米国癌学会(AACR)年次報告書2025、がん研究への連邦投資の救命効果を強調
FDAは同報告書の対象となった12カ月間に20種の新規がん治療薬を承認したが、若年がんなどの課題が残る一方、NIHの混乱で進歩が危ぶまれている。
本日、米国がん学会(AACR)は、年次報告書Cancer Progress Report第15版を発表した。AACRの教育およびアドボカシー活動の要である、この包括的な報告書は、がんの罹患率、死亡率、サバイバーシップに関する最新統計を提供するもので、基礎/トランスレーショナル/臨床がん研究、がんに関連する集団科学に対する連邦政府の投資が、健康増進と救命における目覚ましい科学的進歩につながっていることを強調している。
AACR Cancer Progress Report 2025では、過去10年間における血液腫瘍の究明進展が、血液悪性腫瘍だけでなく、固形がんやがん以外の疾患に対する画期的治療法の開発にいかに貢献したかを説明する特集を設けている。報告書全体を通して、最近の科学的ブレークスルーの恩恵を受けた患者の個人的な体験談から、がん研究の価値と実社会への影響が具体的に説明されている。本報告書はさらに、米国国立衛生研究所(NIH)の不安定な現状が、がん患者とその愛する人々にいかに悪影響を及ぼしているか、そして、がんに対する将来の進歩を脅かしているかを取り上げている。
今年の報告書は、政策立案者に対してNIH、米国国立がん研究所(NCI)、米国食品医薬品局(FDA)、米国疾病予防管理センター(CDC)を支援するために立ち上がり、2026会計年度にがん研究への資金を大幅に増額するよう強く求めるタイムリーな行動喚起で締めくくられている。
「この報告書が示すように、がんに対する進歩には高度な協働プロセスが必要です」と、AACR会長であるLillian L. Siu医師(FAACR)は述べた。「基礎/トランスレーショナル/臨床研究者、そして集団科学研究者の間で知識を交換することは、がんの複雑性を理解し、患者の転帰を改善するために不可欠です。研究から臨床へ、そして研究に戻す技術革新が、がんの早期発見と、延命と生活の質の維持につながる、より精密な治療法の開発を急速に推進しています。研究者や臨床医だけでなく、患者、擁護者、資金提供者、政策立案者も含め、私たちが協力し続ければ、この勢いを確実に持続させることができ、あらゆる発見の成果として、がんに罹患する人の数を減らし、より多くの人が治癒し、すべての患者がより健康で長生きする世界に近づくことができます」。
がん研究は生活の質を向上させ、生存を延ばし、命を救う
NIHをはじめとする連邦保健機関との協力のもと、がん医学研究コミュニティはがんに対する研究を続け、患者が診断後もより長く、より良く生きられるよう支援している。 AACR Cancer Progress Report 2025によれば、以下の通りである:
- 2024年7月1日から2025年6月30日までに、FDAは20種の新規抗がん剤を承認した:
・ 初のT細胞受容体(TCR)T細胞療法。一部の軟部肉腫患者の治療薬として承認。
・ 胃がん細胞上の新たなタンパク質を標的とする新しい抗体治療薬。胃がんまたは胃食道がん患者に有効。
・ 脳腫瘍治療における初のIDH標的治療薬。この遺伝子に変異がある若年成人患者に新たな希望。
・ 2つの新しい抗体薬物複合体。両方とも肺がん治療薬として承認され、一方は乳がん治療薬としても承認。
- この同じ時期に、FDAは以下も承認した:
・ すでに承認されている8種の抗がん剤の新たな適応。
・ 低強度電界を利用して肺がん細胞の増殖を抑えるウェアラブル機器。
・ 大腸がん検診用の新たな低侵襲早期発見スクリーニング検査方法2種。初のリキッドバイオプシー検査と次世代マルチターゲット便DNA検査。
・ 子宮頸がん検診用の在宅検体採取デバイス。
・ 複数のAI搭載デバイスやソフトウェアツール。がんのリスク予測、診断、早期発見に有用。
- 喫煙率の低下、および予防、早期発見、治療の進歩により、1991年から2023年の間に、米国における年齢調整後のがん死亡率は34%低下した。この低下は、450万人以上のがん死亡回避を意味する。
- すべてのがんを合わせた5年相対生存率は、1975年から1977年の間に診断された人々においては49%であったのが、2015年から2021年の間に診断された人々では70%まで上昇した。
- 2025年1月1日時点で、米国にはがんの既往歴のある成人と小児が1860万人以上暮らしており、これは米国総人口の5.5%に相当する。
血液腫瘍に対する目覚ましい進歩
血液腫瘍に対する研究進展は、特に過去10年間において、血液腫瘍に関連する死亡者数を大幅に減少させ、生存率を向上させ、生存者はより充実した人生を送れるようになった。今年のCancer Progress Reportの特集で以下のように説明されている:
- 血液腫瘍の治療は、精密がん医療の革命をもたらし、がん免疫療法の分野で新たな道を切り開いた。過去10年間で、FDAは多種類の血液悪性腫瘍の治療を目的とした、29種の新たな分子標的治療薬と21種の新たな免疫治療薬を承認した。
