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前立腺がん検診の推奨グレード(USPSTF)[2018年5月最新版]

* 米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、米国医療研究・品質調査機構(AHRQ)の独立委員会で、検診や予防医療の研究レビューを行って米国政府の推奨グレードを作成します。

米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、米国政府とは独立した立場で推奨内容をまとめています。本推奨内容は米国医療研究・品質調査機構(AHRQ)や米国保健福祉省の公式見解と解釈されるべきではありません。

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前立腺がん検診推奨グレード 最終更新版 

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【対象患者】55歳~69歳の男性

【推奨グレード(詳細は、推奨グレードの定義参照) 

 C(推奨しない)

【推奨事項】

55歳~69歳の男性においては、定期的に前立腺特異抗原(PSA)測定による検診を受けるかどうかは個人の判断にゆだねられるべきである。

検診を受けるかどうか決める前に、検診がもたらしうる有益性と弊害について医師と話し合う機会をもち、価値観や意向を組み込んで決定すべきである。患者によっては、検診を受けることで、前立腺がんにより死亡する確率を減らす可能性がわずかにある。

しかし、多くの人は検診により弊害を被る可能性がある。たとえば、追加検査や場合によっては前立腺生検が必要となる偽陽性の結果、あるいは過剰診断および過剰治療、また、失禁や勃起不全などの治療による合併症などである。

個々のケースで検診が適切かどうかを判断するためには、患者と医師が、家族歴、人種または民族性、併存疾患、検診の利点と弊害や治療結果に対する患者の価値観、その他の健康上の必要性に基づいて、検診の有益性と弊害のバランスを考慮するべきである。

患者が検診に対して意欲的でない場合は、医師は検診を実施するべきではない。

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【対象患者】70歳以上の男性 

【推奨グレード(詳細は、推奨グレードの定義参照)

 D(行わないことを推奨)

【推奨事項】

 USPSTFでは70歳以上の男性にはPSA値による検診を推奨しない。

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アフリカ系アメリカ人や前立腺がんの家族歴があるなどの高リスク群に関する検診情報は、下部「臨床上の検討事項」項を参照のこと。

USPSTF参考ページ(英語)、米国医師会雑誌(JAMA)推奨事項全文エビデンスサマリー参照。

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◆根拠◆

■ 重要性前立腺がんは男性でもっとも多いがんのひとつである。米国では、一生のうち前立腺がんと診断される危険性は約11%であり、前立腺がんでの生涯死亡リスクは2.5%である【1】。それら前立腺がんの多くは無症状で発見され、検診を受けなければ見つかることはなかったであろうがんである。前立腺がん以外の原因により死亡した男性の検死結果によると、50~59歳で20%以上、また70~79歳では33%以上の男性で前立腺がんが発見されている。一部の症例では、前立腺がんの悪性度が高く死に至るものもある。前立腺がんによる死亡年齢の中央値は80歳で、前立腺がんによる死亡者の3分の2以上が75歳以上である。アフリカ系アメリカ人は、他の人種または民族よりも前立腺がんで死亡する生涯リスクが高い(アフリカ系アメリカ人の死亡リスクは4.2%、ヒスパニック系で2.9%、白人で2.3%、アジアおよび太平洋諸島住民では2.1%)。

■ 検出方法

前立腺がんの検診は血中PSAタンパク質の測定から始まる。PSA測定値の上昇は前立腺がんにより見られるが、それ以外に前立腺が大きくなる前立腺肥大症や、前立腺の炎症(前立腺炎)などが原因の場合もある。よって、前立腺がんでなくても検診結果が陽性の場合もある(「偽陽性」という)。PSA検査が陽性の場合は、前立腺がん診断を目的に、経直腸超音波ガイド下針生検が実施されることがある。

