2011/05/03号◆特集記事「FDAが進行前立腺癌治療薬としてアビラテロンを承認」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年5月03日号(Volume 8 / Number 9)

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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

FDAが進行前立腺癌治療薬としてアビラテロンを承認

FDA(米国食品医薬品局)は、最近まで有効な治療選択肢がほとんどなかった進行前立腺癌患者への新たな治療を承認した。これは過去1年間で2つ目の前立腺癌治療薬の承認である。

先週木曜日(4月28日)、FDAは、化学療法剤ドセタキセルに反応しなくなった転移性去勢抵抗性前立腺癌(腫瘍増殖を促進するホルモン値が低くとも病勢が進行する)患者に対する治療薬としてアビラテロン(Zytiga)を承認した。昨春、FDAはカバジタキセル(Jevtana)についても同様の適応で承認している。どちらの場合も、患者の生存期間が延長されたという大規模第3相試験の結果に基づく承認であった。

昨年4月に転移性去勢抵抗性前立腺癌患者の一部に対し、ドセタキセル治療に代わるものとしてFDA承認された免疫療法sipuleucel-T(プロベンジ)と同様、これら2種類の新薬が利用できるようになったことで、進行前立腺癌の治療状況は大きく変わったと一部の研究者は述べる。

他にも臨床試験中の多くの薬剤が転移前立腺癌治療に有望であることが示されている状況について、テキサス大学サンアントニオ健康科学センターのDr. Ian Thompson氏は現時点では「贅沢な悩み」といえる、と述べている。

しかし同氏は、アビラテロンおよびカバジタキセルによる生存期間の延長が有意であるとはいえ、まだどちらの利益が大きいとはいえない点を警告している。患者の全生存期間中央値の延長は、両剤とも約2~4カ月間であった。

さらに、複数の治療選択肢がもたらされたことで、研究者や臨床医は、どの薬剤をどの患者にいつ用いるかという難しい決断を下さなければならないという、ありがたいことではあるが新たな問題が生じている。つまり、研究者および臨床医らは、どの薬剤をどの患者にいつ用いるのかという難しい決断を下さなければならなくなったのである。しかしながら、こういった決断のなかには、実施可能な治療法のいわゆる「適応外」使用も含まれる。

アンドロゲン除去療法の変わらぬ重要性

アビラテロンは、製造元のCougar Biotechnology社による臨床試験での知見に基づき承認された。この試験では、約1200人の患者がアビラテロンとステロイド薬プレドニゾンとを併用投与する群と、プレドニゾンとプラセボを併用投与する群に無作為に割り付けられた。

全生存期間の中央値はアビラテロン・プレドニゾン併用投与群で14.8カ月、プレドニゾン投与群で10.9カ月であったことが、昨年12月に欧州の主要な癌カンファレンスで発表された。アビラテロン治療群に重篤な副作用はほとんどみられなかった。(カバジタキセル承認の根拠となった試験結果は、2010年3月に発表された)。

これまでアビラテロンとカバジタキセルを直接比較した試験はなかったが、アビラテロンは重篤な副作用が少ないうえに経口投与できるため、最初に選択する薬剤として患者に望ましいだろう、とNCI癌研究センターのDr. William Dahut氏は述べた。

「(アビラテロンが)投与しやすいことや、副作用に関するデータが良好なことは、医師や患者が治療を選択する際、明らかに重要な要素となるでしょう」と、ミシガン大学総合がんセンターのDr. Maha Hussain氏も同じ見解を示した。

ケトコナゾールによる治療歴がある患者は例外である。(ケトコナゾールは進行前立腺癌患者への適応承認をFDAから受けていないが、一部の患者に対して有効であることが立証されている)。ケトコナゾール治療歴のない患者と比較して、「ケトコナゾール治療歴のある患者は、アビラテロンに対する反応がよくないと考えられる」とDehut氏は説明した。

カバジタキセルがいわゆるタキサン系化学療法剤の次世代薬である一方で、アビラテロンは直接的あるいは間接的にテストステロンを標的とする薬剤で、今後増えていくと思われる前立腺癌の新標的薬のなかで最先端にある。Dahut氏によると、この新標的薬の波は前立腺癌治療における「パラダイムシフト」を代表するものであるという。(下記囲み記事を参照)。アビラテロンは体内でコレステロールからテストステロンが合成される際に中心的な役割を果たす酵素、CYP17を阻害することで作用する。

