がんとは何でしょうか?(2021/5/5更新)

米国国立がん研究所(NCI)ファクトシート 

●がんの定義
●がん細胞と正常細胞の違い
●がんはどのようにして発生しますか
がんの原因となる遺伝子の種類
●がんが転移するとき
●非がん性組織変化
●がんの種類
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がんの定義

がんは、人体の細胞の一部が制御不能な状態で増殖し、人体内の他の部位に広がる疾患です。

がんは、数十兆個の細胞から成る人体のほぼどこにでも発生する可能性があります。人体の細胞は通常、人体の必要に応じて、増殖、(細胞分裂により)増加し、新たな細胞を作ります。老化した、あるいは障害を受けた細胞は死滅し、新たな細胞に入れ代わります。

時にこの通常の細胞分裂が正常に機能しなくなることがあり、異常細胞や障害を受けた細胞が増殖、増加してはいけないときに、増殖、増加します。こうした細胞は、腫瘍という組織塊になることがあります。腫瘍はがん性腫瘍と非がん性(良性)腫瘍に大別されます。 

がん性腫瘍は周辺組織に広がります(浸潤)。また、体内の離れた部位に運ばれて新たな腫瘍となることがあります(転移)。がん性腫瘍は悪性腫瘍と呼ばれることもあります。多くのがんは固形腫瘍になりますが、白血病などの血液腫瘍は通常、固形腫瘍になりません。

良性腫瘍は周辺組織に広がりも浸潤もしません。良性腫瘍は切除されても、通常は再増殖しません。一方、がん性腫瘍は時に再増殖することがあります。しかし、良性腫瘍は時にかなり大きくなる可能性があります。良性脳腫瘍などの一部の良性腫瘍は重篤な症状を引き起こす、または、生命に危険を及ぼす可能性があります。

がん細胞と正常細胞の違い

がん細胞は正常細胞と多くの点で異なり、以下の特徴があります。

・増殖するよう促すシグナルがなくても増殖します。正常細胞はこうしたシグナルを受け取ったときにのみ増殖します。

・通常細胞分裂の停止や細胞の死滅(プログラム細胞死[アポトーシス]という過程)を伝えるシグナルを無視します。

・周辺組織に浸潤し、人体内の他の部位に広がります。正常細胞は他の細胞に接触すると、増殖を停止します。また、ほとんどの正常細胞は人体内を移動しません 。

・血管に対して腫瘍に向かって増殖するよう促します。こうした血管は酸素と栄養を腫瘍に供給し、腫瘍から老廃物を排出します。

・免疫系から逃れます。免疫系は通常障害を受けた細胞や異常細胞を除去します。

・免疫系を騙し、がん細胞が生存・増殖するよう促します。 具体的には、一部のがん細胞は免疫細胞に対して腫瘍を攻撃せずに、防護するよう促します。

・重複や部分欠失などの多様な染色体変化を集積します。がん細胞の中には、染色体数が通常の2倍になっているものもあります。

・正常細胞とは異なる種類の栄養素を必要とします。また、一部のがん細胞はほとんどの正常細胞とは異なる方法で、栄養素からエネルギーを産生します。これにより、がん細胞はより迅速に増殖できます。

多くの場合、がん細胞は上に示した異常な活動に大きく依存しており、がん細胞の生存には、こうした異常な活動が不可欠です。この事実が着目され、がん細胞の異常特性を標的にする治療薬が開発されています。実際、一部のがん治療薬は血管が腫瘍に向かって増殖しないようにすることで、主に腫瘍に必要な栄養素を与えないようにします。

がんはどのようにして発生しますか

がんは遺伝子疾患です。すなわち、人体の細胞の機能、特に、細胞がどのようにして増殖・分裂するのかを制御する遺伝子の変異により引き起こされます。

がんの原因となる遺伝子変異は以下の理由で、生じる可能性があります。

・細胞分裂時に生じる異常。 
・環境中の有害物質(例:煙草の煙に含まれる化学物質、太陽からの紫外線)が引き起こすDNA損傷。(詳しくは、「Causes and Prevention」を参照してください。)
・両親からの遺伝。 

