HPVワクチンとCRPS、POTSの因果関係はないと結論(欧州医薬品庁レビュー)

欧州医薬品庁(EMA)は、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種後に報告された複合性局所疼痛症候群(CRPS)、体位性頻脈症候群(POTS)についてレビューを実施し、これらの報告はワクチン対象年齢層で想定される範囲内であると結論した。

 議題:疫学/病因学/がん予防

EMAは2015年11月5日、医薬品安全性監視リスク評価委員会(PRAC)が、HPVワクチンを接種した若年女性で報告されたCRPS、POTSに関するエビデンスについて、詳細な科学的レビューを完了したと発表した。HPVワクチンは子宮頸がん予防、およびHPVに関連するがんと前がん病変の予防の目的で接種される。このレビューでは、HPVワクチン(サーバリックス[Cervarix]、ガーダシル[Gardasil]/シルガード[Silgard]、ガーダシル-9[Gardasil-9])とCRPSもしくはPOTSの発症との関連を、エビデンスが支持していないと結論した。したがって、ワクチンの接種方法の変更、あるいは現在の製品情報修正を行う理由はないというものである。

CRPSは四肢に影響がおよぶ慢性疼痛症候群である。一方、POTSは座ったり立ち上がる際に心拍数が異常に上昇する状態で、頭痛や痛み・疼痛、悪心、疲労と同時に、めまいや失神、衰弱といった症状が現れる。こうした症状により生活の質が著しく損なわれる患者もいる。これらの症候群は、ワクチンを接種、接種しないにかかわらず、青年期を含め一般集団でも起こると認識されている。

PRAC(医薬品安全性監視リスク評価委員会)は公表された研究データを徹底的に調査した。加盟国から寄せられたデータとともに、臨床試験データ、および患者や医療従事者から報告された副作用と疑われるものも含まれた。またPRACは、その領域の代表的な専門家にも相談し、多くの患者集団から寄せられた詳細な情報も考慮に入れた。患者集団からの情報は、これらの症候群が患者やその家族におよぼす影響を強調しているものでもある。

CRPS、およびPOTSの症状は他の状態と重複することがあり、一般集団、ワクチン接種集団のいずれにしても診断するのは困難である。しかし、一般集団の10~19歳の若年女性100万人あたり、CRPSを発症するのは年間およそ150人、POTSは少なくとも年間150人と予測される。このレビューでは、ワクチンを接種した若年女性集団のうち、これらの症候群を発症する全体の割合が、上記年齢層の一般集団で予測される割合と異なるというエビデンスはなかったとしている。過少報告の可能性を考慮したとしても、である。PRACは、CRPSとPOTSのいくつかの症状は慢性疲労症候群(CFS、または筋痛性脳脊髄炎(ME)として知られている)と重なることに注意を要するとしている。レビューに取り上げられた多くの報告にCFSの特徴があり、POTS、CFSの両方と診断された患者も認められた。HPVワクチンとCFSの間に関連がないと発表された大規模研究の結果は、きわめて妥当である。

PRACは、現在得られているエビデンスからは、CRPS、およびPOTSがHPVワクチンにより引き起こされるとはいえないと結論した。したがって、ワクチンの使用方法の変更、あるいは現在の製品情報を修正する理由はない。

このレビューで確認されたところによると、全世界の少女・女性の8000万人以上にHPVワクチンが接種されており、欧州では、ワクチン推奨年齢集団の90%に接種された国もある。HPVワクチンは子宮頸がんの多くや、HPVが原因となる他のさまざまながんや病変を予防するとして期待されている。したがって、HPVワクチンのベネフィットはリスクを上回っていくと見込まれる。これらHPVワクチンの安全性はすべての医薬品と同様、注意深い監視が継続されていく。

PRACのその推奨は現在、欧州医薬品委員会(CHMP)に提出され、最終決定として採択される見込みである。PRACのレビューを支持するエビデンスは、CHMPの協議を経て、査定報告として公表される予定である。

