FDAが乳房インプラント関連リンパ腫等の医療機器報告の分析を更新

速報

2020年8月20日

本日、米国食品医薬品局(FDA)は、乳房インプラントに関わる有害事象の情報を更新した。これには、乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫(BIA-ALCL)、乳房インプラントの挿入後に報告され、患者に乳房インプラント病(BII)と呼ばれる全身性の徴候及び症状が含まれる。また、同局は本日、乳房インプラントなどの特定の医療機器に関する評価を支援するため、BREAST-Q乳房再建モジュールを医療機器開発ツール(MDDT)に認定する。BREAST-Q乳房再建モジュールのMDDT認定には、身体的健康観(乳房)、心理社会的健康観、性的健康観、及び乳房の満足度などが含まれる。MDDTは科学的に実証済みであり、認定されると機器の評価及び規制に関する意思決定の裏付けに使用することができる。MDDTの例としては、臨床転帰評価、バイオマーカー評価、非臨床評価方法、非臨床評価モデルなどが挙げられる。認定を受けたMDDTの製品治験依頼者による使用は任意である。

「FDAは、数十年にわたって乳房インプラントに関連する有害事象を丹念にチェックし、乳房再建患者が経験しうる生活の質と満足度への理解を深めるための活動行うことにより、乳房インプラントによる利点とリスクの評価手法の改善に取り組んできました。BREAST-Q乳房再建モジュールが生活の質と満足度の観点から乳房再建術の転帰を評価するための実証済みの手法として本日認定されることは、この目標の実現に役立ちます」と医療機器・放射線保健センターの外科および感染制御デバイス部門の責任者、Binita Ashar医師は述べている。「また、私たちは乳房インプラント未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)、並びに乳房インプラント病(BII)と呼ばれる全身症状に関する科学的知見を継続的に向上させ、情報の公開にも努めています」。

乳房インプラント未分化大細胞リンパ腫(BIA-ALCL)に関する医療機器報告

BIA-ALCLに関する全世界からの医療機器報告を対象としてFDAが行った分析は、2020年1月5日までに受領した報告が対象である。本分析により、FDAが前回発表した公的報告書には2019年7月7日~2020年1月5日の新しい情報が更新されている。本日、FDAは同局のBIA-ALCLウェブサイトの表を更新し、分析対象者は全世界で固有症例733件及び死亡者36人となった。この人数には、2019年7月初旬の更新以降に生じた新規症例160件及び死亡者3人の増加が反映されている。

具体的には、FDAに報告されたBIA-ALCLの固有症例合計733件のうち、620件がAllergan社製インプラントに関するものとして報告され、47件が製造元不明のインプラントに関連していた。インプラント表面の種類は、BIA-ALCL固有症例733件のうち496件がテクスチャードインプラントであると報告され、209件が特定されていなかった。FDAに報告された全死亡例36人では、インプラントの製造元が判明している16人のうち15人がBIA-ALCL診断時にAllergan社製乳房インプラントを使用していたことが報告されている。インプラント表面は、死亡が報告された36人中16人がテクスチャードインプラントであると報告され、19人にはインプラント表面に関する情報が含まれていなかった。

BIA-ALCLは、乳がんではなく、非ホジキンリンパ腫(免疫系のがん)の一種である。BIA-ALCLは、インプラント周辺の瘢痕組織及び体液に認められることが多いが、全身に広がる場合もある。BIA-ALCLの全体的な発症率は現時点では低いが、本疾患の診断は重篤で死に至る可能性があり、早期診断や迅速な治療が行われなかった場合に顕著である。BIA-ALCLは、インプラントとその周辺の瘢痕組織の除去手術によって治療が奏効することが多いが、化学療法や放射線療法による治療が必要となる場合もある。

乳房インプラント病(BII)と呼ばれる全身症状に関する医療機器報告

FDAは、本日行ったBIA-ALCLの更新に加えて、患者にBIIと呼ばれている全身性の徴候及び症状に関して受領した医療機器報告のデータも更新している。FDAウェブサイトの新たな表では、2008年1月1日~2019年10月31日に米国及び全世界からFDAが受領したBII固有症例に関する医療機器報告が要約されている。本データによると、FDAはBIIと一致する症状が含まれる医療機器報告を2018年11月~2019年10月に2,497件受領した。2008年1月~2018年10月のFDAデータでは、これらの症状が含まれる報告は1,080件であった。これらの症状を報告する患者及び医療提供者は増えており、これはマスメディアや、ソーシャルメディア、2019年3月に開催されたFDAの一般外科および成形外科用機器諮問委員会の会合による認知度の向上に起因する可能性がある。

「乳房インプラント病」という用語の医学文献での使用例は限られている一方、疲労、記憶喪失、発疹、「ブレイン・フォグ(脳に霧がかったような状態)」、関節痛などの症状が乳房インプラントと関連している可能性があり、一部の患者や医師がこれらの症状を記述したりFDAに報告したりする際に「乳房インプラント病」という用語を使用している可能性がある。乳房インプラント患者のFDA医療機器報告データベースに報告される症状のうち、よくみられる症状の上位10種は、疲労(49%)、ブレイン・フォグ(25%)、関節痛(25%)、不安(24%)、脱毛(21%)、うつ病(19%)、発疹(18%)、自己免疫性疾患(18%)、炎症(18%)、体重に関する問題(18%)であった。現在、研究者らは、これらの症状の調査を行っており、原因及び乳房インプラントとの関連に関して理解を深められるよう努めている。

FDAは乳房インプラントが上記症状を引き起こすことを証明する明確なエビデンスを有していないが、現時点でのエビデンスから、一部の患者に全身症状が生じ、乳房インプラントを除去するとその症状が回復する可能性があることが支持される。FDAは、乳房インプラント患者から報告された全身症状について同局が得た情報の発信に努めている。

BREAST-Q乳房再建モジュールを医療機器開発ツール(MDDT)として認定

本日、FDAはさらに、実証済みの自己記入式質問票であるBREAST-Q乳房再建モジュールを同局のMDDTプログラムにおいて本日付けで認定することを発表した。

紙版及び電子版の自己記入式BREAST-Q乳房再建モジュールの心理社会的健康観、性的健康観、身体的健康観(乳房)、及び乳房の満足度という評価尺度を使用することにより、女性の生活の質及び乳房再建術への満足度といったさまざまな側面が数値化される。これらの尺度は、医療機器治験依頼者及び治験依頼者兼責任医師らがフィージビリティ試験や、ピボタル試験、市販後試験に使用して、インプラントやメッシュなど、乳房再建に関連する医療機器の有効性を裏付けることが可能であり、予定適応の支持という本尺度の臨床的意義に適している。

FDAは、乳房インプラントの安全性と有効性に関して、思慮に富み、科学的、かつ透明性のある公開討論の実施に努めている。医療専門家及び消費者は、乳房インプラントに関するいかなる有害事象もFDAのAdverse Event Reporting Programに報告すべきである。同局は、これらの報告をチェックし、市場における医療用製品の安全性を担保するために必要で適切な措置を講じている。

最後に、本日FDAは、リスク、合併症、BIA-ALCL及び全身症状に関する情報など、患者が乳房インプラントについて知っておくべき7つの項目に関する動画を公開した。

同局は、乳房インプラントに関連するリスクについて入手可能なすべての情報を分析し、同局ウェブサイトに公開したBIA-ALCL及びBIIの分析を定期的に更新し、必要な場合に追加措置を講じることを継続する。

翻訳担当者 前田愛美

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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