BRCA遺伝子変異家系の非保因者には乳癌のリスク増大はないことが研究により示された

BRCA遺伝子変異家系の非保因者には乳癌のリスク増大はないことが研究により示された

速報

連絡先:Nicole Fernandes
571-483-1354
nicole.fernandes@asco.org

ニュースダイジェストの内容:

・2011年10月31日付Journal of Clinical Oncology誌オンライン版に掲載された、BRCA 遺伝子変異保因者と近親であるが、自身は変異を保因しない女性は、この遺伝子変異陰性乳癌患者の近親者と比較して乳癌を発症するリスクは高くないことを見出した研究の要約。この結果は、当該女性はリスクが高いという以前の研究に反し、通常よりも高頻度の癌スクリーニング検査や他の予防措置は必要ないことを示唆する。

・アメリカ臨床腫瘍学会癌情報委員会のメンバーの乳癌専門家のAndrew Seidman医師の見解であることを明示して引用

・詳細情報はCancer.Net(http://www.cancer.net/)アメリカ臨床腫瘍学会の患者用ウェブサイトを参照

地域住民をベースにした、乳癌患者を含む3,000以上の家系の解析により、BRCA遺伝子変異保因者の近親者であるが、自身は遺伝子変異を保因しない女性は、この遺伝子変異陰性乳癌の近親者と比較して乳癌を発症するリスクが高いわけではないことが判明した。これらの結果は、BRCA遺伝子変異非保因者の乳癌発症リスクに関するほとんどの先行結果を支持するものの、BRCA遺伝子変異保因者の一等親血縁者(母、姉妹、娘)は、自身が変異を保因していなくても一般集団に比べて乳癌を発症する率が数倍高いことを示した2007年の研究結果に反する。この新しい結果は、BRCA遺伝子変異陰性の検査結果が得られた女性は、通常よりも高頻度の癌スクリーニング検査や他の予防措置の増強は必要ないことを示唆する。

「本研究により、遺伝子変異家系であることにより非保因者のリスクは増大しないことが改めて確認され、乳癌を発症したことがある患者の一親等血縁者である他の非保因者と同じとみなされました。」本研究の筆頭著者でスタンフォード大学医学部医学・保健衛生研究政策準教授のAllison Kurian医師は述べた。「本研究の強みのひとつは、乳癌発症率比較をするため、家族的変異の非保因者を対照群として用いたことです。対照群となった女性もまた乳癌患者の近親者ですが、遺伝子変異陰性乳癌の近親者です。あらゆる乳癌患者の近親者が乳癌を発症するリスクは、一般より多少高いため、この基準は一般集団における平均的リスクよりも適しています。」

BRCA1またはBRCA2遺伝子変異が遺伝した女性は、乳癌または卵巣癌を発症するリスクが5~20倍高いが、BRCA遺伝子変異が遺伝していない一等親血縁者の乳癌発症リスクは、変異保因者にくらべるとかなり低いと考えられていた。

2007年に、特定のBRCA変異家系の出身で陰性の結果が得られた女性に関する研究により、非保因者でも乳癌を発症するリスクは2~5倍増大することが示された。これは、BRCA変異保因者と同等のリスクと考えられる。Kurian医師によると、この結果により、非保因者も近親の保因者と同様に、年一回の胸部MRIや予防的手術などのスクリーニング検査や予防措置が必要だという懸念が高まり、BRCA変異試験陰性の意味に疑問が投げかけられた。

これまでの研究では、遺伝相談外来を受診した女性を調べ、一般集団と乳癌発症リスクが比較されてきたとKurian氏は述べた。遺伝相談外来の女性は、徹底的にスクリーニング検査を受けている確率が高く、乳癌患者の近親者では一般集団に比べて乳癌発症リスクは高い傾向があると考えられる。

本研究では、乳癌家系登録とよばれる協会をとおして、北カルフォルニア(1,214家系)、オーストラリア(799家系)、カナダ(1,034家系)の3カ所の地域住民をベースとした登録者計3,047家系の乳癌女性を研究するという、以前とは異なるアプローチがとられた。このうち292家系がBRCA変異家系であることが判明した。本研究は、BRCA変異家系で非保因者の乳癌リスクの解析では、今までで最大規模である。

著者らは、乳癌患者でBRCA変異保因者と非保因者の一等親血縁者の乳癌発症リスクを比較して、有意差はないことを見出した。これは、BRCA変異家系の非保因者は、乳癌を発症するリスクが著しく高いわけではないことを意味する。

著者らはまた、原因不明(BRCA変異以外の理由による)で最もリスクが高いごく一部の女性―オーストラリア、カナダおよび米国の一般女性の3.4%―は、全乳癌の32%を占め、乳癌発症の原因となる可能性のある幅広い因子を反映していることを見出した。近年の研究により、さまざまな遺伝子変異が乳癌発症リスクに影響し、それらの変異の多くが遺伝している女性が最も発症リスクが高いことが示唆されている。

「以前発表された、BRCA変異家系の非保因者は一般集団に比べてリスクが高いという報告は、乳癌の家族歴がある場合とない場合の比較を反映していた可能性があります。」スタンフォード大学医学部疫学・生物統計学教授で主席著者のAlice Whittemore博士はコメントした。「我々がBRCA変異陰性乳癌患者の近親者を対照としたことが重要だったのです。研究結果により、BRCA変異陰性の検査結果がでた女性は、変異家系でない乳癌患者の近親者と比べて乳癌発症リスクは高くないことが示唆されました。」

研究の原著PDFはこちら

アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)の見解
アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)癌情報委員会のメンバーで乳癌専門家のAndrew Seidman医師
「多くの患者とその主治医は、癌患者の一等親近親の変異陰性者に対して、スクリーニング検査とリスク軽減措置を、変異陽性者と同様にするというとして誤った方法を適用しています。今回の研究は、BRCA変異を保因していない女性では乳癌発症率はかなり低いことを強調しています。この発見に対する認識を高めることで、保険適用されない過度のスクリーニング検査やリスク軽減措置を思いとどまらせることで公共に利益に貢献できるでしょう。」

Cancer.Net(http://www.cancer.net/)からの参考リンク:

  • JCO Cancer Advances(英語)(http://www.cancer.net/patient/Publications+and+Resources/Cancer+Advances/News+for+Patients+from+the+Journal+of+Clinical+Oncology/Cancer+Advances%3A+Study+Shows+No+Increased+Risk+of+Breast+Cancer+for+Non-Carriers+in+Families+with+BRCA+Gene+Mutation)
  • 乳癌についての手引き(英語)(http://www.cancer.net/patient/Cancer+Types/Breast+Cancer)
  • 乳癌の遺伝学(英語) (http://www.cancer.net/patient/All+About+Cancer/Genetics/The+Genetics+of+Breast+Cancer)
  • 遺伝性の乳癌、卵巣癌(英語) (http://www.cancer.net/patient/Cancer+Types/Hereditary+Breast+and+Ovarian+Cancer)
  • 遺伝子検査(英語) (http://www.cancer.net/patient/All+About+Cancer/Genetics/Genetic+Testing)

Journal of Clinical Oncology誌は、癌患者を治療する医師を代表する世界有数の専門家協会であるアメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)が3カ月毎に発行している、論文審査のある学術誌である。

ニュース報道には必ずTHE JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY誌への帰属明示が必要。

翻訳担当者 石岡優子

監修 勝俣範之(腫瘍内科、乳癌・婦人科癌/日本医大武蔵小杉病院)

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原文掲載日 

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