■ 早期発見、早期治療の利益

前立腺がん検診の目的は、治療可能な高リスクの局所性前立腺がんを特定し、進行性または転移性の前立腺がんの罹患および死亡を予防することにある。ランダム化比較試験により、55~69歳の男性におけるPSA測定による検診の結果、13年間で1000人あたり約1.3人の割合で前立腺がんによる死亡を予防できたことが明らかになっている。さらに、検診プログラムにより、検診を受けた1000人あたり約3人の割合で転移性前立腺がんが予防できたとの報告もある。検診に関する治験の現時点での結果では、検診による全死因死亡率の低下は報告されていない。55~69歳の前立腺がんの家族歴を持つ男性およびアフリカ系アメリカ人男性において、検診の有益性が平均的なリスク集団と同じかどうかを評価するにはエビデンスは不十分である。また、高リスク群において検診を55歳以前から開始することの有益性を示すエビデンスも不十分である。PSA測定による検診が、70歳以上の男性における前立腺がんによる死亡率に対して有益性がないことは、複数のランダム化試験の結果が一致して示している。

■ 前立腺がんの早期発見と早期治療による不利益

前立腺がん検診による弊害には、PSA検診そのものによるものとその後の診断と治療によるものとがある。潜在的な不利益としては、しばしば偽陽性がみられることと精神的な不利益などである。2~4年ごとに検診を受けた男性を対象とした大規模な治験において、10年間で15%以上の男性が1度以上偽陽性を経験していると結論づけている。診断のための処置の弊害としては、疼痛、血精液症(精液または射精液中に血液が混ざること)、感染症などの前立腺生検に伴う合併症などである。前立腺生検を受けた約1%の患者に入院を必要とする合併症を引き起こす。生検による偽陽性および合併症の発生率は年齢が高くなるほど高くなっている。生検および診断時の処置による弊害は少なくとも存在することが十分に証明されている。PSA測定による検診を受けることで、本来であれば生涯前立腺がん症状が出ないままの患者にも前立腺がんの診断が下されることになる。その場合、治療による害はあっても利益にはならない。これは過剰診断と呼ばれるもので、大規模ランダム化試験の追跡調査によると、検診で前立腺がんと診断された患者のうち20~50%が過剰診断であると考えられている。過剰診断率は年齢が上がるとともに上昇し、70歳以上でもっとも高くなると考えられている。これは、年齢が上がるほど競合する原因で死亡するリスクが高くなるためである。前立腺がん治療による弊害には勃起不全、尿失禁、不快な腸症状などがある。前立腺全摘除術を受けた患者の約5人に1人が長期のパッド使用を必要とする尿失禁を来たし、3人に2人が長期の勃起不全を経験する。放射線治療を受けた患者の半数以上が長期の性的勃起不全を経験し、最大で6人に1人が、便意切迫や便失禁といった不快な腸症状を長期間患う。過剰診断と治療には少なくともある程度の弊害を伴うことを明確に表している。70歳を過ぎた男性においては、検診による弊害は少なくとも中等度であり、70歳以下の男性に比べ、偽陽性、診断的生検や治療の弊害といったリスクが高くなるため、不利益の程度も大きくなることが明らかにされている。

■ USPSTF評価

PSA測定による前立腺がん検診は利益と不利益の両方をもたらす可能性がある。USPSTFでは、患者に情報を提供し、検診の利益と不利益を理解したうえで検診を希望する場合でなければ、前立腺がん検診を勧めるべきではないとしている。検診を受けるかどうかは各患者が利益と不利益に対する価値観や意向を組み込んで決定すべきである。検診、診断処置、および治療による弊害は検診後すぐに起こりうる。潜在的利益については検診後どの時期でも得られうるが、一般的には、治療の数年後となる。というのも、検診で発見された無症状のがんが、(もし起こるとして)症状を伴う転移がんまたは死亡に至るには、数年から数十年かかるからである。USPSTFは、55~69歳の男性においてはPSA測定による前立腺がん検診全体の有益性は小さいとある程度確信を持って結論付けている。各人が特定の利益と不利益をどのように評価するかによって全体の利益が小さいかどうかは決まるであろう。USPSTFは、70歳以上の男性においてはPSA測定による前立腺がん検診の利益は、起こりうる不利益を上回ることはないと、ある程度確信を持って結論付けている。

