~17歳の女児の親3,068人と男児の親7,236人からの回答があった。2016年には、13~17歳の女児の親1,633人と男児の親2,255人からの回答があった。質問は自由に回答する形式であり、親はリストから選択するというより各自で理由を記述することができた。

Rositch氏と、その共同研究者であるジョンズホプキンス医学校産婦人科のAnna Beavis助教(医師、公衆衛生学修士)とKimberly Levinson助教(医師、公衆衛生学修士)、およびジョンズホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生大学院公衆衛生学の元修士課程学生Melinda Krakow氏(公衆衛生学修士、博士)は、回答を「理由」ごとに分け、データを調査年と子供の性別で分けた。

分析の結果、女児の場合には、2010年から2016年まで、親がワクチンを接種させなかった理由のうち上位4項目は比較的安定していることがわかった。上位4項目は、安全性への不安(2010年にワクチンを接種させなかった親の23%が理由として挙げたのに対し、2016年には22%)、必要性の欠如(21%対20%)、 知識の欠如(14%対13%)および医師推奨がないこと(9%対10%)であった。子供に性行為がないことを挙げた人は、この期間でほぼ半減していた(19%対10%)。

男児の場合、2010年にワクチンを接種させなかった親が挙げた主な理由は、すべて時間の経過とともに減少した。必要性の欠如(24%対22%)、医師推奨がないこと(22%対17%)、知識の欠如(16%対14%)、子供に性行為がないこと(16%対9%)および性別による必要性(13%対2%)であった。しかしながら、顕著な点として、安全性への不安は、2010年の5%から2016年の14%へと増加した。研究者らは、なぜそうであるのかは不明であるが、2010年から2016年に、自分の子供に予防接種をさせない理由として、ワクチン接種反対に関連する不安を挙げた男児の親は1%に満たなかったことに注目している。つまり、安全性への不安という回答が、ワクチン接種反対の誤った情報に影響を受けたものである可能性は低いと言う。

Beavis氏は、彼女らの研究結果は、親がHPVワクチンと性別および性行為との関係にあまり関心がないことを証明しており、また、公衆衛生キャンペーンでは、親の本当の心配に応えるために、安全性に対する根強い懸念と、男児も女児もワクチンが必要であることに焦点を当てるべきである、と述べている。家族のかかりつけ医、産婦人科医および小児科医などHPVワクチンを通常投与する医師は、HPVワクチンにはがんを予防する大きな可能性が秘められており、10年にわたるワクチン投与から得られた確固たる安全性プロファイルがあるという事実に焦点を当てるべきである、とBeavis氏は述べている。

また、性行為への懸念からワクチン接種を回避する親が比較的少ないことをよく理解している医師ほど、親たちにこの話題を持ち出して、ワクチンを推奨する傾向が強いかもしれない。

「私たちは、すべての医師が毎年何万ものがんの発生を予防する可能性があるこのワクチンの推奨者でなければならないと考えています」とBeavis氏は述べた。「強く勧めることは、ワクチン接種率を上昇させる強力な手段です」。

American Sexual Health Associationによると、性活動を行うアメリカ人の最大80%が、生涯のどこかの時点でHPVに感染する可能性がある。これらの感染の大部分は無症状のうちに消えてなくなる。しかしながら、HPVが性感染すると、生殖器疣贅(イボ)および気道・消化器の上の良性腫瘍(喉頭乳頭腫症と呼ばれる状態)を引き起こすことがある。さらに、特定の株は、男性と女性の両方において、がんの形成を促進するDNAの変化を引き起こす可能性がある。

HPVは性交以外の手段で感染する可能性がある。Guttmacher Instituteは、性行為、性感染症、生殖医療に関する独立した研究を行っている機関であるが、15〜19歳のティーンエイジャーの推定50%が、異性のパートナーとオーラルセックスをしており、10人に1人は異性のパートナーとアナルセックスをしている、と報告している。

HPVワクチンは、HPVの9種の発がん性の株に対する防御が可能である。現在推奨されているワクチンの投与スケジュールでは、初回投与が15歳以前の場合には、2回の注射が必要であり、15歳以降の場合には、3回の注射が必要である。

関連リンク:

ヒトパピローマウイルス(HPV)について(英語)
HPV:すべての女性が知っておくべき5つのこと(英語)

===当サイト内記事
ヒトパピローマウイルス(HPV)とがん(NCIファクトシート)日本語

翻訳担当者 畔柳祐子

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター) 

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