・ FDAに認可された最初の分子標的治療薬のひとつであるイマチニブ(販売名:グリベック)は、2001年に慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬として認可された。この治療薬は、かつては致命的な疾患であった慢性骨髄性白血病を、管理可能な慢性疾患へと変えた。研究者たちはイマチニブの成功を基に研究を続け、その後数年の間にCMLを対象とした5種の分子標的治療薬が追加承認された。分子標的治療薬は現在、血液腫瘍でも固形腫瘍でも、がん治療の不可欠な柱となっている。
・ キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は細胞免疫療法の一形態であり、血液腫瘍治療に革命をもたらした。最初のCAR-T細胞療法は2017年にFDAによって承認された。それ以来、FDAはさらに6種のCAR-T細胞療法を承認しており、いずれも白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫を含む血液腫瘍の治療薬である。
- 精密がん医療の進歩により、血液腫瘍のなかで米国で最も多い非ホジキンリンパ腫(NHL)の死亡率は、1991年から2023年の間に43%低下した。
- 同時期に多発性骨髄腫の死亡率は 31%低下した。死亡率の低下は、米国での罹患率が上昇する中でも続いており、治療と疾患管理の進展を物語っている。
- この進展は現在も続いている。本報告書の対象となった12カ月間に、多種の血液腫瘍を治療する3種のがん治療薬が承認された:
・ Revumenib [レブメニブ](販売名:Revuforj)。特定の遺伝子変異を有する急性白血病患者を対象とした初のメニン標的治療薬。
・ 皮膚T細胞リンパ腫と呼ばれる稀な非ホジキンリンパ腫の治療を目的とする、新規の細胞毒性融合タンパク質。
・ Obecabtagene autoleucel[オベカブタゲン オートロイセル](販売名:Aucatzyl)。急性リンパ性白血病患者に対する新規CAR-T細胞療法。この高悪性度腫瘍患者の選択肢が増える。
第4の治療薬であるtafasitamab-cxix[タファシタマブ-cxix](販売名:Monjuvi)。濾胞性リンパ腫の治療薬として拡大承認。
大きな進歩があっても、がんは依然として脅威である
近年、がんの予防、早期発見、治療が飛躍的に進歩しているにもかかわらず、がんは何百万人ものアメリカ人を苦しめ続けている。以下、AACR Cancer Progress Report 2025の記載:
- 2025年には、200万人以上が新たにがんと診断され、61万8千人以上ががんで死亡すると推定されている。
- 米国における全がん罹患率は近年安定しているが、膵臓がん、肝臓がん、子宮がん、HPV関連口腔がん、喫煙経験のない人の肺がんなど、特定のがんの罹患率は上昇している。
- 50歳以下の成人のがん(若年がん)も増加している。2010年から2019年にかけて、14種類のがん罹患率が49歳以下で増加している。大腸がんはその顕著な例である:
・ 米国では2018年から2022年にかけて、50歳未満の大腸がん罹患率は年平均5%上昇した。一方、65歳以上の罹患率は年平均2%低下した。
・ 2019年から2023年の間に、大腸がん死亡率は50歳未満の患者で年平均1.1%上昇した。一方、65歳以上の患者の死亡率は年平均2.3%低下した。
- 若年がん増加の背景究明は、集中的に研究されている分野である。新たな要因と考えられるものとして、肥満、若い人々の体内へのマイクロプラスチック蓄積、抗生物質の反復・長期使用、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物(PFAS、「永遠の化学物質」)への暴露、大腸菌の特定の株などがある。
- 米国では特定の集団が、がんによる不釣り合いな負担を強いられている。がん格差は、新規症例数や死亡数、診断時の病期など、がんに関連する指標における不利な差異として定義され、米国人口の複数の層に影響を及ぼしており、公衆衛生上の重大な懸念であり、これを完全に理解し、対処するための特別な取り組みが必要である。
議会は国民の健康のために医学研究を守らなければならない
本報告書に概説されているように、過去数十年にわたるがん研究の各分野の献身的な研究者の努力により、多くの患者の転帰は劇的に改善された。この進歩の多くは、米国科学の「至宝」であるNIHからの支援によってもたらされた。例えば:
- 1975年から2020年まで、連邦政府の資金援助による予防と検診の取り組みにより、5つの主要ながん種(乳がん、子宮頸がん、大腸がん、肺がん、前立腺がん)で475万人の死亡が回避された。
- 過去40年間、連邦政府が資金を提供した臨床試験の成果として、米国のがん患者における延命効果は1,400万年分であった。
- NIHが資金提供した研究は、2010年から2019年にかけてFDAが承認した薬剤356種のうち354種に貢献している。
この投資は医学の飛躍的進歩を促すだけでなく、アメリカ経済に活性化させる。2024年で言うと:
- NIHへの資金1ドルにつき、2.56ドルの経済効果があった。