 

  ◆臨床上の検討事項◆

■ 対象の患者

本推奨事項は、米国の一般集団のうち前立腺がんの症状がない、または前立腺がんの診断を受けたことのない成人男性を対象にしている。加えて、人種や民族性または前立腺がんの家族歴などの要因により前立腺がんによる死亡リスクの高い男性も対象とする。後項にアフリカ系アメリカ人男性および前立腺がんの家族歴がある男性を本推奨事項の対象に加えた経緯について詳細情報を記載する。

■ リスク評価

高齢、アフリカ系アメリカ人、および前立腺がんの家族歴を有することは前立腺がん発症の最も重要なリスク要因である。その他に関連性が弱く、またエビデンスが比較的十分でない要因として脂肪分が多く野菜の摂取が少ない食事が挙げられる。喫煙は前立腺がんの死亡リスクを高める。

■ 検診

PSA検診は一般的な検診方法であり、複数の大規模試験で研究されている。新たな検診方法(単一および補正閾値試験やPSA上昇速度およびPSA倍加時間など)が開発されているが、PSA検診についてある方法が別の方法より優れていると支持するにはエビデンスが不十分である。遊離PSA値の測定の有無にかかわらず、生検前のリスク計算や遺伝的または補助的画像検査を実施すると検診の潜在的な利益と不利益に有意な変化をもたらすというエビデンスも不十分である。これは前立腺がんのPSA検診の不利益を減らす可能性のある最新の研究の重要な領域である。検診方法として直腸指診の実施はその利益についてのエビデンスが不十分なため推奨されず、直腸指診は主な検診試験から除外または含まれなかった。

前立腺がんのPSA検診は、米国で行われた前立腺、肺、大腸、卵巣(PLCO)がん検診試験、欧州ランダム化前立腺がん検診試験(ERSPC)およびクラスターランダム化前立腺がんPSA検診(CAP)の3つの超大規模ランダム化臨床試験で研究されており、それぞれ少なくとも中央値10年の経過観察を実施している。これらの臨床試験にはさまざまな検診間隔(1回のみから1~4年に一度)および診断的生検を実施するさまざまなPSA閾値(2.5~10.0 ng/mL)が用いられている。

PLCO試験は、対照群の検診率が高く、試験参加前の検診率が対照群と介入群双方とも高いため、組織的前立腺がん検診と任意型前立腺がん検診を比較する試験とみなされる場合がある。対照群の男性と比較して介入群の男性は頻繁に検診を受けており、介入群の男性は対照群の男性より前立腺がんと診断される人が多かった。ほぼ15年に及ぶ経過観察後の前立腺がんの死亡について介入群と対照群の差異は見られなかった(絶対リスクは介入群と対照群で1000人年あたり4.8%vs4.6%、相対リスク[RR]は1.04[95% CI、0.87-1.24])。

ERSPC試験では、全体として13年後に男性一人が前立腺がんによる死亡を防ぐのに必要な検診受診者数は、試験参加時55~69歳男性が781人(95%CI、490-1929)という結果が示唆されている。この結果は個々のERSPC参加施設により異なり、オランダおよびスウェーデンの施設のみで前立腺がんの死亡率が有意に減少した。しかしスイスを除くすべての施設が検診を支持する推定値であった。最大規模の参加施設(フィンランド)では前立腺がんの死亡率について有意な利益は見られず(率比、0.91[95% CI、0.75-1.10])、またスウェーデンでは絶対リスク減少率が0.72%、相対的減少率が42%であった。

ERSPCの4施設で12年の経過観察後の転移がん発症に対する前立腺がんPSA検診の効果についてのデータが報告された。転移性前立腺がんの発症リスクは対照群の男性と比較して検診に割り付けられた男性のほうが30%低かった(絶対リスクは検診群と対照群では1000人あたり7.05vs10.14。試験者数で算定)。この結果は長期にわたる転移性前立腺がんリスク減少の絶対値が検診を受けた男性1000人あたり3.1例と言い換えることができる。

