2011/04/19号◆特集記事「一部の前立腺癌男性では監視療法の方が好ましい」

NCI Cancer Bulletin2011年4月19日号(Volume 8 / Number 8)

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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇

一部の前立腺癌男性では監視療法が好ましい

近年行われているこの種の研究のなかでは最大規模でかつ観察期間も最も長い研究から、前立腺癌男性のなかには保存的アプローチを採る方がよい場合もあることを裏づける説得力のある証拠が示された。

この研究はランダム化臨床試験ではなく、いわゆる超低リスク群の前立腺癌と診断された男性からなるコホートを対象とする長期的分析である。この研究で、患者は診断後すぐに外科的手術や放射線治療を受けるのではなく、監視療法(active surveillance)として知られるプロセスをジョンズホプキンス大学医学部で受けることとなった。

超低リスク前立腺癌という診断が意味するところは、臨床的に意味のある、生命を脅かす癌に至る可能性がきわめて低いということである。これらの男性は監視療法によって安全に経過観察が行われ、最終的になんらかの形の治療が必要となった割合はごくわずかであり、前立腺癌による死亡は認められなかったことが、今回の研究からわかった。この結果は4月4日付Journal of Clinical Oncology(JCO)誌電子版で発表された。

米国における一般的な前立腺癌に該当することであるが、試験に参加した男性のほとんどが65歳以上であった。今回の結果は監視療法がこの年齢層の超低リスク前立腺癌男性の多くにとっては「望ましい選択肢」であることを非常に強く裏づけるものであると、本研究の筆頭責任医師であるDr. H. Ballentine Carter氏は述べた。実際、「低リスク群と診断された65歳以上の男性がまずするべき質問は、どの治療法がよいのかということではなく、そもそも何らかの治療をすべきかどうかということです」。

この知見の臨床的意義はどれだけ強調してもしすぎることはないとCarter氏は力説した。1年間に米国で前立腺癌と診断される217,000人の男性のうち、超低リスク群もしくは低リスク群の占める割合は大きい。前立腺癌で死亡する確率が低いのはもちろんのこと重篤な症状を経験する確率も低いという事実にもかかわらず、75歳以上の男性も含めたこのような男性の大多数は、診断後すぐに何らかの治療を受けている。

患者選択とコンプライアンスがカギ

ジョンズホプキンス大学の監視療法プログラムでは、半年に1回の定期検診と1年に1回の生検が実施される。患者の選択がきわめて重要であるとCarter氏は述べた。

1995年から2010年にジョンズホプキンス大学の監視療法プログラムに登録した769人の男性のうち、約80%が超低リスク群であった。患者の前立腺癌が超低リスク群であるかどうかの判断は、グリーソン・スコア(腫瘍の悪性度を測る一般的尺度)や前立腺から採取した生検サンプル(生検コア)における癌の拡がりといった要素に基づいて決定する。(これらの要素については、下記囲み記事を参照のこと)

残りの男性については、これらの生検所見のうち少なくとも1つが超低リスクの基準から外れるとCarter氏は説明した。続けて同氏は、このような男性は典型的には高齢で、その他の健康上の問題を抱えている場合が多く、どちらも重大な副作用を引き起こしかねない外科的手術や放射線療法といった治療と比べると、監視療法がより魅力的なものとなっていると述べた。

このアプローチへのコンプライアンスはきわめて高く、参加者のほぼ90%が1年に1回の生検を受けているとジョンズホプキンス大学の研究グループは報告した。

この試験では前立腺癌による死亡例はないが、255人が何らかの治療を受けた。このうちの74%は毎年の生検での所見に基づいて病期分類の変更がなされたため治療を受けることになった。

全体的に見て、この試験に参加した男性の41%が10年間の追跡期間を過ぎてもいかなる治療も必要としなかったというのは「画期的」な研究結果であると、米国国立癌研究所(NCI)癌治療・診断部門のDr. Bhupinder Mann氏は語った。「この研究は、慎重に選択した患者では監視療法は安全であるという、現在蓄積されつつある証拠に新たな知見を加えるものです」。

この結果は最近行われた全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)による前立腺癌の治療指針の改訂を「強く裏づけるものです」と、同指針委員会の議長であるロズウェルパーク癌研究所のDr. James Mohler氏は述べた。昨年改訂されたこの治療指針では、平均余命が20年以下の超低リスク前立腺癌男性に対しては、医師が監視療法を続けることを勧めることが望ましいとしている。

監視療法についてのこのような知見は、現在ますます問題視されているPSAスクリーニング検査による前立腺癌の過剰診断と過剰治療についての関連研究と併せて、地域社会ベースの問題として捉えられるようになってきているようだとMohler氏は述べた。

