前立腺がん患者は運動をすべきですか?

Carol Michaels氏は、がんと診断された患者が手術や他の治療から回復するのに役立つように作成された、アメリカ全国で有名な運動プログラムRecovery Fitness(登録商標)の創始者です。また受賞歴のある運動専門家、著述家、プレゼンター、そしてコンサルタントです。ペンシルベニア大学ウォートン校で学位を取得しています。Michaels氏はNational Federation of Professional Trainersと共同でDVDを制作し、Cancer Specialist Recovery(がん専門家回復)コースを創設しました。著作である「Exercises for Cancer Survivors」はがん手術や他のがん療法を受けている人たちに役立つように書かれています。

運動は前立腺がんの男性の健康に良いことを知っていましたか?

運動は糖尿病と肥満のリスクを軽減すると同時に、心臓の健康と骨密度を改善します。それに加えて、運動は血液内の糖分を減らすことにより、インスリン濃度と炎症を低減させます。これは、インスリン濃度、炎症と前立腺がんのリスクとの間に関連性があると考えられるため重要なことです。

運動のもう一つの大きい利点は、アンドロゲン除去療法(ADT)のような一般的な前立腺がん療法の副作用を減らす可能性があることです。アンドロゲン除去療法の副作用には筋肉の減少、脂肪量の増加、骨疾患の骨粗鬆症があります。また、アンドロゲン除去療法によって糖尿病や心臓病のリスクが高くなります。運動は前立腺がん男性に多くみられるストレス、不安、うつを軽減します。

下記は前立腺がん治療中また治療後に始める運動プログラムの基本的な情報です。始める前に必ず医師に相談してください。

前立腺がん治療後にどんな運動をするべきでしょうか?

米国保健社会福祉省は、成人において週に少なくとも150分の中程度の強度の運動、もしくは75分の強度の強い運動を推奨しています。ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動はカロリーを燃焼し、体重をコントロールするために重要です。前立腺がんの男性は、サドルが陰嚢と肛門の間である会陰部を圧迫するため、長時間のサイクリングは控えてください。

適切な運動ルーチンには筋肉量と骨密度の増量と脂肪減少に役立つ筋力トレーニングにも重点を置くべきです。これは特に重要で、サルコペニア(脂肪と筋肉の比率の変化)が治療により起こる可能性があるからです。筋力トレーニングには重り、バンド、機械、あるいは自分自身の体重を用いることができます。身体の動きの協調に役立つバランス運動も効果が見込めます。 

筋肉を強化する方法は?

前立腺を囲む筋肉は、がん手術やその他の治療によって弱くなることがあります。そして膀胱のコントロールができなくなり、尿失禁を引き起こす場合があります。失禁には、軽度から重度まで、さまざまな種類があります。例えば、腹圧性尿失禁では咳をする、笑う、くしゃみをする、運動するなどの動作中に尿が漏れてしまいます。切迫性尿失禁では突然、強い尿意をもよおして尿が漏れてしまうのに対して、持続性尿失禁は膀胱をまったくコントロールできない状態です。 

ケーゲル体操は骨盤底筋を強化できます。骨盤底筋は膀胱や腸を支持し、尿の流れを止める役割があります。ケーゲル体操は前立腺がんの男性にとって大変有効です。それは薬物療法や手術によらずに勃起の問題を改善できるだけではなく、失禁コントロールに役立つからです。

ケーゲル体操は手術や他の治療の前に始めることが賢明です。ケーゲル体操では骨盤底筋を引き締めたり、緩めたりします。筋肉を動かすため、尿の流れを止めたり始めたりするようにしてください。この筋肉をきつく締めて1回に5秒間収縮をキープしてください。このケーゲル体操を10回行ってください。1回ごとに5秒間休憩します。1日4セット行うようにしてください。この推奨どおりにできるまでには数週間もしくは数カ月かかるかもしれません。

運動にはどんな注意が必要ですか?

運動プログラムを開始する前に必ず医師に相談してください。前立腺がんとその治療は特定の副作用を起こし、運動プログラムに変更を要する場合があります。以下の副作用が起こったら、運動を中止してご自身の治療チームの人たちと話してください。

疲労 身体的疲労があると強度の強い運動が困難になります。ご自身の体力をつねに確かめて、それに応じて運動を調整してください。

骨粗鬆症 骨粗鬆症と診断されたら、安全に骨を強化するためにどんな体重負荷運動が可能か医師に聞いてください。 

骨転移 がん細胞が骨に転移した場合、骨折のリスクが高くなります。転倒の可能性が低いバランス体操や他の運動を行ってください。

心肺の問題 もし心筋の弱体化や不整脈があれば、必ず医療スタッフのもとで運動プログラムを始めてください。

リンパ浮腫 この副作用はリンパ節除去後に頻発し、脚もしくは胴体などの身体の一部のむくみにより発覚します。リンパ浮腫がある場合、決まった動作範囲を守り、感染を避けることが重要です。運動の進み具合をペースダウンして、運動の内容を変える必要があるかもしれません。どんな形でもむくみが起きたら必ず医師に連絡してください。

末梢神経障害 がん治療でよくみられるこの副作用は神経系に影響し、身体のさまざまな部分で痺れ、感覚の欠如、チクチク感、疼痛を起こします。神経障害が手に影響している場合、ダンベルなどの重りを安全に持つことは難しいかもしれません。チューブや取っ手の付いたバンドを使用するほうがより安全です。バランストレーニングも重要です。

好中球減少 がん治療は白血球細胞の減少すなわち好中球減少を引き起こす場合があります。これは感染のリスクを高める可能性があります。ジムなど、人が多く定期的な清掃がされていない場所を避けてください。家でできる運動プログラムを医師に聞いてください。

骨髄抑制 骨髄抑制がある場合、骨髄の血液細胞や血小板の生成が低下するため、アザができやすく、出血しやすくなります。そのため、機械や器具で運動するときは注意が必要です。白血球が減少している場合、感染のリスクがさらに高くなることもあります(上述の好中球減少を参照してください)。

翻訳担当者 松本千春

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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