CAP試験はクラスターランダム化試験で英国の男性415,357人にPSA検診の案内を一回行った。全体で、案内を受けた男性の34%が有効なPSA検診を受診した。中央値10年の経過観察後、案内を受けた群と対照群との間で前立腺がん死亡率の有意差は見られなかった(絶対リスクは1000人年あたり0.30vs0.31)。

前立腺がんは、臨床病期、腫瘍グレードおよびPSA値に基づき、臨床的進行や前立腺がん死亡のリスクレベルに従って低リスク、中リスク、高リスクに分類される。治療は中~高リスクの前立腺がん男性が最も短期間に効果があると考えられているが、検診で検出されたがんの大半は低リスクである。

他のあらゆる検診試験同様、前立腺がんでない男性の中にPSA検診結果が陽性(すなわち「偽陽性」結果)となる人がいる。PSA検診の偽陽性率は用いるPSA閾値によって異なる。偽陽性率を報告したERSPC試験の5つの施設において、1回以上の検診を受けた参加者の約6人中1人が少なくとも一度は一回以上偽陽性の結果となり、初回の検診結果が陽性だったもののうち3分の2が偽陽性(実際にはがんではない)であった。スウェーデンでは、陽性の試験結果の判定に低いPSA閾値(3.0ng/mL)を用い、男性は2年毎に検診を受診するが、10年に及ぶ検診において検診を全回とも参加した男性のうち、45%以上が偽陽性となった。PLCO試験では、PSA検査結果が陽性だったため前立腺生検を受けた男性の3分の2以上が前立腺がんでないことが明らかになった。偽陽性結果に加えて、検診およびその後の診断的評価に関連するその他の不利益があり、生検は疼痛、発熱、血精液症および入院を伴うことがある。

3つの大規模検診ランダム化対照試験には主に55~69歳の男性が参加した。平均リスク集団において、より若年で検診を開始することや、ベースラインPSA値を得ることについてのエビデンスは不十分である。試験での利益のエビデンスが不十分で、利益を得るまでの時間を考えると有益である可能性が低く、また偽陽性の結果、生検、過剰診断および治療による弊害のリスクが高いため70歳以上の男性の定期検診を支持するエビデンスはない。70歳以上の男性の定期診断を支持するエビデンスはないが、USPSTFは実際に、今日PSA検診が一般的に利用されていることを認識し、年配の男性の中には検診を希望し続ける人もおり、医師の中にも検診を提供し続ける人もいることを理解している。検診を希望する70歳以上の男性は、検診により利益が減少する可能性や、偽陽性結果や診断と治療の合併症のリスクが高まることを認識すべきである。

USPSTFは潜在的な不利益を減少させると同時に、潜在的な利益を向上させる検診や経過観察方法の有無を考慮した。検診間隔を長期間あけるよりも1年毎に検診を受診したり、診断的生検に低PSA閾値を用いたりするほうが死亡率においてより有益である可能性のあることが検診のランダム化試験施設の差異により示唆されている。このような検診方法は研究で報告された潜在的な利益を向上させたかもしれないが、実質的にさらに不利益(偽陽性率、前立腺生検、過剰診断の増加)をもたらす結果にもなった。このような相殺関係は決定分析モデルの検討でも確認され、生検で低PSA閾値(4.0 ng/mL未満)を用いて短い間隔で検診を頻繁に実施するプロトコールでは、前立腺がん死亡率が減少する可能性は高くなるが過剰診断やその他弊害を被る率も上昇する。ERSCP試験施設での検診の頻度は2~7年毎であった。ERSCP試験施設では隔年より短い間隔で検診を実施したところはなく、多くの会場では4年毎に検診を実施した。ERSCPの試験施設の生検PSA閾値は2.5~4 ng/mL(ベルギーの試験施設について初期の10 ng/mLは除く)であった。最大の利益を報告したスウェーデンのエーテボリの試験施設では検診は2年毎に実施され、生検の閾値は2.5 ng/mL(試験の最初の数年間は3.0 ng/mL)であった。