人体は通常DNAが損傷した細胞を、がん化する前に除去します。しかし、その能力は年齢とともに低下していきます。これが、高齢期にがんリスクが増加する理由の1つです。

各患者のがんには、固有の遺伝子変異の組み合わせが存在します。これらのがんが増殖し続けるにつれて、さらに変異が生じることがあります。同一腫瘍内でも、さまざまな細胞にさまざまな遺伝子変異が存在することがあります。

がんの原因となる遺伝子の種類

がんの一因となる遺伝子変異は、3種類の主要な遺伝子、すなわち、がん原遺伝子がん抑制遺伝子、およびDNA修復遺伝子に影響を与える傾向があります。こうした変異は、がんの「ドライバー」と言われることがあります。

がん原遺伝子は正常細胞の増殖、分裂に関わっています。しかし、がん原遺伝子は、何らかの原因により変異するか、または通常時よりも活性化されると、発がん遺伝子(がん遺伝子)になることがあります。がん遺伝子により、細胞は本来死滅すべきときに、増殖して生き延びることができるようになります。

がん抑制遺伝子も細胞の増殖、分裂に関わっています。がん抑制遺伝子に何らかの変異が生じた細胞は、無秩序に分裂することがあります。

DNA修復遺伝子は損傷したDNAの修復に関わっています。DNA修復遺伝子に変異が生じた細胞は、他の遺伝子での付加的遺伝子変異や染色体変化(例:重複、部分欠失)を起こす傾向があります。また、こうした遺伝子変異により、細胞ががん化することがあります。

がんの原因となる遺伝子変異について理解が深まるにつれて、一部の遺伝子変異は多くのがん種で高頻度に発生することが明らかになっています。現在、がんで認められる遺伝子変異を標的とするがん治療薬が多数あります。数種類のこうした治療薬は、標的となる遺伝子変異を有するがん患者なら、どこでがんが増殖し始めたかにかかわらず、誰にでも使用できます。

がんが転移するとき

最初に発生した部位から人体内の他の部位に広がったがんを、転移がんと言います。がん細胞が人体内の他の部位に広がる過程を「転移」と言います。

転移がんでは、がん細胞の名称や種類は元のがん、すなわち原発がんと同一です。具体的には、肺に転移して転移性腫瘍を作る乳がんは転移性乳がんで肺がんではありません。

転移がん細胞は顕微鏡下では通常、原発がん細胞と同様にみえます。また、転移がん細胞と原発がん細胞は通常、特定の染色体変異が存在するなど、一部の分子生物学的特性が共通しています。

一部の症例では、治療により転移がん患者の寿命が延長することがあります。他の症例では、転移がん治療の主な目的は、転移がん増殖抑制や転移がん由来の症状の緩和です。転移性腫瘍は人体の機能に重度の損傷を引き起こすことがあります。また、がんで亡くなる人の多くは転移性疾患が原因です。

非がん性組織変化

人体の組織における変化全てが、がんというわけではありません。しかし、一部の組織変化は治療しないと、がんになることがあります。非がん性の組織変化のうち、一部の症例でがん化する可能性があるため観察が必要な例を以下に示します。

・過形成は、組織内の細胞が通常時よりも速く増殖し、細胞が過剰に増えるときに生じます。しかし、過形成細胞や過形成組織の形態は顕微鏡下ではいまだに正常にみえます。過形成は、慢性刺激などのいくつかの要因や疾患によって引き起こされることがあります。

・異形成は過形成よりも進行した疾患です。異形成でも細胞の過剰増殖が認められます。しかし、異形成細胞には異常が認められ、また、異形成組織の形態に変化が認められます。一般に、異形成細胞や異形成組織に異常が認められるほど、がんになる可能性が高くなります。一部の異形成は監視や治療が必要になることがありますが、その必要がないものもあります。異形成の一例は、皮膚に生じるほくろの異常(異形成母斑)です。大部分の異形成母斑は黒色腫(メラノーマ)になりませんが、一部は黒色腫になることがあります。

