胸腺の健康状態ががん患者の免疫療法の効果と関連

胸腺の健康状態ががん患者の免疫療法の効果と関連

  • 胸腺の健康状態が良いほど、様々ながん種における免疫療法の治療成績が良好であることが示されている。
  • AIを活用したCTスキャン解析により胸腺の健康状態を追跡し、免疫機能を評価することが可能である。
  • 既存のバイオマーカーに加え、胸腺の健康状態を評価することで免疫療法に適した患者選択がしやすくなり、精密がん治療をさらに推進できる可能性がある。 

胸腺は免疫系の中核をなす部位であるが、胸腺の健康状態が、がん患者の免疫チェックポイント阻害薬治療の転帰と関連しているという画期的な国際研究結果がESMO 2025で発表された。(1)  

「免疫チェックポイント阻害薬はがん治療を大きく変えましたが、一部の患者では治療効果が依然として限定的です」と、筆頭著者Simon Bernatz博士(米国ボストン、マサチューセッツ総合病院ブリガム医療センター、AI in Medicine Program)は言う。同博士は、PD-L1や腫瘍変異量(TMB)といった現在の免疫療法バイオマーカーでは腫瘍側の特徴に焦点が当てられているものの、患者側の免疫能力はほとんど考慮されていないと指摘した。 

今回の研究では、免疫チェックポイント阻害薬治療を受けた約3,500人の実臨床患者から得られたルーチン胸部CTスキャンを解析し、胸腺の健康状態が免疫療法の効果と関連する可能性を検討した。研究者らは、CTスキャンデータに対する多層解析を実行するために開発された深層学習フレームワークに基づくAIツールを用い、胸腺のサイズ、形状、構造を評価して胸腺の健康状態をスコア化し、これらのスコアが免疫療法における患者の転帰とどのように関連するかを検証した。 

結果として、本研究に含まれた1,200人強の非小細胞肺がん患者群において、胸腺の健康状態が良好であることは、がん進行リスクの35%低下(ハザード比 [HR] 0.65; 95%信頼区間[CI] 0.54-0.77)および死亡リスク44%低下(HR 0.56; 95% CI 0.46-0.68)と関連していた。また、メラノーマ(悪性黒色腫)、腎がん、乳がんを含む他のがん患者においても、胸腺の健康状態と免疫療法の治療成績に正の相関が認められた。 

この研究のさらなる部分では、CTスキャンに対する深層学習解析が、胸腺の健康状態を示す有効な指標となることが確認された。研究者らは非小細胞肺がん患者464人のサブグループにおいて、T細胞受容体とその関連タンパク質をシーケンシングした。これによりT細胞の分化と機能に関する詳細な情報が得られ、CTスキャン解析用の新たなAIツールで評価した胸腺の健康状態と相関を示した。 

「免疫療法はT細胞の活性化に依存し、胸腺はT細胞が成熟する場所です。われわれの研究は、胸腺の健康状態が多様ながん種において免疫療法の治療成績向上と関連していることを示しています」とBernatz博士は説明した。

将来を見据え、胸腺の健康状態が多様ながん種における適応免疫能の非侵襲的バイオマーカーとして機能し得ることを今回の知見は示唆していると同博士は考える。「胸腺の健康状態は、精密がん治療における患者層別化を強化する可能性を秘めています」と彼は示唆する。「これを臨床実践に確立するにはランダム化臨床試験が必要です。しかし胸腺の健康状態は、現在のがんバイオマーカーパネルに欠けている柱の一つであり、確立された腫瘍重視バイオマーカーと並んで、患者の免疫系を臨床判断に組み込む第一歩となり得ると考えています」 。

「この知見の主な限界は、前向き研究による検証がなされていない点です。免疫療法を受ける患者における胸腺の健康状態評価を含む前向き研究が必要です」と、本研究に関与していないAlessandra Curioni-Fontecedro博士(スイス、フリブール大学腫瘍学教授)は述べた。ただし、検証コホートの追加が研究の質を高めた点、また胸腺の健康状態について日常的評価はしていないが、がん患者では胸部CT検査が一般的に実施されている点に注目している。 

「がん患者における免疫療法の新規バイオマーカーが必要な理由は数多くあります」とCurioni-Fontecedro博士は示唆した。「肺がんでは、免疫療法を単独で投与するか、化学療法など他の治療と併用投与するかを判断するためのバイオマーカーが必要です。また、個々の患者の予後をより正確に予測する優れたバイオマーカーも必要です」 。

【参照】
1 Abstract 108O - ‘Thymic health is associated with immunotherapy outcomes in patients with cancer ‘, presented by Dr Simon Bernatz during Proffered Paper session 1: Basic science & Translational research on Saturday, 18 October, from 10:15 to 11:45 (CEST) in Hall 5.2 (Nuremberg Auditorium)  

  • 監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2025/10/16

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