■ 治療

前立腺がん検診が潜在的に有益である理由は治療にある。従って、男性が検診を受診すべきかどうか考慮する際に、(積極的監視を含む)治療の利益と不利益の両方を考慮することが重要である。治療に耐えられない、または耐えたくない男性は前立腺がん検診を受診すべきではない。前立腺がんは、進行する場合でも非常にゆっくりである場合が大半であるため、検診で検出した局所前立腺がんの10年生存率は非常に高い。積極的治療と積極的監視のいずれかに無作為に割り当てられた男性1500人が参加した最近実施された大規模試験では、全群とも10年生存率が99%であった。早期前立腺がんの予後が良好なため、治療の有効性を調査するのは困難である。

前立腺がん治療には複数の選択肢があり、新しい治療が開発されている。現在は、検診で検出された局所前立腺がん男性の最も一般的な治療の選択肢は、前立腺の外科的切除(前立腺全摘除術)、放射線療法(外照射療法、陽子線治療または小線源治療)および監視療法の3つである。USPSTFは、検診の有効性を評価する際に入手可能な治療のエビデンスを検討し、検診で検出された早期前立腺がんを前立腺全摘除術または放射線治療で治療した場合、臨床的進行および転移性疾患のリスクが減少する可能性があり、前立腺がんの死亡を減少させるかもしれないという最新のエビデンスを確認した。積極的治療の有効性および有害事象の詳細は考察の項に記載されている。

監視療法(AS:Active surveillance)は、明らかにリスクの低い前立腺がんの男性に対し、外科手術や放射線治療を行なわずに、がんの観察を継続することにより治療の不利益を制限することを目的とした治療法である。プロトコルはさまざまであるが、監視療法には通常、定期的なPSA値測定、高頻度の直腸指診、前立腺生検が含まれており、前立腺生検によって何度も不利益を被る可能性がある。がんに変化が認められる男性は外科手術または放射線療法による根治的治療を受けることを提案される。リスクの低いがん男性を観察する別の治療方法(例えば待機療法)があり、プロトコルにより異なる。過去数年間、米国では監視療法がより一般的な治療選択となっている。2010年から2013年にかけて実施された米国の地域社会に基づく泌尿器科の診療を評価する試験では、低リスクの前立腺がん男性のおよそ半数が前立腺全摘除術を受けた。その一方で、低リスクの前立腺がん男性の監視療法の割合は2005~2009年の約10%から2010~2013年の40.4%に増加した。

前立腺がんの積極的治療は深刻な有害事象につながる可能性がある。1000人中約3人の男性が前立腺全摘除術中または術後早期に死亡し、1000人中約50人の男性が治療介入の必要となる重篤な外科合併症になる可能性がある。前立腺全摘除術を受けた男性の5人中約1人が尿漏れパッドの定期的使用が必要になる長期にわたる尿失禁に、3人中約2人が長期にわたる勃起障害となる。放射線治療を受けた男性の半数以上が長期にわたる勃起障害になり、6人に1人以下の男性が長期にわたる排便の切迫感や便失禁など厄介な消化管症状を呈する。

■ アフリカ系アメリカ人男性の前立腺がん検診

 負担

米国では、白人男性と比較してアフリカ系アメリカ人男性のほうが前立腺がんを発症する可能性が高い(男性100,000人あたり203.5 vs 121.9人)。またアフリカ系アメリカ人男性の前立腺がんの死亡は白人男性の2倍以上(男性100,000人あたり44.1 vs 19.1件)である。このように死亡率が高いのは、一つにはがんを発症する年齢が早く、診断時にがんのステージが進行しており、より侵襲性の強いがん(例えば腫瘍悪性度が高い)の率が高いためである。前立腺がんの死亡についてこのような差異があるのは、アフリカ系アメリカ人男性のほうが高品質のケアを受ける率が低いということが反映されている可能性がある。

