がんの不安は患者本人以外にも及ぶ

がんの不安は患者本人以外にも及ぶ

大切な人ががんと診断されたとき、米国の成人にとって最大の心配ごとは、余命、治療方針、痛み

がんと診断されることは、患者にとって人生を変える出来事であり、次の診察までの数週間から数カ月を過ごすという新たな時間軸の中で生きることになるため、短期的・長期的な精神衛生上の問題が生じることがある。オハイオ州立大学総合がんセンター・アーサー・G・ジェイムズがん病院・リチャード・J・ソロヴ研究所(OSUCCC-James)で実施された新たな調査では、がんが広範囲に及ぼす感情的影響に焦点が当てられ、大切な人ががんと診断されたときに大人の心に重くのしかかるものが明らかになった。

OSUCCC-Jamesの心理社会的腫瘍学プログラム責任者であるKevin Johns医師によると、複数の研究からがん患者はうつになる可能性が平均的集団の5倍で、乳がんサバイバーの推定42%が不安を経験していると示唆される。

「うつや不安は、患者が治療を完遂し、治療後に完全に回復する力に大きな影響を及ぼし、そうした能力のすべてが長期生存に影響します。患者が精神科医に診てもらうのに、住んでいる場所や加入している保険にもよりますが、最長で1年待つことも珍しくありません。がん治療を受けている患者が、そんなに長く待つことはまず無理です。受診は急務であると同時に慢性的でもあるため、適時に受診できることが非常に重要なのです。私たちは、患者とその介護者をよりよくサポートするために、ケアにおける格差を埋める努力をしています」とJohns医師は話す。

介護者は大切な人に寄り添ってストレス、悲しみ、心配の重荷を背負っている

米国の18歳以上の成人を対象にOSUCCC-Jamesが委託した最近の調査では、大切な人ががんと診断されたときに最も心配することに焦点が当てられた。調査によると、調査対象の成人の4分の3以上が、大切な人のがん診断について抱いている最大の懸念として、余命(76%)、治療方針(69%)、痛み(65%)を挙げている。心配ごとは以下の通り広範囲に及んでいる。

  • 副作用 (55%)
  • 家族のストレス(54%)
  • 悲しみ (49%)
  • 薬物療法 (42%)
  • 介護者のストレス(34%)
  • 身体イメージ (11%)
  • 上記なし(2%)

「介護者の悩みの複雑な性質は、患者を治療を通して支え、がんサバイバーとしての 『新しい日常』へと導く上で、メンタルヘルス・コミュニティとして私たちが直面する独特な課題をよく表しています」とJohns医師は言う。「それはまさに人生の旅であり、どんな旅でもそうであるように、極端な浮き沈みがあり、それを乗り越えなければなりません。適切なメンタルヘルス・ケアを通じて、診断の先にある患者の成長を支援することは、質の高い生活を実現するために最も重要なことです」。

他の注目すべき調査結果は以下のとおりである。

  • 18~29歳の若いアメリカ人は、家族ががんと診断されたときの最大の心配ごととして悲しみ(66%)を挙げる割合が他の年齢層よりも高い。
  • また、若年層は65歳以上の高齢者よりも、身体イメージ(18%)が最大の心配ごとである傾向が強い。
  • 逆に、高齢のアメリカ人は、大切な人が診断されたときに最も心配することとして治療方針(74%)と介護者のストレス(37%)を挙げる割合が若年アメリカ人より高い。

Johns医師は、診断、治療、サバイバーシップ・フォローアップなど、がんになってからさまざまな段階において、さまざまな形で課題が現れる可能性があるため、がんサバイバーのメンタルヘルスは特に複雑であると指摘した。認知機能の変化、激しい疲労、治療の影響による 『ブレインフォグ(脳が霧に覆われたような感じ)』、さらにはPTSD(心的外傷後ストレス障害)様の症状や幻覚、病院でのせん妄などを、あまり語られることはないが、患者にとっても介護者にとっても非常に厄介ながんの副作用として挙げた。

