意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症から骨髄腫への進行リスクが変化

新たな研究では、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)と呼ばれる良性の状態から、血液がんの一種である多発性骨髄腫に進行するリスクが経時的に変化することが示唆される。

平均すると、毎年MGUS患者の約1%が多発性骨髄腫を発症する。医師は通常、血液中の特定のマーカー量を測定する検査を使用して、MGUSの診断後ただちに、患者の進行リスクを推定する。その初期リスクの評価が、患者がどの程度のフォローアップケアを受けるかを左右する。

しかし、7月18日付のJAMA Oncologyで発表された新たな知見によると、これら血液マーカーのレベル、すなわちがんを発症するリスクは、経時的に変化する可能性がある。

「本研究は、ほとんどの高リスク患者は、ある時点で低リスクであったことを示しています」と、スローン・ケタリング記念がんセンターの医学部教授で骨髄腫部門長である試験責任医師のOla Landgren医学博士は説明した。

「したがって、1回の検査のみでリスクを判定するならば、おそらく正確ではないでしょう」と付け加えた。

これは、MGUSの進行をみる血液マーカーがこうした状況の人々に対し、前向きかつ長期的に追跡された最初の試験です、とNCIのがん疫学および遺伝学部門の共同試験責任医師であるJonathan Hofmann博士は述べた。

これらの結果を確認するにはさらなる研究が必要であると、ダナファーバーがん研究所のNikhil Munshi 医師らは、付随する本文の免責事項に記述した。しかしそれが確認された場合、MGUSの人々がどのようにケアされるか、その結果は「再考する必要があるだろう」という。

現在、進行の徴候を確認するため、高リスクまたは中リスクのMGUSの人のみが毎年のフォローアップ検査を受けることを勧められている。しかし、試験研究者らは、この知見は、初期リスクの評価に関係なく、すべてのMGUSの人に1年ごとの血液検査の必要性を裏付けるものだと述べた。

その考えをさらに探求するために、Landgren博士らは、40歳以上のすべてのアイスランド人の中からMGUSをスクリーニングし、MGUSの人に1年ごとの血液検査を実施することの利点と有害性を調査するために、アイスランドで大規模なランダム化臨床試験を設計して開始した。

現在のガイドラインのもつ課題

MGUSは、免疫系の一部である形質細胞の異常な変化によって引き起こされる病態である。通常、いかなる症状もなく、標準的な検診も行われないため、MGUSのほとんどすべての人が、別の症状や懸念があるときに血液検査を通じて偶発的に発見される、と前NCI研究者であるLandgren博士は説明した。

MGUSから多発性骨髄腫への進行を予防する治療法はない。MGUS患者のフォローアップケアは、個人の初期リスク評価に依存する。

たとえば、現在のガイドラインでは、中リスクまたは高リスクのMGUSの患者は、進行の徴候を確認するために1年ごとの血液検査を受けることを推奨している。進行のリスクは、低リスクのMGUS患者では非常に小さいと考えられているため、フォローアップケアは患者とその医師の裁量に任されている。それは、1年ごとの血液検査からフォローアップなしにまで及ぶ可能性がある、とLandgren博士は指摘した。

これらの推奨事項は、進行のリスクが一定であることを前提としています、とMunshi博士らは記載した。

しかしながら、MGUS進行のリスクが経時的に変化した場合、最初は低リスクであると思われ、フォローアップを選択しない人が、高リスクMGUSへ進行し、より集中的なフォローアップが必要になる可能性がある。1年ごとの検査がなければ、患者はこの変化に気付かないでしょう。

MGUS進行の追跡

経時的なMGUSの進行を追跡するために、研究者らは、NCIの前立腺、肺、大腸、および卵巣(PLCO)がん検診の参加者からの大量の血液サンプルおよび関連する医療情報を利用した。この試験では、定期的な検査によってそれら特定のがんによる死亡を減らすことができるかどうかを調査した。

