リキッドバイオプシーが進行前立腺がんの治療標的を提示

専門家の見解

「がんを増殖させる分子変化に対応する、患者ごとに合わせた治療を計画する際に、これらの血液検査は極めて有望と思われます。これは特に、腫瘍生検を受けることができない患者に当てはまります」、とASCOの専門委員で本日のプレスキャスト(インターネット生放送による記者会見)の司会者Sumanta Pal医師は語った。

血液検体中のがんDNAを解析することにより、前立腺がんにおける新たな治療標的の候補が得られた。進行前立腺がん患者に対し市販の「リキッドバイオプシー」検査を用い、研究者らはがん細胞から遊離した血中の腫瘍DNA(ctDNA)の遺伝子変化を数多く発見した。ctDNAは患者の循環血液中の腫瘍DNAである。本試験は、オーランドで近く行われる2017年泌尿生殖器がんシンポジウム(Genitourinary Cancers Symposium 2017)で発表予定である。

ctDNAから、腫瘍のさまざまな遺伝子変化すべてに関し、包括的な情報を得られる。今日、この腫瘍の遺伝子変化に合わせた治療が可能な場合もあるが、これらの変化は経時的に進展する。このctDNA検査を用いて新たな遺伝子変化を追跡することができ、この情報を用いて耐性が生じた治療を中止し、患者を別の治療に切り替えることが出来る。

本試験では、研究者らは腫瘍が治療に対して抵抗性となる際に生じると考えられる遺伝子変化だけでなく、予後不良に関連する遺伝子変化も発見した。この血液検査で発見されたctDNAの変化は、腫瘍組織検体の解析ですでに報告されている変化とほぼ同じである。このことにより、ctDNA検査が組織生検の代替として実行可能となり得ることが示唆される。

「現在、この血液循環腫瘍DNA検査は新たな標的分子を発見するのに有益な研究手段です」、と研究の筆頭著者であるGuru Sonpavde医師は語った。同医師は、アラバマ州バーミングハムにあるアラバマ大学医学部の准教授である。また、「ついには、この血液循環腫瘍DNA検査は、組織生検が安全に施行できない、あるいは実施できない場合に従来の腫瘍生検に対する非侵襲的な代替法となる可能性があります。しかし、前向き比較対照臨床試験を行い、この血液検査から得た分子情報に基づく治療選択により患者転帰が好転することを確認する必要があります」とも語った。

試験

研究者らは、転移性去勢抵抗性前立腺がん患者514人の血液検体から得たctDNAを解析した。この血液検査(Guardant360)では、ティースプーン2杯分程度の患者の血液で、がん関連遺伝子70個の変化を検査した。このDNAの変化と臨床転帰との間の関連性を患者163人で検討した。さらに、研究者らは連続して(定期的に)血液検査を受けた患者64人において、遺伝子変化の経時的進展について検討した。

主な知見

ほぼすべて(94%)の患者において、ctDNAの変化が1個以上認められた。アンドロゲン受容体(AR)遺伝子の変化など、遺伝子変化の総数が多いほど、生存期間が短縮する傾向(しかし、生存期間の差は統計学上有意ではなかった)など、治療転帰がより不良であることに関連した。

きわめて頻繁に変異が認められた遺伝子は、TP53 (36%)、AR (22%)、APC (10%)、NF1 (9%)、EGFR、CTNNB1およびARID1A (各6%)、ならびにBRCA1、BRCA2およびPIK3CA (各5%)などであった。コピー数が増加した遺伝子でもっとも多くみられたものは、AR(30%)、MYC (20%)、およびBRAF(18%)であった(がん遺伝子のコピー数が増加することはがんを増殖させるタンパク質の過剰をもたらす可能性がある)。現在のところ、これらの特異的な遺伝子変異を標的とする前立腺がんの治療法で承認されているものはないが、いくつかの治療法は臨床試験で検証中である。

この血液検査を定期的に受けた患者群では、特にAR遺伝子の新たな変化がよく認められる。研究者らによると、この知見はARの変異を標的とする治療法の開発が期待されることを示唆している。

前立腺がんについて

前立腺がんは、米国の男性において最も好発する種類のがんである。米国では、2017年には161,360人の男性が前立腺がんと診断されると推定される。また、前立腺がんは、がんによる主要死因としては3番目に多く、今年は27,000人近くが死亡すると予測される。

本試験は資金提供を受けておらず、Guardant Health社より非特定化データの提供を受けた。

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翻訳担当者 三浦 恵子

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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