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2011/12/13号◆特別リポート「専門家小委員会、一部の前立腺癌患者では監視療法を広く推奨」

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2011/12/13号◆特別リポート「専門家小委員会、一部の前立腺癌患者では監視療法を広く推奨」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2011年12月13日号(Volume 8 / Number 24)

日経BP「癌Experts」にもPDF掲載中~
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◇◆◇ 特別リポート ◇◆◇

専門家小委員会、一部の前立腺癌患者では監視療法を広く推奨

専門家による第三者小委員会は、長期的にみて健康に影響がないと考えられるタイプの前立腺癌と診断された多くの患者の治療を当面延期するよう推奨した。

低リスク前立腺癌と診断された多くの男性に対して、外科手術や放射線治療など重大な副作用の可能性がある治療を急ぐことなく、代わりに積極的な癌のモニタリングをすることが「有効な選択肢」の一つであると、米国国立衛生研究所(NIH)が設立した最先端科学会議声明案のなかで同委員会は結論づけた。

毎年新たに低リスク前立腺癌と診断された男性の大部分は直ちに外科手術か放射線治療を受けるよう希望する。どちらの治療法も、勃起不全尿失禁など、男性のQOL(生活の質)を著しく損なう副作用を伴う可能性がある。それにもかかわらず、米国では低リスク前立腺癌と診断され経過観察を選ぶ男性は約10%にすぎない。

低リスク前立腺癌と診断された男性の予後は非常に良好であり、「この状態を指して『癌』という不安をあおる言葉を用いてよいか慎重に検討すべきだ」と小委員会は結論している。低リスクの場合に癌という言葉を使わないようにすれば性急な治療を求める男性が減るのではないか、と複数の委員が提案している。

科学的根拠に基づくアプローチ

NIHは最先端科学会議を招集し、監視療法(active surveillance:日本ではPSA監視療法とも呼ばれる)を支持するデータの精査を行った。監視療法とは経過観察を優先するアプローチで、米国では低リスク前立腺癌患者においてごく普通に採用される。前立腺特異抗原(PSA)を用いる検診が広く普及したため、現在は前立腺癌診断症例の大部分を低リスク前立腺癌が占めるようになった。監視療法では、PSA検査による癌のモニタリングや、直腸診、定期的な生検などが行われ、これらの検査で病勢の進行が認められた場合に限って根治目的の治療を開始する。

監視療法を行った場合と直ちに治療する場合とを比較すると生存に関する転帰に差がないとする試験結果に基づき、低リスクまたは超低リスク前立腺癌男性については平均余命にもよるが、監視療法が推奨されている。「低リスク」などの分類は、診断時点におけるPSA値、腫瘍の悪性度(グリソンスコア)、前立腺の針生検標本での腫瘍細胞の占拠率に基づいて決定する。

「前立腺癌と診断された患者で、すぐに治療するよりも監視療法のほうが望ましい人は米国で毎年10万人以上と推定されます」。委員長を務めたカリフォルニア大学ロサンゼルス校ジョンソン総合がんセンターのDr. Patricia Ganz氏は述べた。

最先端科学会議では、病理学の進歩により腫瘍の悪性度分類がどのように変化してきたかや、前立腺癌と診断された男性における経過観察優先アプローチの採用が増えた場合に予想される経済的効果など、幅広い課題を取り扱っている。

積極的な経過観察アプローチにも未解決の重要な問題が多数残されている、と委員会は報告している。たとえば生検にはそれ自体にもリスクがあり、経過観察優先の場合にどれぐらいの頻度が最適なのかは明らかになっていない。監視療法などの選択肢について必要な情報を得たうえで話し合うなど、患者が医師と相談して治療という決断に至るプロセスを改善するための効果的なアプローチが更に求められている、と委員は語った。

科学的根拠の検証

経過観察優先アプローチと直ちに治療を開始する方法を比較した臨床試験は2件のみであり、いずれも注意深い経過観察(watchful waiting)による研究である。すなわち、定期的なモニタリング検査は行わず、症状の緩和に必要な治療のみを開始するというものである。その一方、監視療法を支持する結果を示した研究は観察研究として行われたものであった。