「私が思うに、過剰治療の問題に関しては、男性側も医師側もずっと知識が増えてきています」と彼は述べた。

その証拠として、Mohler氏は米国NCIと協力してカナダ国立癌研究所が主導する第3相臨床試験であるSTART試験についてコメントした。この試験では、超低リスクもしくは低リスク前立腺癌と診断された男性が監視療法群もしくは診断直後に治療を実施する群のどちらかに無作為に割り付けられる。この臨床試験が開始された2007年当初は、試験への登録を拒否した男性のほとんどが、その理由として監視療法群に割り当てられるというリスクを冒したくないからであるとしていた。「いまや多くの男性が監視療法を望んでいるために参加を拒否しています」とMohler氏は述べた。

監視療法継続中の男性を確実にフォローアップでき、定期検診や生検の時期に患者に通知が届くようなしっかりとしたシステムを作ることがきわめて重要であるとCarter氏は強調した。

今のところ、ジョンズホプキンス大学の監視療法プログラムは、管理者が手作業で行っている部分が大きい。しかし、監視療法プログラムは患者のモニタリングとフォローアップに関して、インターネットを介したアプローチに移行しつつあると彼はつけ加えた。

さまざまなアプローチの可能性

監視療法を支持する証拠は蓄積を続けているが、このプログラムの遂行にどのようなアプローチが最適であるかはまだ明らかになっていないとMann氏は述べた。この点はとりわけ、どのように患者の病勢を追跡していくかということに関して当てはまる。

ジョンズホプキンス大学では、男性患者は定期検診と1年に1回の生検によるフォローアップを受けている。病期の変更は通常は生検所見、例えばグリーソンスコアの変化によって行われ、その際には治療が勧められることもある。しかし、ロズウェルパーク癌研究所などの他の多くの施設では、監視療法を選択した男性には定期的な生検を受けることを必須としてはいない。これらの施設では生検でなく、(たとえばPSA値が2倍になるのに要した時間などの)PSA値の経時的変化を測定する、一般にPSA動態と呼ばれる手法が用いられている。

しかし、そもそもPSA動態に最初の前立腺癌の診断、あるいは臨床的管理での価値があるのかという疑問がいくつかの研究から投げかけられている。これまでの経験から言って「グレードの高い癌の存在を予測する際には、個人ベースではPSA動態の信頼性は高くありません」とジョンズホプキンス大学の研究チームはJCO誌に記している。「ですから、監視療法がよりリスクの高い癌を同定し治療を行うことを目的としているのであれば、患者の安全を確保するために1年に1回の生検が必要であるとわれわれは考えています」。

しかし、定期的な生検にはそれ自身の危険性がないとは決して言えない。Mohler氏によれば、頻度は少ないが、前立腺生検を実施した結果、抗生剤抵抗性感染症に罹ってしまう例がある。また、生検を繰り返し行うことによって炎症が生じ瘢痕組織が形成されて、進行した前立腺癌男性の一部では治療を行う際に神経温存手術を行う妨げになることもありうるという。

Carter氏によれば、ジョンズホプキンス大学の研究者らは現在、生検で2回続けて進行が認められない男性に対しては、定期的な生検の間隔を安全に延長できないかどうかを検討しているところである。一方、NCCNの指針は、ジョンズホプキンス大学、トロント大学、カリフォルニア大学サンフランシスコ校での大規模監視療法プログラムから得られたデータを用いて再度改訂される予定であり、この保存的アプローチを選択する男性の管理に関するアドバイスが提示されることになっているとMohler氏は述べた。

この問題に関してはさらなる解明が間もなく手に入るとMann氏は述べた。START試験ではPSA値測定と前立腺コア生検の双方を用いたフォローアップが行われているが、英国ではPSA値のみを用いて患者のモニタリングを行う類似の試験が実施されている。また、12月にはNCIと米国疾病対策センターが米国国立衛生研究所最先端科学会議(State-of-the-Science Conference)を主宰することになっており、限局性前立腺癌の管理における監視療法の役割についてのレビュー報告が行われ、この領域での研究をさらに進めていくうえでの道筋が示される予定である。

超低リスク群前立腺癌の定義ジョンズホプキンス大学の超低リスク群前立腺癌の定義は米国総合がんセンターネットワーク(NCCN)の定義と類似したものである。JCO誌に掲載された本研究における超低リスク群の定義は以下の通りである:

臨床病期:T1c(触知できない病変であり、PSA値異常によって生検の施行が推奨されたもの)グリーソンスコア:6以下PSA密度(PSA値と前立腺容量の比率):0.15ng/mL以下癌の生検陽性コア数が2本以下で、各コアにおける癌の占拠率が50%未満

— Carmen Phillips

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窪田 美穂  訳

榎本 裕 (泌尿器科/東京大学医学部付属病院) 監修 

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