PLCO試験中に、検査を受けるよう無作為に割り当てられた参加者は、6年間にわたって毎年血液サンプルを提供した。「PLCO試験は、長期にわたるサンプルの収集、大きな症例数、およびがん発生率の長期追跡調査を提供する、この種の研究にとって類のない試験法です」とHofmann博士は述べた。

LandgrenおよびHofmann博士らは、試験中に多発性骨髄腫と診断された187人のPLCO参加者を特定し、血液サンプルの分析により、骨髄腫診断前にMGUSであることを見出した。また、試験期間中に骨髄腫を発症しなかったMGUSがあることが判明した498人の参加者を特定した。

その後、MGUSの進行を測定するために通常使用されるマーカーに加え、免疫不全を示すマーカーのレベルに基づいて、700人近くの個人の各血液サンプルにリスクスコア(低、中、または高)を付けた。

また、軽鎖型MGUSと呼ばれる、見落とされがちなMGUSのサブタイプも検査に含めた。軽鎖型多発性骨髄腫に進行する可能性のある軽鎖型MGUSは、異常な形質細胞によって作られるタンパク質の種類がMGUSと異なる。

時間の経過とともに個人のリスクスコアがどのように変化するかを見たとき、いくつかの興味深いパターンに注目した。たとえば、多発性骨髄腫を発症した人の約半数で、サンプルの1つで高リスクのスコアがみられたが、多発性骨髄腫を発症しなかった患者では、そのような人は1人のみであった。

多発性骨髄腫を発症し、少なくとも3回連続で血液サンプルを入手した人のうち、70%が初期の血液サンプルで低リスクまたは中リスクスコアであったが、その後のサンプルで高リスクスコアを獲得した。このパターンは、多発性骨髄腫への「ゆっくりではあるが持続的な進行を示しています」とMunshi博士らは説明した。

しかし、多発性骨髄腫を発症した人の何人かは、がん診断のわずか1年前には、低リスクまたは中リスクのスコアを示していた。可能性のある説明の1つは、これらの症例での異常な形質細胞が新たな遺伝的変化を獲得し、それが「より急激な進行」につながったということです、という。

全体として、MGUSの軽鎖型サブタイプの患者でも同様の傾向がみられた。

1年ごとの検査は役立つだろうか?

低リスクおよび中リスクのMGUSが数年以内に高リスクのMGUSに転換しうるという知見は、「MGUSまたは軽鎖型MGUSと診断されたすべての人に、患者の臨床上のリスク症状を1年ごとに評価することと同様に、1年ごとの血液検査の必要性を裏付けるものです」と研究著者らは記述した。

1年ごとに血液検査を実施することの考えうる利点は、多発性骨髄腫の早期発見につながり、骨折や腎不全などの骨髄腫関連の重篤な合併症を軽減または予防できることです、とLandgren博士は述べた。多くの場合、MGUSの人々は、これらの合併症の1つをわずらった後にようやく骨髄腫と診断されるのです、と説明した。

3つの後ろ向き研究により、MGUSであり、多発性骨髄腫と診断される前に1年ごとの検査を受けた人は、検査を受けなかった人よりも重篤な合併症を発症する可能性がはるかに低いことが示された。

早期発見のもう1つの利点は、微小残存病変が陰性の患者を含め、「深く持続的な治療効果につながる可能性のある新しい、非常に効果的な薬物」による早期治療が行えることです、とLandgren博士は述べた。

残された問題は、標準的な血液マーカーを使用してMGUSの進行を評価することには限界があることです、と研究著者らは指摘した。これらのマーカーは、進行のリスクだけでなく進行の存在も反映しているため、リスクの明らかな変化は、患者の症状がすでに進行していることを意味しているにすぎないと説明した。

LandgrenおよびHofmann博士は、骨髄腫への進行をより予測できる他のマーカーを探索している。たとえば、Landgren博士は、MGUS患者の骨髄内における、病気にかかった形質細胞とその周囲の細胞の分子特性を研究している。予備的な結果では、特定の遺伝的特徴がMGUSの進行を予測するのに役立つ可能性があることを示唆している。

翻訳担当者 橋本奈美

監修 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)

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