「このような症状が起こりうることを患者やその介護者に事前に知らせておかないと、不要な不安や羞恥心を引き起こす可能性があるため、前もって患者や介護者と協力し、起こりうることに備えることが非常に重要なのです」とJohns医師は言う。

変化し、拡大するケアモデル

Johns医師の主導の下、OSUCCC-James心理社会的腫瘍学プログラムは、OSUCCC-Jamesの患者をサポートするために、精神科医、心理学者、ソーシャルワーカー、その他のメンタルヘルス専門家から成るチームを大幅に拡大した。

さらにJohns医師は、OSUCCC-Jamesが、乳腺腫瘍医が患者の不安とうつの医学的管理をナビゲートできるようにする革新的な腫瘍学コンサルティングサービスを試験的に開始した。この試験的な取り組みは、患者と腫瘍内科医から好意的に受け止められ、現在、頭頸部がん患者に対しても拡大されている。

「がん治療を受けている患者は、すでに多くの予約を入れており、一般的に腫瘍内科医と非常に近い関係を築いているため、専門の医療機関にすぐにアクセスできない場合は、この担当医が既定メンタルヘルス医療従事者にもなります」とJohns医師は言う。「この新しい支援モデルは、既存のメンタルヘルス支援サービスをできるだけ多くの患者に行き渡らせるために考案されました」。

OSUCCC-JamesにおいてJamesCare for Lifeが患者と介護者のために提供する心理社会的腫瘍学事業、その他の事業については、cancer.osu.eduをご覧になるか、1-800-293-5066までお電話ください。

調査方法

今回の調査は、SSRSがオピニオン・パネル・オムニバス・プラットフォームで実施したものである。SSRSのオピニオン・パネル・オムニバスは、全国規模で月2回行う確率調査である。データ収集は2025年5月2日から5月5日まで、1,008人の回答者を対象に行われた。調査はウェブ上(978人)および電話(30人)で、英語で行われた。全回答者の誤差は、95%信頼区間で±3.6%ポイントである。すべてのSSRSオピニオン・パネル・オムニバスのデータは、対象母集団である18歳以上の米国成人を代表するように加重されている。

  • 監修 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)
  • 記事担当者 山田登志子
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2025/07/15

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

がんに関連する記事

胸腺の健康状態ががん患者の免疫療法の効果と関連の画像

胸腺の健康状態ががん患者の免疫療法の効果と関連

胸腺の健康状態が良いほど、様々ながん種における免疫療法の治療成績が良好であることが示されている。AIを活用したCTスキャン解析により胸腺の健康状態を追跡し、免疫機能を評価することが可能...
米国癌学会(AACR)年次報告書2025、がん研究への連邦投資の救命効果を強調の画像

米国癌学会(AACR)年次報告書2025、がん研究への連邦投資の救命効果を強調

FDAは同報告書の対象となった12カ月間に20種の新規がん治療薬を承認したが、若年がんなどの課題が残る一方、NIHの混乱で進歩が危ぶまれている。本日、米国がん学会(AACR)は...
がん関連神経傷害は慢性炎症と免疫療法抵抗性をもたらすの画像

がん関連神経傷害は慢性炎症と免疫療法抵抗性をもたらす

がん細胞が神経鞘を破壊し、神経損傷と慢性炎症を引き起こすことが判明した。これらの神経傷害が免疫力の疲弊と免疫療法抵抗性を引き起こす。がんが誘発する神経傷害経路を標的とすることで、抵抗性...
【ASCO25】ダナファーバー①乳がん、大腸がん標準治療の再定義、KRASG12C肺がん、脳リンパ腫、前立腺がんの画像

【ASCO25】ダナファーバー①乳がん、大腸がん標準治療の再定義、KRASG12C肺がん、脳リンパ腫、前立腺がん

以下の研究結果は、2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された。• ダナファーバーの研究は、希少がんや悪性腫瘍に対する有望な治療法もサポートしている。研究...