アブラナ科の野菜とがん予防

NCIファクトシート 投稿日:09/11/2014 原文掲載日 : 06/07/2012

キーポイント

●アブラナ科の野菜には、ビタミン類、ミネラル類、その他の栄養素、またグルコシノレートとして知られる化合物が含まれています。

●グルコシノレートは数種類の生物学的活性化合物に分類され、現在では抗癌作用の可能性について研究が行なわれています。

●グルコシノレートのうち、細胞および動物で抗癌作用を示した化合物もありますが、ヒトを対象とした試験では結果が明らかになっていません。

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1. アブラナ科の野菜にはどのようなものがありますか?

アブラナ科の野菜は、アブラナ属の植物の一部です。この野菜には主なものとして以下の野菜が含まれます。

● ルッコラ ● ルタバガ ● 西洋わさび ● キャベツ ● チンゲン菜 ● カブ ● ケール ● カリフラワー ● ブロッコリー ● クレソン ● ラディッシュ ● コラードグリーン ● 芽キャベツ ● わさび

2. なぜがんの研究者は、アブラナ科の野菜の研究をしているのですか?

アブラナ科の野菜は栄養素が豊富であり、数種類のカロチノイド(βカロチン、ルテイン、ゼアキサンチン)、ビタミンC、E、およびK、葉酸、またミネラル類があります。また優れた食物繊維の摂取源でもあります。

さらにアブラナ科の野菜には、グルコシノレートという硫黄を含有する化合物群が含まれています。この化合物がアブラナ科の野菜のツンとした匂いや苦味の原因になります。

調理中、咀嚼中、また消化中に、アブラナ科の野菜に含まれるグルコシノレートが分解され、インドール、ニトリル、チオシアン酸、およびイソチオシアン酸などの生物学的活性化合物が生成されます (1)。インドール3カルビノール(インドールの一種)およびスルフォラファン(イソチオシアン酸の一種)は、その抗癌作用について最も頻繁に研究が行なわれています。

インドールやイソチオシアン酸は、ラットおよびマウスでの膀胱癌、乳癌、大腸癌、肝臓癌、肺癌、および胃癌などの複数の臓器で癌細胞の増殖を抑制することが示されています (2, 3)。動物や細胞を用いた非臨床試験でこれらの物質ががん予防に役立つ可能性のある以下の作用機序が確認されています。

  • DNAの損傷から細胞を保護する働きを助ける。
  • 発がん性物質を不活性化する。
  • 抗ウイルス作用や抗菌作用がある。
  • 抗炎症作用がある。
  • 細胞死(アポトーシス)を誘発する。
  • 腫瘍血管形成(血管新生)や腫瘍細胞の遊走(転移に必要)を抑制する。

 ただし、ヒトを対象とした試験では、質問3に示すとおり、複雑な結果が得られています。

3. アブラナ科の野菜ががんリスクの軽減に役立つというエビデンスがありますか?

アブラナ科の野菜の摂取とがんリスクとの関連性の可能性について検討が行なわれています。得られたエビデンスは専門家により検討されています。主要な4種類の癌の主な試験について、以下に簡単にまとめました。

前立腺癌:オランダ (4)、米国 (5)および欧州(6)でそれぞれ行なわれたコホート試験では、さまざまなアブラナ科の野菜を毎日摂取することについて調査を行い、前立腺癌リスクとの関連性がほとんどまたは全くないことが確認されました。しかし、症例対照試験では、アブラナ科の野菜の摂取量が多い参加者では、前立腺癌のリスクが低いことが示された試験もあります。(7, 8).

大腸癌:米国およびオランダで行なわたコホート試験から、全体的にアブラナ科の野菜の摂取と大腸癌リスクとの関連性が無いことが示されました。例外として、オランダで行なわれた食事と癌に関するオランダ人を対象としたコホート試験1試験で、アブラナ科の野菜の摂取量が多い(男性ではなく)女性では、(直腸癌ではなく)結腸癌リスクの低減が示されました。(12).

肺癌:欧州、オランダおよび米国でそれぞれ行なわれたコホート試験では、異なる結果が得られました (13-15). 。大部分の試験では摂取とがんリスクとの関連性がほとんどないことが報告されたものの、米国で行なわれた試験(Nurses’ Health Study and the Health Professionalsの追跡試験)の成績を用いた解析結果では、1週間でアブラナ科の野菜の1人前の分量を5皿分(5  servings)以上摂取する女性では、肺癌リスクが低いことが示されています。 (16).

乳癌:症例対照試験1試験では、アブラナ科の野菜の摂取量が多い女性では乳癌リスクが低いことが示されました。米国、カナダ、スェーデン、およびオランダで行なわれたメタ解析試験では、アブラナ科の野菜摂取と乳癌リスクとの関連性は認められませんでした。米国で女性を対象とし追加で実施したコホート試験でも同様であり、乳癌リスクとの関連性は弱い結果となりました。 (19).

いくつかの試験では、アブラナ科の野菜の生理活性成分がヒトでのがんに関連したプロセスのバイオマーカーへの有用な作用を示しました。例えば、ひとつの試験で、インドール3カルビノールはプラセボと比較して子宮頚部表面の異常細胞の増殖を軽減することにおいて有効であることが示されています (20)。

さらに、複数の症例対照試験から、イソチオシアン酸の代謝および体外排出を助長する酵素であるグルタチオンSトランスフェラーゼをコード化する特定の遺伝子が、アブラナ科の野菜摂取とヒトでの肺癌および大腸癌リスクの関連性に影響を与える可能性があることが示されました (21-23)。

4. アブラナ科の野菜は健康食のひとつと考えてよいのでしょうか?

米国政府の発行するDietary Guidelines for Americans 2010(米国人食生活ガイドライン2010)(原文)では、毎日さまざまな野菜と消費することを推奨しています。野菜はそれぞれ異なる栄養素を豊富に含んでいます。

野菜は、濃緑野菜、赤黄野菜、そら豆やえんどう豆(豆類)、穀物、およびその他の野菜の5つに分類されます。アブラナ科の野菜は「濃緑野菜」および「他の野菜」の分類に入ります。また、野菜や食事について、これらの食事を毎日または毎週どの程度食するべきであるか、など詳しい情報については、米国農務省のウェブ「Choose My Plate(原文)」をご覧ください。

一般的に野菜の摂取量が多い場合、ある種類のがんなどを含め、いくつかの疾患から保護することになります。しかし、食事におけるアブラナ科の野菜を他の食物との相違に関する研究では、試験参加者が何を摂取したか正確に覚えていない場合があるため、明確な試験結果を得ることが困難です。また、アブラナ科の野菜を食生活に積極的に取り入れている人は、そうでないひとと比べて疾患リスクを低減するような他の健康活動も行なっています。遺伝子的背景が原因で、食事由来のイソチオシアン酸の代謝が異なる人がいることも考えられますが、アブラナ科の野菜の摂取により、遺伝子が原因で、有用性が得られる特定の集団を特定するには至っていません。

参考
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関連リソース
Cancer Prevention

Energy Balance: Weight and Obesity, Physical Activity, Diet

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菅原宣志 訳
大野智(腫瘍免疫/早稲田大学・東京女子医科大学)監修 
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翻訳担当者 菅原宣志 

監修 大野智(腫瘍免疫/早稲田大学・東京女子医科大学)

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