- 全体として、NIHへの資金提供は407,782人の新規雇用を支え、945億8000万ドルの経済活動を生み出した。
研究に対する強固で頼れる連邦政府の支援は、米国を科学革新の最前線に位置づけてきた。1990年から2022年にかけて、米国はがん新薬の半数近くを最初に上市し、新規抗がん剤治療の承認と導入において世界をリードしてきた。実際、より効果的ながん治療を追求する科学的発見の期待は、かつてないほど高まっている。しかし、この極めて重要な時期に、NIHをはじめとする連邦医療機関の混乱が、患者のための現在進行中の、そして将来の進歩を脅かしている。
短期的には、研究は延期され、全米の研究所はスタッフを解雇または雇用制限せざるを得なくなり、救命の可能性のある治療への道が阻まれている。
長期的には、NIHの混乱が続き、がん研究に対する連邦政府の資金援助が持続するかどうかが不確実であれば、優秀な科学者が学術研究以外のキャリアを選んだり、米国外での研究機会を求めたりする可能性があるため、米国のがん研究者の士気は低下し、その数は減少する可能性がある。がん研究の労働人口が減少すれば、有望な発見は放棄され、がんに対する進歩は遅れるだろう。科学と技術革新におけるアメリカのリーダーシップは損なわれ、国の経済と競争力を弱めることになる。最も悲惨なのは、がん患者が選択肢も少ないまま放置され、より多くの命が失われることである。
心強いことに、上下両院歳出委員会のリーダーたちは、2026年度予算案において、医学研究とNIHを超党派で強力に支持している。上院では、Susan Collins(共和党、ミネソタ州選出)、Patty Murray(民主党、ワシントン州選出)、Shelley Moore Capito(共和党、ワシントン州選出)、Tammy Baldwin(民主党、ワシントン州選出)の4氏が、NIHへの強力な資金援助を支持している。彼らの努力に対して下院では、Tom Cole(共和党、オクラホマ州選出)、Rosa DeLauro(民主党、コネティカット州選出)、Robert Aderholt(共和党、アラバマ州選出)が呼応している。さらに、Katie Britt上院議員(共和党・アラバマ州)、Tammy Duckworth上院議員(民主党・イリノイ州)、Mike Kelly下院議員(共和党・ペンシルベニア州)が、今年の報告書において医学研究の重要性を強調した。
AACRは、救命のための発見の継続に向けて尽力している上記議員をはじめとする多くの議員を称賛する。最終的な資金提供の決定が依然として未決であり、政府閉鎖のリスクが高まる中、超党派リーダーシップは特に重要である。AACR Cancer Progress Report 2025は、連邦議会に対し以下のことも要望している:
- 医学研究に可能な限り強力な投資(2026年度、NIHに513億300万ドル、NCIに79億3,400万ドル)を行う。このレベルの支援は、科学研究労働力を維持し、がんやその他の疾患に対する新たな画期的発見を促進し、救命の進歩に託している患者や家族に対する国家的コミットメントを維持するために不可欠である。
- 遅延し凍結されている未使用の研究資金を解放し、有望な科学が重要な段階で失われないようにし、患者が救命研究の利益を受けられるようにする。
- 検診、HPVワクチン接種、禁煙、早期介入で後れを取らないよう、がんを予防する公衆衛生プログラムを保護する。これらの取り組みは命を救う。
- 早期キャリアおよび初期段階の研究者を支援し、研究キャリアを安定させることで、ポスドク研究者や若手研究者が科学を離れたり、海外の研究職に採用されたりするのを食い止める。米国の研究職が離職するたびに、国の発見能力が弱まり、患者が緊急に必要としている画期的発見が遅れることになる。
- NIH査読システムを持続させることで、科学の完全性を守る。このシステムは、納税者の資金が最も厳密で優れた科学に使われることを保証する最高水準のシステムである。
AACRの最高経営責任者(CEO)であるMargaret Foti医学博士(hc)は、次のように述べる。「私たちは、この激動の時期に医学研究を支援するために行動を起こした議会の指導者たちに深く感謝しています。がん研究に対する連邦政府の投資は、人々の苦しみを減らし、希望を取り戻し、命を救うものです。AACR Cancer Progress Report 2025に記載されている、がんに立ち向かう驚異的な勢いを維持するためには、NIHおよび他の連邦医療機関への強固な資金提供を継続しなければなりません」。
- 監修 久保田馨(臨床腫瘍部門/日本医科大学呼吸ケアクリニック)
- 記事担当者 山田登志子
- 原文を見る
- 原文掲載日 2025/09/17
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
がんに関連する記事
胸腺の健康状態ががん患者の免疫療法の効果と関連
2025年11月6日
がん関連神経傷害は慢性炎症と免疫療法抵抗性をもたらす
2025年8月28日
がんの不安は患者本人以外にも及ぶ
2025年7月31日
【ASCO25】ダナファーバー①乳がん、大腸がん標準治療の再定義、KRASG12C肺がん、脳リンパ腫、前立腺がん
2025年6月17日