欧州連合(EU)では、ガーダシル/Silgard、ガーダシル-9、およびサーバリックスの製品名のHPVワクチンが用いられている。ガーダシルは2006年9月から認可されており、子宮頸部・肛門の前がん病変増殖とがんの予防、および性器疣贅(いぼ)(尖圭コンジローム)の予防の適応で、男性、女性の双方を対象に承認されている。ガーダシルは4つの型のHPV(6、11、16、18型)の感染を防ぐ。2015年6月に承認されたガーダシル-9も同様の適応で用いられるが、9つの型のHPV(6、11、16、18、31、33、45、52、58型)の感染を防ぐ。サーバリックスは2007年9月から承認されており、女性・少女の子宮頸部・性器領域の前がん病変の増殖とがんの予防の目的で接種される。サーバリックスはHPV-16、-18型に活性を有する。これらのワクチンは承認後、多くの国々で予防接種プログラムに導入された。全世界の少女・女性6300万人以上がガーダシル/Silgardを、1900万人以上がサーバリックスを、すでに接種されたと推定されている。

欧州委員会は2015年7月9日、規則(EC)No 726/2004第20条の下、デンマークの要請を受けてHPVワクチンのレビューを開始した。

レビューは、ヒト医薬品の安全性の問題を評価するPRACが実施し、一連の推奨が発表された。これらPRACの推奨は、ヒト医薬品に関する問題を協議・調整する機関であるCHMPに送られ、最終的な見解が決定する。レビュー手続きの最終段階は、すべてのEU加盟国において適用法的拘束力のある決定を行う欧州委員会による採択である。

2015年10月19日、欧州医薬品庁がHPVワクチンの安全性プロファイルをより明確にするためのレビューを開始

レビューは複合性局所疼痛症候群(CRPS)、体位性頻脈症候群(POTS)の希少な報告に着目
欧州医薬品庁(EMA)は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の安全性プロファイルの側面をさらに明らかにするため、レビューを開始した。HPVワクチンは全世界のおよそ7200万人に接種され、HPVが原因となる子宮頸がんや他のさまざまながん・病変を防ぐとして期待されている。そのレビューでは、HPVワクチンのベネフィットがリスクを上回ることに疑いはないとしている。

子宮頸がんは、全世界で女性のがん死亡原因の第4位に位置する。欧州では早期発見のためのスクリーニングプログラムがあるにもかかわらず、年間数万人が子宮頸がんにより死亡している。

認可されているすべての医薬品と同様、HPVワクチンの安全性もEMAの医薬品安全性監視リスク評価委員会(PRAC)により監視されている。現在実施されているレビューではCRPS(四肢に影響をおよぼす慢性疼痛状態)、POTS(座ったり立ち上がる際の心拍数が異常に上昇する状態で、頭痛や胸の痛み、衰弱だけでなく、めまい、失神の症状を引き起こす)の2つの症候群について、まれなケースに着目する。

HPVワクチンを接種した若年女性で見られるCRPSとPOTSの報告は、PRACによるルーチンの安全性監視中にもすでに検討されてきたが、CRPSとPOTSの状態とワクチンとの因果関係は確立されなかった。いずれの状態もワクチンを接種しない人でも起こり得ることで、もし、HPVワクチンで報告される件数が予想を上回る場合には、さらなるレビューを検討することが重要と考えられる。

そのレビューの中でPRACは、ワクチン接種後のCRPSとPOTSの発症頻度を明確にするため、あるいは如何なる因果関係も突き止めるため、役立つあらゆる研究も含めて最新の科学的知見を考慮に入れていく。このレビューに基づき、PRACは、患者と医療従事者によりよい情報を提供するために、製品情報の改訂を勧告するかどうかを決定する。

レビューの進行中、ワクチン使用の推奨に変更はない。

翻訳担当者 川又総江

監修 原野謙一(乳腺・婦人科がん・腫瘍内科/MDアンダーソンがんセンター・日本医科大学武蔵小杉病院)

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