入手可能なエビデンス

USPSTFはアフリカ系アメリカ人男性の前立腺がんPSA検診の潜在的な利益と不利益についてのエビデンスを調査した。

潜在的利益

PLCO試験に参加したアフリカ系アメリカ人男性は4%であり、アフリカ系アメリカ人人男性について全体の試験結果が異なるかどうかを判断するのに十分でない。ERSPC試験は人種に特化したサブグループの情報を記録または報告していない。試験期間中の欧州の国々ではアフリカ系の人の割合が少なかったためこのような人種群が十分に示されなかった可能性がある。

潜在的不利益

白人男性と比較してアフリカ系アメリカ人男性のほうが生検後重篤な感染症にかかる場合が有意に多いことがPLCO試験の分析で明らかになった(オッズ比:[OR]、7.1[95% CI、2.7-18.0])。偽陽性結果を受け取るリスク、過剰診断の可能性、前立腺がん治療の不利益の規模をアフリカ系アメリカ人男性とその他の男性間で比較するにはエビデンスが不十分である。

アフリカ系アメリカ人男性へのアドバイス

入手可能なエビデンスに基づき、USPSTFはアフリカ系アメリカ人男性の前立腺がんPSA検診について個別に具体的な推奨を行うことができない。検診は一般集団と比較してアフリカ系アメリカ人男性にとってより有益である可能性はあるが、これが正しいかどうかは現在のところ直接的なエビデンスで証明されていない。検診、またその後の診断および治療により潜在的弊害への曝露が増す可能性がある。アフリカ系アメリカ人男性に侵襲性前立腺がんの割合が高いとすれば、PSA検診は一般集団と比較してアフリカ系アメリカ人男性にとってより有益であることが意思決定分析モデルで示唆されている。この意思分析モデルより、アフリカ系アメリカ人男性が55歳までに検診を開始した場合、その死亡率に潜在的な利益があることも示唆されている。臨床医にとって合理的な方法とは、十分に説明を受けた上で検診を受診するべきかどうか個人で決定できるようアフリカ系アメリカ人男性に前立腺がん発症と死亡のリスク増加と検診の潜在的な利益と不利益を伝えることであるとUSPSTFは考える。アフリカ系アメリカ人男性にとって利益がどの程度異なるかについてエビデンスが不十分であることをUSPSTFは確認したが、平均リスクの男性と比較してアフリカ系アメリカ人男性のほうが若年で前立腺がんにかかる可能性が高いことを示す疫学データを認識しており、アフリカ系アメリカ人男性や臨床医の中に若年検診を続ける人たちもいることを理解している。USPSTFは70歳以上の男性(アフリカ系アメリカ人男性も含む)に対し前立腺がんの検診を推奨していない。

USPSTFはアフリカ系アメリカ人男性の前立腺がん検診および治療の研究を強く推奨する。検診の価値を十分理解するため潜在的な利益と不利益の両方をさらに熟慮することが重要である。検診を受診したアフリカ系アメリカ人男性の前立腺がん死亡率が一般集団の男性と同等なのか大幅に低いのかを確認し、また最適な検診頻度および55歳より前に検診受診を開始した場合にアフリカ系アメリカ人男性はさらに恩恵を受けるのかを調査するための研究が必要である。アフリカ系アメリカ人男性の検診、診断的経過観察および治療(監視療法を含む)の弊害を軽減し利益を最大限にする方法を十分に把握する研究も必要である。研究と品質改善活動によって前立腺がんの男性の高品質ケア利用の格差が解消するよう取り組み続けることも重要である。

■ 家族歴のある男性に対する前立腺がん検診 

負担

前立腺がんPSA検診が導入されたことにより、前立腺がんの疫学データが大幅に改定され、前立腺がん診断を受診した男性の人数が大幅に増加し、その結果前立腺がんの家族歴のある父親、兄弟または息子のいる男性の人数も増加した。

