ホルモン治療歴のない進行性前立腺がんに対する初回治療に、化学療法剤ドセタキセルの追加で生存が延長

この要約には抄録にはない最新のデータが記載されています。

ASCOの見解
ASCO会長、米国内科学会名誉上級会員(Fellow of American College of Physicians:FACP)、米国臨床腫瘍学会フェロー(Fellow of the American Society of Clinical Oncology:FASCO)、Peter Paul Yu医師
「本試験はこれまでで最大規模の臨床試験であり、標準的なホルモン療法に化学療法を追加することで、進行性前立腺がん患者の生存が延長しうることを強く示唆している。本試験の革新的なデザインは素晴らしく、腫瘍学の他領域にも採用されていく可能性がある」。

英国主導で実施された臨床試験STAMPEDEにより、ドセタキセルによる化学療法を標準的なホルモン療法に追加することで、新規に診断されたホルモン療法歴のない進行性前立腺がん患者の生存が著しく改善することがわかった。ドセタキセル+標準治療を受けた患者は、標準治療のみの患者よりも平均10カ月長く生存した。一方、ゾレドロン酸を標準治療に追加しても生存には影響せず、ゾレドロン酸とドセタキセルを追加した場合でも、ドセタキセルのみを追加した場合を凌ぐ効果は認められなかった。

「今回の知見により、新規に診断された転移性前立腺がん患者に対する治療として、患者の健康状態が化学療法に耐えうる場合には、医師がドセタキセルを提案するようになるだろうと期待しています。明らかに再発を遅らせるため、転移のない局所進行性前立腺がん患者も、初回治療の一環としてドセタキセルを検討してもよいかもしれません」と、英国のウォリック大学がん研究班の責任者およびクィーン・エリザベス病院臨床腫瘍学領域のコンサルタントを務め、本研究の主著者であるNicholas David James医学博士は語った。「ゾレドロン酸はこの患者集団に便益をもたらさず、進行性前立腺がん患者に対する初回治療として提案すべきでないのは明らかです」。

STAMPEDE(進行性または転移性前立腺がんに対する全身療法:薬効の評価)は、これまでで最大規模の前立腺がん患者を対象としたランダム化臨床試験で、2005年以降6,500人を超える患者が登録された。現在も実施中である本試験は、多段階、多治療群を設定した革新的なデザインで、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの医学研究審議会臨床試験班とともに開発・実施された。本試験は、新規治療を評価し、同時に標準治療の変化に対応するために調整を行うことが可能である。現在も募集が続いている対照群に対する標準治療は、治療パターンの変化に応じて変更可能である。たとえば、特定の患者には治療の中心であるアンドロゲン除去療法に放射線療法を追加している。試験の進行に伴い、効果が不十分であると判明した治療群を中止し、新規のホルモン治療薬など新たに登場した治療を実施する群を追加してその有効性を評価する。

研究者らは、STAMPEDE試験で設定した異なる治療群9群のうち、4群(標準治療、標準治療+ドセタキセル6サイクル、標準治療+2年間のゾレドロン酸、標準治療+ドセタキセル+ゾレドロン酸)に割り付けられたホルモン治療歴のない患者2,962人の結果を、米臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会で報告する予定である。標準治療は少なくとも3年以上のアンドロゲン除去療法とし、適用可能な患者に対しては局所放射線照射をも追加した。患者の約60%は試験登録時に転移を有しており、それ以外の40%は転移を有しない高リスク局所進行性前立腺がん患者(リンパ節陽性もしくは次の3つのリスク因子のうち2つに該当;T3/4期、PSA≧40ng/ml、グリーソンスコア8~10)であった。

フォローアップ中央値の42カ月時点で、死亡した患者は948人であった。ドセタキセル群の全生存は、標準治療群に比べ平均10カ月延長し(67カ月vs 77カ月)、相対的改善度は24%であった。転移を有する患者の部分集団解析では、全生存の平均改善度はさらに高く、22カ月の延長(43カ月vs 65カ月)を示した。重要なのは、ドセタキセルは全患者において再発までの期間をも38%延長した点である。

これまで実施された、2件のより小規模の試験で、ホルモン治療歴のない転移性前立腺がんに対するドセタキセル使用の結果が報告されていたが、2試験の結果は相反していた。2014年のASCO年次総会のプレナリーセッションで発表された米国のCHAARTED試験の結果では、延命効果が示された一方、フランスのGETUG-15試験では示されなかった。STAMPEDE試験は、新規に診断された高リスク前立腺がん患者におけるドセタキセルの役割を明らかにする上で大いに役立つ。また、先行2試験と比べ、より多数の幅広い患者集団を対象にしており、転移のある患者が約1,800人、転移のない高リスク患者が約1,200人から成っている。

本試験の総合的研究成果から、転移性前立腺がん新規診断患者には初回治療の一環としてドセタキセルを提案すべきことが示唆される、と著者らは語る。本試験で認められた再発リスクの低減効果を考慮すれば、医師は転移を有しない進行性前立腺がん患者にも、ドセタキセル追加という選択肢を検討することも可能であろうとしている。しかし、転移を有しない患者における延命効果の有無を明確にするには、より長期の追跡調査を実施する必要がある。

ドセタキセルは標準治療単独に比べると、いくぶん有害作用が増えたものの、副作用は管理可能であり、副作用によりドセタキセルを中止した患者はほとんどいなかった。QOL解析の結果は今後報告される予定である。

標準治療群と標準治療+ゾレドロン酸群の生存期間には、統計学的な有意差は認められなかった。また、ゾレドロン酸を標準治療+ドセタキセルに追加した場合、標準治療+ドセタキセルのみの結果と同様であった。

本研究は、英国がん研究所、英国医学研究審議会、英国立がん研究所、英国保健省、Sanofi-Aventis社、Novartis社、Pfizer社、Janssen社、Astellas社、バーミンガム大学およびウォリック大学から研究助成および支援を受けた。

翻訳担当者 菊池 明美

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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