・非浸潤性がんはさらに進行した疾患です。非浸潤性がんは病期0期がんと言われることがありますが、がんではありません。その理由は異常細胞は他のがん細胞のように、周辺組織に浸潤しないからです。しかし、一部の非浸潤性がんはがんになることがあるため、通常は治療を行います。

がんの種類

100種類超のがんが存在します。がんの種類は通常、がんが生じる器官や組織により表されます。具体的には、肺がんは肺に発生し、脳腫瘍は脳に発生します。がんは、上皮細胞や扁平上皮細胞などのがんになる細胞の種類により表されることもあります。

NCIのサイトで、がんにおける「Cancers by Body Location/System(人体の発症部位)」や「A to Z List of Cancers(AからZまでのがんの一覧表)」を使用して、特定のがん種に関する情報を検索することができます。また、小児がん、ならびに青年および若年成人のがんに関する情報を検索することもできます。

特定の種類の細胞に発生する一部のがんの種類を以下に示します。

がん腫

がん腫は最も高頻度で生じるがんです。上皮細胞(人体の内外表面を覆う細胞)によって形成されます。多くの種類の上皮細胞が存在しますが、顕微鏡で観ると円柱状を呈していることが多いです。

さまざまな種類の上皮細胞に発生するがん腫には、特定の名称がつきます。

腺がんは、液体や粘液などを産生する上皮細胞に生じるがんです。この種の上皮細胞が存在する組織は、腺組織と言われることがあります。乳がん、大腸がん、および前立腺がんの大部分は腺がんです。

基底細胞がんは、表皮(人体の皮膚の外層)の下層(基底層)に生じるがんです。

扁平上皮がんは、扁平上皮細胞(皮膚の外表面のすぐ下に存在する上皮細胞)に生じるがんです。扁平上皮細胞は、胃、腸、肺、膀胱、および腎臓などの他の多くの器官の内側も覆います。扁平上皮細胞は、顕微鏡で観ると、魚の鱗のように扁平にみえます。扁平上皮がんは、類表皮がんと呼ばれることがあります。

移行上皮がんは、移行上皮(尿路上皮)と呼ばれる上皮組織の一種に生じるがんです。移行上皮は拡張・収縮することができる上皮細胞の層からなりますが、膀胱、尿管、および腎臓の一部(腎盂)、ならびに、他の少数の器官の内側に存在します。一部の膀胱がん、尿管がん、および腎がんは、移行上皮がんです。

肉腫

肉腫は、骨、ならびに、筋肉、脂肪、血管、リンパ管および線維組織(腱、靭帯など)などの軟部組織に生じるがんです。

骨肉腫は、最も高頻度で生じる骨のがんです。最も高頻度で生じる軟部肉腫は、平滑筋肉腫、カポジ肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、および隆起性皮膚線維肉腫です。

詳しくは、ページ「soft tissue sarcoma(軟部肉腫)」を参照してください。

白血病

骨髄内の造血組織に生じるがんを白血病と言います。白血病は固形腫瘍になりません。しかし、多数の異常な白血球(白血病細胞や白血病性芽球)が血液や骨髄に増殖し、正常血球を押しのけます。正常血球の数が少ないと、人体は酸素を組織に取り込むこと、出血を止めること、または感染症に対抗することが困難になることがあります。

白血病は主に4種類に分類されますが、白血病の増悪速度(急性か慢性)、および白血病が生じた血球の種類(リンパ芽球性か骨髄性)に基づいて分類されます。急性白血病細胞は迅速に増殖し、慢性白血病細胞は徐々に増殖します。

詳しくは、ページ「leukemia(白血病)」を参照してください。

リンパ腫

リンパ腫は、リンパ球(T細胞やB細胞)に生じるがんです。リンパ球は、病気に対抗する白血球(免疫系の一部)です。リンパ腫では、異常なリンパ球がリンパ節やリンパ管でだけではなく、人体の他の器官でも増殖します。