入手可能なエビデンス

前立腺がんの家族歴がある男性は前立腺がんを発症する可能性が高いことが一般に認められている。スカンジナビアの双子の研究で前立腺がんリスクの遺伝因子は最大42%を占めていると推定された。前立腺がんの家族歴がない男性と比較して少なくとも一親等血縁者に前立腺がんのある男性は前立腺がん診断を受ける可能性が30%高いとERSPC試験のフィンランド施設の分析により結論された。一親等血縁者に3名の前立腺がん患者がいるか、55歳以前に前立腺がんと診断された一親等の親族が2名家系の同側にいる場合、世代から世代へと伝わる遺伝子変化に関連する遺伝性の前立腺がん保有している可能性がある。この種の前立腺がんは前立腺がんの全症例の10%未満と考えられている。

USPSTFは前立腺がんの家族歴のある男性の前立腺がんPSA検診の潜在的な利益と不利益についてのエビデンスを精査した。

潜在的な利益

ベースライン時の質問票調査で前立腺がんの家族歴を報告したPLCO試験に参加した男性の7%のうち、白人男性の前立腺がん死亡率は対照群と比較して介入群のほうが低かった(ハザード比:[HR]、0.49[95% CI、0.22-1.10];P = 0.08)が、有意差はなく信頼区間は広かった。

潜在的な不利益

前立腺がんの家族歴に基づいた前立腺がんの検診、診断または治療に関連する有害性のリスクを評価した試験はない。

前立腺がんの家族歴のある男性へのアドバイス

入手可能なエビデンスに基づき、USPSTFは前立腺がんの家族歴のある男性の前立腺がんPSA検診について個別に具体的な推奨を行うことができない。検診は一般集団と比較して家族歴のある男性にとってより有益である可能性があるが、特にがんと過剰診断された血縁者のいる男性に対しては、潜在的不利益への曝露が増す可能性がある。前立腺がんが診断時に進行がんであった、あるいはがんが転移したりがんで亡くなっている一親等血縁者がいる男性は恐らく検診の恩恵を最も受けやすい。臨床医にとって合理的な方法とは、十分に説明を受けた上で検診を受診するべきかどうか個人で決定できるよう前立腺がんの家族歴のある男性、特に前立腺がんの血縁者が一親等に複数いる男性に前立腺がん発症のリスク増加と若年で発症するリスクを伝えることであるとUSPSTFは考える。前立腺がんの家族歴のある男性が、十分に説明を受けた上で検診を受診するべきかどうか個人で決定できるよう前立腺がん診断の潜在的な利益と不利益を考察に含むべきである。前立腺がんの家族歴がある男性について利益がどの程度異なるかについてエビデンスが不十分であることをUSPSTFは確認したが、平均リスクの男性と比較して家族歴のある男性のほうが若年で前立腺がんに罹患する可能性が高いことを示す疫学データを認識しており、前立腺がんの家族歴のある男性や臨床医の中に若年検診を続ける人たちもいることを理解している。USPSTFは70歳以上の男性(前立腺がんの家族歴のある男性)に対し前立腺がんの検診を推奨していない。

前立腺がんで亡くなった血縁者のいる男性と前立腺がんと診断されたがその他の原因で亡くなった血縁者のいる男性との比較結果を研究する疫学調査によりさらに良い指導が実施できるようになる可能性がある。最適な検診頻度および55歳より前に検診受診を開始した場合に前立腺がんの家族歴のある男性はさらに恩恵を受けるのかを調査する研究が必要である。また、遺伝的な形式の前立腺がんを有する男性を特定するのに役立つ研究や、家族歴のある男性の検診の間隔や開始年齢を含む検診の潜在的な利益と弊害はどの程度一般集団と異なるのかを把握するための研究も必要である。

研究の必要性とギャップ

前立腺がんの検診および治療向上のための研究が必要な分野が多い。例えば、

・利益と不利益に対する効果を十分把握するため、検診戦略(異なる検診間隔を含む)の比較。

・過剰診断や過剰治療を減らすため、症状が現れ、生活の質や寿命に影響するがんと非進行および緩徐進行性がんとを区別することが可能となるリスク層別化ツール、リスク要因としてベースラインPSA値の使用および非PSA値による補助的試験を含む長期にわたる検診の経過観察および診断手法の開発、検証および提供。

