濾胞性リンパ腫および類上皮肉腫に対し、タゼメトスタットは客観的奏効を示す

経口のEZH2タンパク阻害剤、Tazemetostat[タゼメトスタット]は、再発/難治性の濾胞性リンパ腫および進行類上皮肉腫患者において客観的奏効をもたらすことが、Lancet Oncology誌に掲載された2つの非盲検単群第2相試験で示された。

B細胞増殖のエピジェネティック制御因子であるEZH2の活性化変異は、濾胞性リンパ腫患者の約20%に存在する。そして、類上皮肉腫の90%以上はINI1発現が失われており、それがEZH2による発がん作用の活性化につながるとみられている。

1つ目の試験では、フランスのリール大学のFranck Morschhauser医師と、欧州および北米の38の診療所または病院の共同研究者らが、EZH2野生型(変異なし)または変異を有する、再発/難治性の濾胞性リンパ腫患者99人を対象に、タゼメトスタットの有効性と安全性を検討した。

客観的奏効率(完全奏効と部分奏効による最高の全奏効割合と定義)は、EZH2変異患者で69%、EZH2野生型患者で35%であり、有意な差が認められた。

完全奏効はEZH2変異群で6例、野生型で2例であった。

奏効期間の中央値は、EZH2変異群で10.9カ月、EZH2野生型群で13.0カ月であった。

治療関連の有害事象は80例で発生した。4人の患者に重篤な治療関連有害事象が発生し、8人の患者が治療中に発生した有害事象のためにタゼメトスタットを中止した。治療関連死亡はなかった。

“Morschhauser医師はロイターズ ヘルス に対し、Eメールで次のように語った。「本薬の忍容性は良好で、EZH2変異を有する患者のほうが全奏効率が高かったが、EZH2野生型とEZH2変異陽性患者の両方で持続的な奏効を示した。今後、非ホジキンリンパ腫(濾胞性リンパ腫だけでなく、他の組織型も含む)に対するタゼメトスタット併用療法についてのさらなる試験が必要である」。

「現在、1件の第3相ランダム化試験が進行中であり、また、濾胞性リンパ腫の初回治療としてタゼメトスタットをR-CHOP(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン)に加える効果を検証する第2相試験も進行中です」。

「臨床的に意味のある持続的な奏効をもたらす効力、良好な安全性プロファイル、および独自の作用機序を持つタゼメトスタットは、濾胞性リンパ腫患者に対する新たな治療選択肢となるだろう」と著者らは結論づけている。

2つ目の試験では、ニューヨーク市のスローンケタリング記念がんセンターおよびワイルコーネル医科大学所属のMrinal Gounder医師と、豪州、欧州、台湾、北米の32の病院とクリニックの共同研究者らが、進行/転移性の類上皮肉腫患者62人を対象に、tazemetostatの臨床活性と安全性を検証した。

これらの患者のうち9人(15%)に客観的奏効が認められた。追跡期間中央値13.8カ月時点で、奏効期間中央値は未到達であった。

無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月、全生存期間中央値は19.0ヵ月であった。

データカットオフ時には、8人の患者がタゼメトスタットの投与を継続し、45人の患者が疾患の進行によりタゼメトスタットの投与を中止していた。

グレード3‐4の治療関連有害事象は、貧血が4人、体重減少が2人、治療関連の重篤有害事象が2人発生した。治療に関連した死亡はなかった。

「本薬の良好な忍容性を考慮すると、タゼメトスタットと他の抗がん剤の併用で使用できる可能性がある 」と研究チームは結論づけている。「タゼメトスタットとドキソルビシン併用による初回治療」のランダム化第1b/3相臨床試験が現在進行中である。

付随論説の共著者であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンター(ヒューストン)のVivek Subbiah医師は、メールでロイター・ヘルスに次のように語った。

「タゼメトスタット以前には、類上皮肉腫に特化して米国食品医薬品局(FDA)承認された薬はなかった。タゼメトスタット(販売名:TAZVERIK)が承認された今、腫瘍医は間違いなく、外科的完全切除ができない転移または局所進行性の類上皮肉腫の16歳以上の成人/小児患者にこの薬を処方することを検討すべきである」。

「治療の選択肢が多い濾胞性リンパ腫の場合、本剤は、再発/難治性の濾胞性リンパ腫の成人患者で、FDA承認検査でEZH2変異陽性、かつ、2回以上の全身療法を受けている患者さんの選択肢として検討すべきです。さらに、EZH2変異を有していない成人患者に対しては、他に満足のいく代替治療の選択肢がない場合、本治療が選択肢の一つとして検討される可能性がある」。

さらに、「これら2つの研究は教訓を与え、重要な問題を提起し、エピジェネティックのメカニズムを標的とした治療法の前臨床および臨床研究の全領域を切り開くものである。これはほんの始まりに過ぎず、将来的には合理的に設計された併用療法の試験が必要だ」と述べた。

また、これらの試験には関与していないが、濾胞性リンパ腫に対する新たな治療法を最近レビューしたスローンケタリング記念がんセンターのMatthew Matasar医師は、ロイター・ヘルスに電子メールで次のように回答した。

「タゼメトスタットは、EZH2変異を有する再発/難治性濾胞性リンパ腫の治療における大きな進歩であり、同疾患患者に対する二次治療以降における標準治療と考えられる。変異のない野生型患者では全奏効率が低いことから、他に臨床上ふさわしい治療選択肢がない場合に、臨床適用は限られる」。

「今後、タゼメトスタットと他の治療薬との併用を検討することで、濾胞性リンパ腫患者に対するタゼメトスタットの効果の可能性が広がるかもしれません」とGounder医師は述べた。

コメント依頼に対してGounder医師から回答はなかった。

この薬剤を販売しているEpizyme社は、両試験に資金を提供している。一部の著者は同社と雇用関係またはその他の金銭的なつながりがあった。

引用:https://bit.ly/3j1GMqi、 Lancet Oncology誌、2020年10月6日オンライン版 

翻訳担当者 野中希

監修 遠藤誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院 整形外科)

原文掲載日 

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