高リスク前立腺がんの治療ー放射線か手術か
新規に診断された高リスク前立腺がんに対して、根治的前立腺全摘除術と放射線治療+アンドロゲン除去療法(ADT)のどちらがより有効か長らく議論されてきた。
今回報告された研究ではその疑問を明らかにするため、2つの大規模第3相ランダム化比較試験から高リスク前立腺がん患者合計1290人(放射線ベースのNRG/RTOG 0521試験から557人、手術ベースのCALGB 90203試験から733人)の個別データを統合解析した。追跡期間は中央値6.4年であった。
解析の結果、8年時点での累積遠隔転移率は手術群が22%であったのに対し、放射線群は15%と低く、放射線治療によって32%の相対的リスク低減が認められた。さらに、生化学的再発率も手術群では68%であったのに対し、放射線群では32%にとどまり、有意に低い値を示した。進行率も放射線群が35%、手術群が74%と、放射線群が低かった。一方で、がん特異的生存率および全生存率には両群間で有意差は認められず、最終的な死亡リスクに関しては治療法による違いはみられなかった。
責任著者のDaniel E. Spratt医師(シードマンがんセンター放射線腫瘍科、オハイオ州クリーブランド) は、今回の研究は、議論を前進させるが決着をつけるものではないと言う。疾患の制御や追加治療の回避において放射線療法+ADTが優れている可能性を示唆しているが、手術と放射線療法を直接比較する結果については、現在進行中のスウェーデンのSPCG-15試験からより明確なデータを得られるだろうと説明する。
トーマス・ジェファーソン大学病院腫瘍内科部長のWilliam K. Kelly医師(オステオパシー医師)は、全体としてがん特異的生存率に差がないことから「根本的な疑問にはまだ答えが出ていない」と指摘する。Mani Menon医師(マウントサイナイ・ヘルスシステム、ティッシュがん研究所、前立腺がんセンター・オブ・エクセレンス) は「興味深い」結果ではあるが、現時点で放射線が優れていると断言するのは時期尚早と述べた。
Spratt氏、Kelly氏、Menon氏の3人の見解はいずれも「治療は個別化する必要がある」との点で一致した。
Spratt氏は「全ての患者さんは泌尿器腫瘍専門医と放射線腫瘍専門医の両方に診察を受け、治療選択肢について話し合う必要があります」と述べる。Menon氏は具体例を挙げ、75歳の進行例では「手術は再考するであろう」が、「65歳で同じ疾患の患者さんであれば、これまでの治療方針を変える理由はあまり見当たりません。この場合は手術でしょう」と述べた。Kelly氏は「高リスク前立腺がんは不均一な患者集団であり、個々の患者さんに最適な局所治療や全身治療を明らかにするためには、さらなる研究が必要です」と述べた。同氏はさらに「私たちが患者さんをカウンセリングする際には、腫瘍の特徴や転帰を複雑にしうる併存疾患についてだけではなく、短期的および長期的な治療目標をも考慮する必要があります」と付け加えた。
本研究は前立腺がん財団の支援を受けた。
- 監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
- 記事担当者 平沢沙枝
- 原文掲載日 2025/08
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