ここ数十年間、前立腺腫瘍細胞から増殖に必要なテストステロンを奪う黄体ホルモン放出ホルモン作動薬を用いた薬剤性去勢が前立腺癌の標準的かつ有効な治療法となっている。しかし、テストステロン値を非常に低く抑えても、最終的には多くの患者で病勢が進行する。

「15年前は、ホルモン療法中に病勢が進行した患者はホルモン抵抗性となり、二次および三次ホルモン治療を続けて行う意味がないと広く考えられていました」とDahut氏は述べる。しかし、多くの研究で明らかになっているように、腫瘍細胞は、細胞表面へのアンドロゲン受容体発現を増加させるなどして低アンドロゲン環境に適応する。体内の総テストステロン値が非常に低いながらも、合成は行なわれているため、腫瘍細胞は可能な限りテストステロン取り込み能力を向上させている。

アビラテロンの有効性は、ホルモンが「去勢レベル」まで低下している患者においても、「テストステロンを標的にすることの重要性」を示している、と同氏は付け加えた。

薬剤の選択、併用投与、あるいは順序の決定

進行前立腺癌の治療の選択肢が新たにいくつか増えたことで、患者および医師には、臨床的証拠が必ずしも十分とはいえない場合にも厳しい臨床的判断をしなければならないという状況が生じた。例えば、標準的なホルモン療法に反応しなくなった進行前立腺癌患者に対し、ドセタキセル治療歴がなくとも医師がアビラテロン治療を施したいという場合である。

この段階で患者がアビラテロンに反応する可能性が高いという点でDahut氏とHussain氏の見解は一致しているが、Dahut氏はこの治療法により生存期間が延長するという証拠がないことを警告している。さらに、この適応外使用に対して保険が利く可能性は、現時点では少ないとHussain氏は付け加えた。この治療法の第3相試験が現在進行中である。

FDAがドセタキセル治療歴のない去勢抵抗性前立腺癌患者に対するアビラテロン使用をいずれ承認することになれば、アビラテロンとsipuleucel-Tのどちらを最初に用いるべきかという問題も生まれる。

治療法の最適な順序、あるいはより有効性が高い治療薬の組み合わせを決定するためには、さらに研究が必要であるとThompson氏は述べる。目的は「個々の患者にとって最も有効と考えられる複数の薬剤併用療法の適応試験を行うこと」である、と同氏は述べている。

この領域、とりわけ薬剤の併用療法の試験については綿密な審議や配慮をしつつ研究努力を積む必要があると、Hussain氏は強調して次のように述べた。「これら薬剤の併用療法の試験を適正に行なうためには、科学的で機械的なデータに裏づけられた賢明かつ合理的なアプローチが必要です」、「ただ単に、これらの薬剤を利用できるようになったからとか、試験を行なうことができるからという理由だけでは十分とは言えません」。

— Carmen Phillips

テストステロンを標的とした2つの新薬ドセタキセルに反応しない去勢抵抗性前立腺癌患者に対しては、アビラテロンに加え、現在、TAK-700およびMDV3100という2種類の薬剤について第3相試験が進行中である。アビラテロンは、テストステロンだけでなく、高血圧などの副作用を引き起こすホルモンの生成にも影響するため、このような副作用を予防あるいは軽減する目的でステロイドが用いられる。しかしステロイドには長期にわたる副作用があるため、アビラテロンとステロイドを併用しなければならないことが、早期で期待余命が長い前立腺癌患者への使用を制限してしまう可能性があると、Thompson氏は指摘した。

アビラテロンと同様に、TAK-700もCYP17を標的とするが、TAK-700はアンドロゲン産生抑制においてはより選択的であり、用量-反応作用は認められないとHussain氏は説明した。結果として、同薬剤はステロイドの併用投与を必要としない用量で用いることができる可能性があると考えられる。

MDV3100の機序はまた異なり、腫瘍細胞のテストステロンへの反応を妨害する。その作用の一つがアンドロゲン受容体経路の抑制である。MDV3100はその作用機序により、ステロイドとの併用が不要である。

各薬剤には長所と短所があるものの、有効な第二世代および第三世代のアンドロゲン標的薬が利用可能になることは「大きな前進」であるとHussain氏は述べる。「各新薬は従来の薬剤より優れていると思われます。これは患者にとって大事なことです」。

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河原 恭子  訳

林 正樹(血液・腫瘍内科/敬愛会中頭病院) 監修 

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