試験不適格の多発性骨髄腫患者でテクリスタマブが有益との実臨床データ
高リスクで治療歴の多い多発性骨髄腫患者(BCMA治療歴のある患者を含む)における二重特異性T細胞エンゲージャーの有効性が後ろ向き研究で明らかになった。
テクリスタマブ(販売名:テクベイリ) は、MajesTEC-1試験で対象とならなかったであろう治療歴の多い多発性骨髄腫患者において臨床的に意義のある奏効をもたらし、また転帰に関連する独立した新規因子を同定したとの研究結果が、米国癌学会(AACR)の学術誌Blood Cancer Discovery誌で発表された。
テクリスタマブは、B細胞成熟抗原(BCMA)受容体を介して多発性骨髄腫細胞を標的とするT細胞作動性二重特異性抗体である。第I/II相MajesTEC-1臨床試験の結果に基づき、4ライン以上の治療歴のある患者を対象に2022年に迅速承認された。しかしながら、この臨床試験で対象とされなかったであろう患者集団、または予後不良に関連するリスク因子がある患者集団における二重特異性免疫療法の潜在的有用性は依然として、現在進行中の臨床研究の重要な焦点である。
「再発/難治性多発性骨髄腫患者にとってテクリスタマブは重要な治療選択肢ですが、いかにリスク因子を修正して臨床現場でのテクリスタマブの使用を最適化するかについては、学ぶべきことがまだたくさんあります」と、Beatrice M. Razzo医師は述べる。同医師は、トーマス・ジェファーソン大学・助教、ペンシルバニア大学・元血液腫瘍学フェローであり、米国15カ所の学術医療センターから成るコンソーシアムで治療を受けた患者を対象とした実臨床試験の筆頭著者である。
この種の研究としては過去最大規模の本研究において、Razzo医師の研究チームは、509人の多発性骨髄腫患者のデータを後ろ向きに解析した。患者の半数は6ライン以上の前治療を受けていた。患者の89%(453人)はMajesTEC-1試験に不適格であり、不適格とされたであろう理由で特に多かったのは、他のBCMA標的治療による治療歴(236人)、血球減少症(189人)、ECOGパフォーマンスステータスが2以上(117人)であった。Razzo医師によれば、全体として、本研究の対象患者はより高リスクの集団であり、すなわちフレイルな患者が多く、多発性骨髄腫が多剤不応性で細胞遺伝学的異常を有する頻度が高かった。
二重特異性抗体は、評価可能な患者506人のうち53%(270人)で腫瘍量が少なくとも半分に減少し、45%(228人)では腫瘍量が少なくとも90%減少した(公式の奏効基準では「非常に良好な部分奏効」と呼ばれる)。追跡期間中央値10.1カ月の時点で、患者の半数は少なくとも5.8カ月間、無増悪状態を維持し、推定61%が1年後も生存していた。高リスクの患者が多いにもかかわらず、MajesTEC-1試験や、二重特異性抗体の使用に関する他の実臨床解析における有病率と比較して、有害事象頻度は高くなかったとみられる。
注目すべきは、MajesTEC-1試験に適格であったであろう患者56人の全奏効率が、試験登録集団と比較して、それぞれ61%と63%と同程度であったことである。
MajesTEC-1試験不適格患者に関して、二重特異性抗体は、BCMA標的CAR-T細胞または抗体薬物複合体ベランタマブ マホドチン(販売名:ブーレンレップ)による治療歴がある多くの患者にも有効であった。そのうち40%が「非常に良好な部分奏効」を示し、内訳は、抗体薬物複合体による治療歴のある患者58人のうち43%、CAR-T細胞による治療歴のある患者104人のうち38%であった。
さらなる解析の結果、テクリスタマブ投与開始前の9カ月以内にBCMA標的治療を受けていた患者では、「非常に良好な部分奏効」の割合が低く、無増悪生存期間が短いことが明らかになった。しかし、このような治療抵抗性は、ベランタマブ マホドチンによる治療を受けて間もない患者よりも、CAR-T細胞による治療を受けて間もない患者でより高頻度にみられた。ベランタマブ マホドチンによる治療を受けて間もない患者の奏効率は、BCMA療法を受けていない患者と同程度であった。
「BCMA CAR-T細胞治療歴のある患者におけるこれらの知見は、間隔を長くすることでT細胞フィットネスが回復するか、BCMA発現サブクローンが再出現する可能性を示唆しています。あるいは、前治療との間隔を長く取れていることが、単純に生物学的悪性度がより低いことを反映しているのかもしれません」とRazzo氏は説明した。
骨髄腫細胞による治療前の広範な骨髄浸潤(60%以上)、または高腫瘍量の間接的マーカー(貧血、血小板減少、低リンパ球絶対数など)も、「非常に良好な部分奏効」率の低さ、および無増悪生存期間の短さ と有意に関連していた。また、試験開始時のフェリチン値高値は、腫瘍量とは無関係に予後不良と関連することも明らかになった。
「いずれにせよ、テクリスタマブは、後期ライン、再発/難治性多発性骨髄腫患者にとって重要な治療選択肢であることに変わりはなく、BCMA治療歴があったり、腫瘍量や炎症のマーカーが高い患者であっても考慮されるべきです」とRazzo医師は述べた。
「私たちの結果は、リアルタイム臨床パラメータとベースライン疾患特性との間にある、患者の転帰に影響を及ぼす複雑な相互作用を浮き彫りにし、これらの患者では、前者は後者と比べて信頼性が高い疾患生態指標である可能性を示唆していますが、まだ学ぶべきことはたくさんあります」とRazzo医師は付け加えた。
そのため、Razzo医師らは進行性多発性骨髄腫患者を対象に、投与期間を限定した薬剤投与を検討する現在進行中の第II相試験に注力している。
本研究の限界として、リアルワールドデータが非標準であること、奏効および毒性評価のための中央独立審査または判定プロセスがないことが含まれる。患者に投与されたテクリスタマブの用量強度に関する情報も解析には利用できなかった。
本研究は、米国国立がん研究所(NCI)研修助成を受けて行われた。Razzo医師はJohnson & Johnson社から諮問委員会報酬を受けている。
- 監修 喜安純一(血液内科・血液病理/飯塚病院 血液内科)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2025/07/09
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