会議で説明された2件の臨床試験は結果が食い違っていた。まず1件目のスウェーデンの試験では、直ちに治療を実施することで前立腺癌による死亡リスクが減少することが示された。しかしながら、検診により前立腺癌と診断された患者は全体の5%しかなく、米国の場合であれば経過観察優先とされる患者よりも高リスクの患者が試験に多く参加していたことは事実である、と統括著者でロンドン大学のキングス・カレッジ医学部のDr. Lars Holmberg氏は述べている。

一方、今後公表される予定の米国のPIVOT試験(Prostate Intervention Versus Observation Trial)では、低リスク前立腺癌患者に対し注意深い経過観察または外科手術のどちらを採用した場合でも、全死亡率ならびに前立腺癌特異的死亡率はほぼ同程度であった。試験に参加した男性の約半数はPSA検査で前立腺癌と診断されており、患者全体の40%が低リスクに分類された。

「これが米国で治療を受けている男性の現状です」とPIVOT試験の試験責任医師でミネソタ州ミネアポリスの退役軍人慢性疾患転帰研究センターのDr. Timothy Wilt氏は話す。「低リスク患者の場合、経過観察が望ましい選択肢であることをわれわれのデータは示唆しています」。

北米では複数の大規模な監視療法臨床試験が進行中である。それぞれの臨床試験は、ほとんど内容は同じであるが、監視方法と治療開始の条件に若干の相違がある。

これらの相違点はあるが、いずれの臨床試験においても前立腺癌による死亡はほとんどなかった。たとえば、650人以上の男性が登録したカリフォルニア大学サンフランシスコ校の監視療法臨床試験では前立腺癌による死亡者はなかった、と臨床試験代表者のDr. Peter Carroll氏は語った。参加者の64%は、最低でも5年間積極的治療に切り替えずに生存している。臨床試験に参加した男性の大半は低リスク患者であり、高リスク患者は少数であった。

一部の男性では生涯治療を必要としない可能性があるが、監視療法の目的は、治療とそれに伴う副作用をできるだけ遅らせることであるとCarroll氏は強調している。「単純に治療群対未治療群の比較ではない点が重要です」と語った。

今回の大規模な監視療法臨床試験に参加した男性の一部は、癌が進行したという証拠がないにも関わらず手術または放射線治療を選択するとして試験から脱落した。患者がなぜこのような決断をするのか明らかにするため、不安や家族からの圧力といった要因について研究することが求められていると委員会は結論している。将来は、それぞれの監視療法の試験計画の違いによる効果を比較する研究を実施すべきであると委員会は勧告している。

患者が治療について決断を下す際の最大要因は「医師からの勧め」である可能性が高いことが複数の研究で示唆されている。とは言うものの、癌という診断に対する患者の行動や反応を軽く見るべきではない、とアルバニー医科大学泌尿器科長で委員のDr. Barry Kogan氏は語った。

「『癌』という言葉は患者に感情的な反応を引き起こしがちです」とKogan氏は述べた。「患者はもっとも効果が高いと考える治療法を追い求めてしまいます」。

Carmen Phillips

最先端科学会議の動画はこちら

[左上図]NIH最先端科学会議において専門家による第三者小委員会が12月5~7日に開催され、局所前立腺癌の管理における監視療法のあり方について議論した。

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前立腺癌リスクの定義
全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)による前立腺癌に関する直近の臨床ガイドラインでは、超低リスクおよび低リスク前立腺癌を次のように定義している。
超低リスク
・臨床ステージT1c(明らかな症状なし、PSA値異常による生検の必要なし)
・グリソンスコア6以下
・PSA density(前立腺体積とPSA値の比)0.15 ng/mL/cc以下
・生検陽性コア数が2以下で、各コアの癌占拠率が50%未満
低リスク
臨床ステージT1~T2a
・グリソンスコア2~6
・PSA値10 ng/mL未満
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橋本 仁 訳
辻村 信一 (農学・獣医学/メディカルライター) 監修
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