免疫系の賦活による緩徐進行性リンパ腫の縮小

緩徐進行性(低悪性度)B細胞性リンパ腫患者に対して、低線量の放射線と免疫賦活化合物を併用する小規模臨床試験が行われた。この臨床試験において、大多数の患者で腫瘍の縮小が認められた。

臨床試験ではSD-101という化合物を用いたin situワクチン接種と呼ばれる手法が用いられた。SD-101を腫瘍病変のうち1か所に注入すると、直接注入を行っていない他の病変も含め腫瘍が縮小するケースが多くみられた。これは、免疫を賦活させるSD-101が全身性の免疫応答を誘導したことを示唆するものである。

この知見は、8月28日にCancer Discovery誌で発表された。

臨床試験責任医師であるスタンフォード大学のRonald Levy医師は、以下のように説明した。「重篤な副作用は、臨床試験中に報告されませんでした。治療関連の副作用を抑えることにいつも気を配っていますが、低悪性度リンパ腫患者さんにおいては特に重要です。というのも、低悪性度リンパ腫患者さんは診断後にがんの進行や重篤な症状の発現もなく何年も生活されることが通常だからです 」「患者に症状が出る前や、病勢進行の徴候を示す前から治療を受けるような場合は、QOL(生活の質)に悪影響が出ないことが望ましいと考えます」とLevy医師は付け加えた。

この臨床試験に関与していないNCIがん研究センターのChristopher Melani医師は、この試験結果は有望であると指摘した。その上で、低悪性度リンパ腫患者のうち少数は自然寛解に至るとも説明した。

「しかし、このワクチンと放射線の併用でみられた奏効率は、自然寛解や焦点放射線療法(単独)のいずれよりもはるかに高かったのです」とMelani医師は付け加えた。

経過観察の代わりに治療するということ

緩徐進行性で低悪性度のB細胞リンパ腫には、濾胞性リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、皮膚B細胞リンパ腫などが含まれる。Levy医師は、「現在の治療法ではこれらのリンパ腫は完全に排除されず、化学療法や分子標的療法などの有効な治療法は、疾患の進行を遅らせるだけです」と説明している。

「現在使用できる有効な治療法は副作用が生じることがあるため、医師は症状のない低悪性度リンパ腫患者さんに対しては“慎重な無治療経過観察”を勧めることがよくあります。この方法ですと、症状が悪化するか、画像診断でリンパ腫の進行が明らかになるまで治療の開始が遅れることになります」とMelani医師は述べる。

「臨床試験では、低悪性度リンパ腫の進行が明らかとなる前の段階からワクチンと放射線の併用治療を実施することで患者の生存期間が延長することは示されていません。しかし、患者さんの中には悪性リンパ腫と診断されながら、『まだ治療を開始しません』と言われることが辛いと感じる方もいらっしゃるでしょう」とMelani医師は付け加えた。

Levy医師率いる研究チームは、経過観察中の低悪性度B細胞リンパ腫患者29人を臨床試験に登録した。その大多数(21人)が濾胞性リンパ腫患者であった。

全患者において、まず最大サイズの腫瘍に低線量の放射線を照射し、続いてその同じ腫瘍内にSD-101の週1回の注入を5週間行った。これは、ワクチンを腫瘍組織内に直接注入することからin situワクチン接種と呼ばれる。

SD-101には、一部の細菌やウイルスの感染時に免疫系から放出される物質を合成したものが含まれている。樹状細胞という免疫細胞がSD-101を感知すると、成熟過程を経て他の免疫細胞に危険物の存在を知らせるのである。

SD-101を注入する前に腫瘍 に対して放射線を照射すると、リンパ腫細胞の一部が壊されてタンパク質(抗原という)が放出される。SD-101により活性化されている樹状細胞が、この抗原を取り込んで他の免疫細胞に提示することが可能となる。免疫細胞は、樹状細胞の抗原提示による活性化後、血流を介して体内の他の部位に移動し、リンパ腫細胞を認識して死滅させるのである。

この臨床試験は、NCIおよびSDI-101の製造元であるDynavax Corporation社の助成を受けた。

免疫応答の誘発

「放射線単独療法で低悪性度リンパ腫が縮小することはすでに知られているため、全患者がSD-101と放射線の併用により何らかの利益を得るだろうと予想はしていました」とLevy医師は説明した。

予想された通り、治療により腫瘍は患者29人のうち26人において縮小した。7人の患者において、治療後に腫瘍は部分奏効と考えられるほどに縮小した。1人の患者は腫瘍が確認できないほど完全に縮小した(完全奏効)。

SD-101を注入されていない他の部位の腫瘍についても、患者25人の腫瘍の縮小が確認された。また、注入部位の腫瘍が著しく縮小した患者は、体内の他の部位の腫瘍についても強く奏効する傾向があった。これらの患者25人のうち5人に部分奏効が、1人は完全奏効が認められた。

腫瘍が縮小した患者は、腫瘍細胞の攻撃に関与する2種類の免疫細胞が増加し、免疫応答を抑制する1種類の免疫細胞が減少する傾向があった。

SD-101注入後で最も多かった副作用は、1、2日持続する寒気、頭痛、発熱などのインフルエンザ様症状であり、重篤な副作用は認められなかった。1人の患者が発熱と意識障害により治療を中止したが、これらの症状は中止後すぐに改善した。

免疫療法との最適の組み合わせの探索

「試験結果は非常に興味深いものでしたが、まだ十分ではありませんでした」とLevy医師は述べた。腫瘍が大幅に縮小したのは、患者の約25%だけであった。「この試験で確立したSD-101と放射線の併用治療に免疫賦活薬を追加することで、より良い治療ができると考えています」とLevy医師は続けた。

Levy医師率いる研究チームは、低悪性度リンパ腫患者を対象にさらに2つのSD-101の早期臨床試験を実施している。1つは、リンパ腫治療歴のある患者を対象に分子標的療法薬であるイブルチニブ(イムブルビカ)をSD-101と放射線の併用治療に追加した試験であり、もう1つ は、経過観察を選択してきた患者を対象にSD-101と放射線の併用治療にT細胞を賦活する抗体を加えた試験である。

リンパ腫以外のがん種でin situワクチン接種法を研究している研究者達もいる。リンパ腫の試験と並行して発表した別の小規模臨床試験では、SD-101注入と免疫チェックポイント阻害剤であるペンブロリズマブ(キイトルーダ)の併用により進行メラノーマ患者9人中7人の腫瘍が縮小した。

この試験の患者はすべてペンブロリズマブ未治療であり、奏効率はペンブロリズマブ単独治療群で通常見られる奏効率を超えていたと、臨床試験担当医師らは指摘した。このSD-101とペンブロリズマブの併用治療により、2人の患者の完全奏効が認められた。

また、進行中のその他の試験では、他のがん種についてもさまざまな免疫賦活化合物を腫瘍内に注入、または血流を介して投与している。「我々は免疫療法と他の治療法の最適の組み合わせをまだ見つけていません。この免疫療法と他の治療法の組み合わせを最適化する研究が、非常に活発に行われています」とMelani医師は結論づけた。

翻訳担当者 金井健一

監修 佐々木裕哉(血液内科/横須賀米国海軍病院)

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