高用量シクロフォスファミドはリンパ腫に対する免疫活性も促進する

・多くのがん種に対する化学療法において主要な薬剤であるシクロホスファミドは、高用量で使用することにより化学療法と免疫療法の両方の役割を示すということが、研究により発見された。
・他のがん種においても免疫系の攻撃を促進する新しいアプローチを提案する。

60年以上前、英国の医師であるDenis Parsons Burkitt氏の研究チームは、高用量のシクロホスファミドを使用することで、サハラ以南のアフリカの小児リンパ腫患者を治療することに成功した。そしてこの度、ダナファーバーがん研究所の研究者らは、シクロホスファミドの作用機序に関する従来の理解は不完全であったことを示した。

Journal of Cancer Discovery誌7月号に掲載の論文で、研究者らは、高用量のシクロホスファミドが、すでに知られているようながん細胞を直接攻撃する作用だけでなく、がん細胞に対する免疫系の攻撃を促進する作用をもつことを発表した。この発見により、シクロホスファミドおよび他のアルキル化剤(最も昔から広く使用されてきた化学療法薬の一種)がどのように作用するかという長年の疑問が解決されるとともに、特定のがんに対して免疫系を刺激するという新たな方法が見出される可能性がある。

「われわれの研究結果から、高用量のシクロホスファミドや他のアルキル化剤が、化学療法と免疫療法の境界を曖昧にすることがわかっている」と、本研究の筆頭著者であるダナファーバーのDavid Weinstock医師は述べている。「これらの発見により、既存の治療法を強化する免疫細胞のスイッチを入れる方法が明らかになるだろう」。

シクロホスファミドは、1954年米国食品医薬品局(FDA)によって承認されたとき、標準治療で使用される薬剤としてまだ8番目の抗がん剤であったた。シクロホスファミドは、Butkitt氏らが、現在はバーキットリンパ腫と呼ばれる悪性リンパ腫(当時の死亡率は100%)の小児患者において高用量で使用し、時にはわずか1回の投与で治療に成功したことから、以後がん治療において主要な薬剤のひとつとなった。現在、シクロホスファミドおよび他のアルキル化剤は、乳がん、卵巣がん、および小児がんを含む多くのがん種の治療において低用量で使用されている。

アルキル化剤は、アルキル基と呼ばれる化学成分をがん細胞のDNAに結合させることにより作用し、DNA分子を破壊する。この結合が、細胞がDNAを複製し、最終的には分裂するという能力を失わせる。

何年にもわたる研究により、アルキル化剤は、DNAを破壊する以外の作用をもつという手がかりが見出された。例えば、研究者らは、ある特定のがん種に対して、高用量のアルキル化剤は低用量よりもはるかに効果的であるが、損傷したDNAの量は、高用量でも低用量でも同じであることを発見した。これは、高用量では何か他の作用が働いていることを示しており、その他のさまざまなデータは、それが免疫系の作用であることを示していた。

別の手がかりが、バーキットリンパ腫組織の病理学的研究から示されている。「バーキットリンパ腫およびその他のMYC遺伝子の再編成を伴う高悪性度リンパ腫は、顕微鏡下でstarry-sky像を示し、リンパ腫細胞の間には多数のマクロファージ(免疫細胞の一種)が分散している」とWeinstock氏は述べた。

研究者らは新たな研究で、マクロファージ(通常、感染した細胞や死んでいく過程の細胞を食べる細胞)に対する高用量シクロホスファミドの効果に焦点を当てた。ヒトのリンパ腫組織を移植したマウスモデルでは、通常の投与量ではなく高用量において、リンパ腫細胞に重度のストレスをかける形で腫瘍細胞を損傷することを示していた。ストレスを受けた細胞は、腫瘍細胞を食べる働きのマクロファージを誘導するサイトカインを分泌した。

研究者らは、これら何千ものマクロファージを分析し、それぞれの遺伝子でどの遺伝子が活性であるか、または発現しているかを同定した。彼らは、CD36およびFcgRIV蛋白を発現するマクロファージのサブセットが、ストレスを受けたリンパ腫細胞に対して特に強い貪食作用を示すことを発見した。Weinstock氏は、これを「スーパーマクロファージ」と称し、リンパ腫細胞を貪食すると説明した。

シクロホスファミドおよび他のアルキル化剤の高用量投与は、バーキットリンパ腫以外の患者にとっては毒性が高すぎる可能性があるが、研究者らは抗がん作用を保持し、かつ副作用が軽度な薬剤を探索している。

Weinstock氏は、これらの発見は、MYC遺伝子の再編成を伴い、その悪性度が特徴であるダブルヒットリンパ腫の治療に特に有用なのではないかと考えている。ダブルヒットリンパ腫はびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の6〜10%を占めるが、現在この疾患おける標準治療は十分ではなく、一般的に患者の予後は不良である。

本研究の筆頭著者は、ダナファーバーのChen Lossosである。
共著者は以下のとおりである。
Amanda L. Christie, MSc, Alexandria Van Scoyk, Kay Shigemori, Kristen E. Stevenson, Sara Morrow, Olivia D. Plana, Kristen L. Jones, Huiyun Liu, Rebecca Modiste, and Quang-De Nguyen, PhD, of Dana-Farber; Yunpeng Liu and Michael T. Hemann, of the Broad Institute of MIT and Harvard University and the Koch Institute for Integrative Cancer Research at MIT; Kellie E. Kolb, Sanjay M. Prakadan, PhD, and Alex K. Shalek, PhD, of the Broad Institute, Institute for Medical Engineering and Science, the Koch Institute for Integrative Cancer Research at MIT, and the Ragon Institute of MGH, MIT, and Harvard; Cameron Fraser and Kristopher A. Sarosiek, PhD, of Harvard T.H. Chan School of Public Health and Harvard Medical School; Christian P. Pallasch of University Hospital of Cologne, Cologne, Germany; Jeffrey W. Craig, MD, Elizabeth A. Morgan, MD, and Jon C. Aster, MD, PhD, of Brigham and Women’s Hospital; and Francisco Vega, MD, PhD, of University of Miami/Sylvester Comprehensive Cancer Center.

本研究は以下の資金提供を受けている。
the National Institute of General Medical Sciences (award number T32GM007); the Cancer Systems Biology Consortium (U54 CA217377); the Searle Scholars Program; the Beckman Young Investigator Program; NIH New Innovator Awards (1DP2OD020839, 5U24AI118672,1R33CA202820, 2U19AI089992, 1R01HL134539, 2RM1HG006193, and 2P01AI039671); the Pew-Stewart Scholars; a Sloan Fellowship in Chemistry; and partially by Cancer Center Support Grant P30-CA14051 from the National Cancer Institute; the MIT Center for Precision Cancer Medicine; and the Koch Institute-Dana-Farber/Harvard Cancer Center Bridge Project.

翻訳担当者 河合加奈

監修 吉原哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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