リンパ腫は主に2種類に分類されます。

ホジキンリンパ腫―ホジキンリンパ腫患者には、リード・シュテルンベルグ細胞と呼ばれる異常リンパ球が認められます。リード・シュテルンベルグ細胞は通常B細胞に由来します。

非ホジキンリンパ腫―非ホジキンリンパ腫は、リンパ球に生じるがんの大きなグループです。非ホジキンリンパ腫には、急性のものもあれば、慢性のものもあります。また、B細胞由来のものもあれば、T細胞由来のものもあります。

詳しくは、ページ「 lymphoma(リンパ腫)」を参照してください。

多発性骨髄腫

多発性骨髄腫は、別種の免疫細胞である形質細胞に生じるがんです。異常形質細胞である骨髄腫細胞が骨髄で増殖し、全身の骨の中に腫瘍を形成します。多発性骨髄腫は、形質細胞骨髄腫やカーラー病とも言われます。

詳しくは、ページ「multiple myeloma and other plasma cell neoplasms(多発性骨髄腫と他の形質細胞性腫瘍)」を参照してください。

黒色腫(メラノーマ)

黒色腫は、メラニン細胞[メラニン(皮膚に色調を与える色素)の産生に特化した細胞]になる細胞に生じるがんです。大部分の黒色腫は皮膚に生じますが、一部は眼など、他の色素組織で生じることもあります。

詳しくは、ページ「skin cancer(皮膚がん)」とページ「intraocular melanoma(眼内黒色腫)」を参照してください。

脳腫瘍・脊髄腫瘍

脳腫瘍と脊髄腫瘍にはさまざまな種類が存在します。脳腫瘍と脊髄腫瘍は、腫瘍が生じた細胞の種類や、腫瘍が最初に中枢神経に生じた部位に基づいて表されます。具体的には、星状膠細胞系腫瘍は、星状細胞と呼ばれる星状の脳細胞(神経細胞の正常を維持)に生じます。脳腫瘍には良性(非がん性)のものもあれば、悪性(がん性)のものもあります。

詳しくは、ページ「成人脳腫瘍の治療(PDQ®)(日本語訳)」や、ページ「小児脳腫瘍および脊髄腫瘍の治療の概要(PDQ®)(日本語訳)」を参照してください。

他の種類の腫瘍

胚細胞腫瘍

胚細胞腫瘍は、精子や卵子になる細胞に生じる腫瘍の一種です。胚細胞腫瘍は、体内のほとんどどの部位にでも生じることがあります。また、良性のものもあれば、悪性のものもあります。

詳しくは、ページ「cancers by body location/system(人体の部位や器官系)」の表「germ cell tumors(胚細胞腫瘍)」を参照してください。

神経内分泌腫瘍

神経内分泌腫瘍は、神経系からのシグナルに応じて血液中にホルモンを放出する細胞から生じます。神経内分泌腫瘍は過剰量のホルモンを産生することがありますが、多くのさまざまな症状を引き起こすことがあります。神経内分泌腫瘍には良性のものもあれば、悪性のものもあります。

詳しくは、ページ「neuroendocrine tumors(神経内分泌腫瘍)」を参照してください。

カルチノイド腫瘍

カルチノイド腫瘍は、神経内分泌腫瘍の一種です。カルチノイド腫瘍は進行が遅い腫瘍で、通常消化器系に(大抵は直腸や小腸に)存在します。カルチノイド腫瘍は肝臓や体内の他の部位に転移することがあります。また、セロトニンやプロスタグランジンなどの血管作用性物質を分泌し、カルチノイド症候群を引き起こすことがあります。

詳しくは、ページ「gastrointestinal carcinoid tumors (消化管カルチノイド腫瘍)」を参照してください。

参考文献

・Tumor Grade(腫瘍の悪性度)

・Pathology Reports(病理報告書)

・がんの転移(日本語訳)

・がんに関するよくある迷信と誤解(日本語訳)

原文更新日:2021年5月5日

翻訳担当者 渡邊 岳

監修 東海林洋子(遺伝医薬品・薬剤学・微生物学/薬学博士)、林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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原文掲載日 

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