・検診開始年齢や検診間隔の違いによる潜在的な利益および不利益、監視療法の利用の把握を含む、アフリカ系アメリカ人男性の前立腺がんの検診および治療。アフリカ系アメリカ人男性の前立腺がん死亡率における大幅な格差を考えると、これは国家的優先事項であるべきである。

・前立腺がんで亡くなった親族のいる男性と前立腺がんと診断されたが別の原因で亡くなった男性との間に潜在的格差が存在することを含め、前立腺がん家族歴のある男性に前立腺がんPSA検診の利益と不利益を上手に伝える方法。

・不利益を最小限にするための積極的前立腺がん治療の改良方法。

前立腺がん検診および治療の既知の利益と不利益について、患者の価値観を十分に理解する方法。男性の全体的な利益と不利益の評価について患者の価値観が与える影響。検診について男性とその家族の価値観と意向を取り入れた、十分に説明を受けた上で行う意思決定のプログラムを実施する最良の方法。検診、診断および治療戦略が進化するにつれて、十分に説明を受けた上での意思決定のプロセスをさまざまな患者集団に適応する方法。十分に説明を受けた上での意思決定が健康面での成果と患者の経験に与える影響。

 

◆ Discussion (訳省略)

◆ Update of Previous USPSTF Recommendation (訳省略)

その他の推奨

米国家庭医学会とCanadian Task Force on Preventive Health Careは、前立腺がんのPSAによる検診を推奨していない。米国内科学会は、医師が50~69歳の男性と検診の有益性および弊害について話し合い、その結果男性が検診を優先し、かつ期待余命が10~15年以上ある場合にのみ検診を行うことを推奨している。米国泌尿器科学会は、55~69歳で期待余命が10~15年以上の男性に検診の有益性と弊害について伝え、個人の価値観や意向を考慮して担当医と意思決定を共有することを推奨している 。検診の間隔は、弊害を減らすためにも2年以上の間隔をおくべきであると記している。また、米国泌尿器科学会は、55歳以下での検診の開始を含めた検診の決定は、アフリカ系アメリカ人の男性や前立腺がんの家族歴がある男性に対して個別に行うべきであると指摘している。アメリカがん協会は2016年、検診に関する詳細な推奨を採択した。この中で、意思決定の共有の重要性と検診の不確実性、リスク、および有益性について話し合う必要性を強調している。また、アフリカ系アメリカ人男性および65歳以下で前立腺がんを発症した病歴のある父親または兄弟をもつ男性と50歳以下での検診開始について話し合うことを推奨している。

著作権と出典情報

著作権表示:USPSTFによる推奨は、査読されたエビデンスの厳格なレビューに基づいており、医療従事者と患者が共に予防医療が患者のニーズにあっているかどうかを決める助けとなることを意図している。USPSTF推奨をより広く議論、検討、採用、実施するために、米国著作権法に基づいた公正な使用として許可されている場合を除き、USPSTFの著作物あるいはその一部を変更しない限りにおいて複製、再配布、公開したり、他の文書に組み込むことをAHRQは公に許可する。

   

◆Members of the U.S. Preventive Services Task Force (訳省略)

著作権と出典情報

著作権表示:USPSTFによる推奨は、査読されたエビデンスの厳格なレビューに基づいており、医療従事者と患者が共に予防医療が患者のニーズにあっているかどうかを決める助けとなることを意図している。USPSTF推奨をより広く議論、検討、採用、実施するために、米国著作権法に基づいた公正な使用として許可されている場合を除き、USPSTFの著作物あるいはその一部を変更しない限りにおいて複製、再配布、公開したり、他の文書に組み込むことをAHRQは公に許可する。

 その他、訳省略 

 

2018年5月更新

*サイト注:訳を省略した部分については原文を参照ください。一部下線は重要なデータとして当サイトで挿入しました。

 

翻訳山本 裕子、松長 愛美、工藤 章子

監修榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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原文掲載日

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