2009/10/06号◆特別リポート「非浸潤性乳管癌(DCIS)の治療-難題に専門家が挑む」

同号原文

NCI Cancer Bulletin2009年10月06日号(Volume 6 / Number 19)

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特別リポート

非浸潤性乳管癌(DCIS)の治療-難題に専門家が挑む

今日の腫瘍学で議論されている関心事の1つが、非浸潤性乳管癌(DCIS)の治療法である。DCISは、乳房で高頻度にみられる前癌病変であり、乳癌の診断全体の20%以上を占めている。現在の治療法により、DCIS患者のほぼ100%が長期の無病生存を得ている。米国国立癌研究所(NCI)および米国国立衛生研究所(NIH)のOffice of Medical Applications of Researchは、2週間前に最新の科学情報に関する会議「非浸潤性乳管癌の診断と管理(Diagnosis and Management of Ductal Carcinoma In Situ)」を開催し、研究者、臨床医、支援者および政策立案者を集めてDCISに関する重要な課題を検討した。

今回の会議声明の草案は、専門家14人から成る委員会が作成し、議長であり、フロリダ大学シャンズがんセンター(ゲーンズビル)に所属するDr. Carmen Allegra氏が発表を行った。この声明は、「現在入手可能なデータに対して責任ある評価を行ったことを報告し、その結果を医療従事者、患者および一般の人々に伝えること」を目的としている。本声明では、DCISに関するジレンマの多くが検討されて、これにどう対応するかについて各委員からの推奨事項も記載されている。委員会が検討した課題は、米国の医療研究・品質調査機構(AHRQ)が、エビデンスに基づいてまとめた報告書を踏まえたものである。

本会議で活発に行われた議論のおそらく大半が、この乳房の状態をDCIS以外の名称で呼ぶべきかどうかについてであった。その理由は、医療関係者は、患者に診断内容を説明し、情報に基づく治療選択を行うよう患者に対する指導を行うが、乳癌に対する恐れや悪いイメージが、こうした努力を台無しにする恐れがあるためである。DCISは、浸潤性乳癌(IBC)に比べて治癒率が大幅に高く、治療後の予後も非常に良好であるにもかかわらず、DCIS患者の女性は、浸潤性病変と診断された女性と同じように精神症状(不安や心配など)を経験する。

委員会は、「DCISという用語から、不安の原因となる「癌」という言葉を取り除くことを積極的に検討する必要があります」と結論を述べている。ただし、Allegra氏は、実際に専門用語を変更するのは自分たちの役割ではなく、この問題に取り組むために重要な支えとなるのは病理学者であるという考えを強調した。

DCISに関するジレンマの原因の中心となるのが、マンモグラフィー検診であり、1970年代には、癌の診断にDCISが占める割合は5%未満であった。マンモグラフィーや磁気共鳴画像(MRI)の使用により、今日では検出される疾患が以前に比べて大幅に増加し、DCIS罹患率は急激に上昇しつつある。

委員会声明草案の発表、およびこれに関する議論はWebcastでご覧ください。

スタンドアローンプレイヤーでビデオを見る

DCISの自然史はあまり理解されていないが、低グレードの疾患であれば40年以上進行しないことがある、とワシントン大学医学部(セントルイス)の乳癌病理部門長であるDr. D. Craig Allred氏は述べた。しかし、治療を行わなければ、「DCISの約35%が、30年以内にIBCに進行することを示唆する研究もいくつかあり、実際にIBCに進行するDCISの発生率がこれよりも高いと考える理由も確かにあるのです」とも述べている。

委員会は、治療を行えばDCIS病変の多くはIBCに進行することはないと認めているが、Allred氏は、「どの病変が危険か判断できないということは、すべてが危険な病変になり得るということです」と指摘する。乳癌検診では、標準的に実施されるマンモグラフィーに加えて、MRIの使用も増えており、委員会はDCISに関して、「現在の状況で、乳房MRIが過剰検出、すなわち生物学的に重要ではない病変まで検出している事例は、どの程度あるのでしょうか」と疑問を示した。

DCIS患者である女性のほとんどは、進行するリスクや浸潤性疾患に対する恐れから何らかの手術を選択する。3人中1人程度が乳房切除術を選択し、予防のため対側乳房も切除する患者もいる(予防的乳房切除術)。乳房切除術の代わりに、局所切除(乳房腫瘤摘出術)が行われることもあるが、再発予防のため、切除後に放射線療法を行うことが多く、エストロゲンレセプター陽性のDCISであれば、タモキシフェンかアロマターゼ阻害剤による治療を行う。

現時点では、患者すべてに「これらの治療法が一律に有効であるかどうかは明らかになっておらず、治療に関する重要な疑問には、まだ回答が得られていない」というのが委員会の見解である。委員会は、「研究は、再発リスクが高い患者を特定することに力を入れる必要があります」と話し、さらに「バイオマーカーを正しく見極めれば、全身治療および局所治療の指針として有用であると思われます」と述べた。

また、委員会は、さらに優れた意思決定ツールがあれば、DCISの診断による患者の不安、治療選択に伴う複雑な判断、および「治療の転帰やリスクに対する誤解」に対応するため役立つと考えており、このようなツールを求めている。

––Addison Greenwood

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波多野 淳子 訳

原 文堅(乳腺腫瘍医/四国がんセンター)監修 

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