2007/02/27号◆特集記事「タモキシフェンの長期にわたる予防効果が確認された」

同号原文

米国国立がん研究所(NCI) キャンサーブレティン2007年02月27日号(Volume 4 / Number 9)
____________________

特集記事

タモキシフェンの長期にわたる予防効果が確認された
イギリスで実施された2つの癌予防試験の長期追跡調査データによって、乳癌発症のリスクが高い女性はタモキシフェンの服用を終了した後も、乳癌発症リスクの低下の恩恵を数年間受け続ける事が確認された。これらの研究結果が示すリスクの低下は、さらに、血栓症や子宮内膜癌など重大な有害事象の危険性の大幅な減少という、もう一つの改善を伴っている。

これらの結果は、タモキシフェンには服用中止後も持続効果があり、閉経前女性ではより高いリスク対効果比があることを示したBreast Cancer Prevention Trial(BCPT:乳癌予防試験)と呼ばれるアメリカで実施された同様な試験の追跡調査データを支持するものである。

「タモキシフェンの予防効果は最後の薬を服用した時点で終了せず、そして、生命を脅かす副作用は最後の薬を服用した後に急速に減少するという、私たちが言い続けてきたことが更に確認された」と、米国国立癌研究所、Division of Cancer Prevention(癌予防部門)の臨床試験のアソシエイトディレクターであるLeslie Ford博士は語った。「これこそが予防薬に期待することである」。

1日20mgのタモキシフェン服用群とプラセボ群を比較する無作為化試験の追跡調査を含む両試験結果が、Journal of the National Cancer Institute(JNCI)誌2月21日号に掲載された。IBIS-I試験では、7,100人以上がタモキシフェン又はプラセボを5年間にわたり服用し、研究チームによって中央値8年の追跡調査結果が発表された。もう1つは、ロンドンにあるロイヤルマーズデン病院1施設にて行われた試験で、約2,500人が参加してタモキシフェン又はプラセボを8年間服用したもので、研究チームは中央値13年の追跡調査結果を発表した。

最新のIBIS-I試験結果によると、エストロゲン受容体(ER)陽性の浸潤性乳癌の発症リスクは34%の低下を示しており、2002年に最初に発表された31%のリスク低下と同等であった。ロイヤルマーズデン病院での試験は、1998年に最初の報告がなされた時には統計学的に有意な減少はみられなかったが、最新のデータではER陽性乳癌で39%のリスク低下を示した。

JNCI誌に付随する論説で、ミラノにあるEuropean Institute of OncologyのUmberto Veronesi博士らは、この研究結果は「単に一時的なリスク低下ではなく、真の予防効果を示している」そして「深刻な毒性があまり見られないより若い女性では、タモキシフェンは好ましいリスク対ベネフィット比を有していることを強調するものである」と述べている。

Ford博士は、両試験の参加者は、タモキシフェンの効果を軽減する可能性があるホルモン補充療法(HRT)を受ける事を許されていた事を記している。13,000人が参加したBCPTでは、高いリスク低下が見られた-中間結果の発表時には49%、長期追跡調査の結果では43%-が、この試験ではHRTの併用は許可されなかった。

米国のプライマリケア医が、主に本剤に対する知識と安心感を有していないために、予防薬としてタモキシフェンを処方するのに不本意であったことが立証されている。

「その毒性を心配するため、タモキシフェンを選択しない患者もいる」とBCPTや、STARと呼ばれる別の乳癌予防試験を監督していたNational Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project (NSABP)の副会長であるLawrence Wickerham博士は述べる。「しかし、より広範なタモキシフェン使用に実質的な障害となっていたのは臨床医であった。これらの結果は、その障害を取り除く助けとなるかもしれない。」

予期されていたように、両試験において乳癌発症のリスク低下の恩恵はER陽性の乳癌に限定されていた。タモキシフェンは細胞のエストロゲン受容体をブロックして、エストロゲンが、変異する可能性のある細胞と結合し、癌を増殖させるのを防ぐ作用があるため、ERが発現していない癌を防ぐ効果がないことは予想されていた。

ER陽性乳癌を発症しやすい高リスク女性だけを対象にする方法や、それを予測する方法は確立されていない。しかし、Wickerham博士は、60~70%の乳癌はER陽性であるため、予防薬としてのタモキシフェンの使用は、すでに、ほぼ対象を特定した治療法となっていると説明している。

さらに付け加えて、浸潤性乳癌の発症リスクが高い女性を識別するのによく用いられるGailモデルは、「初潮年齢、初産年齢、閉経年齢といったER陽性乳癌の多くのリスク要因を含んでいる。」とFord博士は語った。これらは全て長期間にわたってエストロゲンに曝される指標である。

—Carmen Philips

翻訳担当者 Nogawa 、、

監修 島村 義樹(薬学)

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望の画像

HER2陰性進行乳がんにエンチノスタット+免疫療法薬が有望

ジョンズホプキンス大学ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者らによる新たな研究によると、新規の3剤併用療法がHER2陰性進行乳がん患者において顕著な奏効を示した。この治療で...
英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブの画像

英国、BRCA陽性の進行乳がんに初の標的薬タラゾパリブ

キャンサーリサーチUKタラゾパリブ(販売名:ターゼナ(Talzenna))が、英国国立医療技術評価機構(NICE)による推奨を受け、国民保健サービス(NHS)がBRCA遺伝子変異による...
乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性の画像

乳がん術後3年以降にマンモグラフィの頻度を減らせる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)50歳以上で、初期乳がんの根治手術から3年経過後マンモグラフィを受ける頻度を段階的に減らした女性が、毎年マンモグ...
早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCSの画像

早期乳がんにリボシクリブとホルモン療法の併用は転帰を改善:SABCS

MDアンダーソンがんセンターアブストラクト:GA03-03

Ribociclib[リボシクリブ](販売名:Kisqali[キスカリ])とホルモン療法の併用による標的治療は、再発リスクのあ...