Ado-トラスツズマブ・エムタンシンのFDA承認

商品名:Kadcyla

・ HER2-陽性転移性乳癌に対して承認(2013/02/22)

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米国食品医薬品局(FDA)は2013年2月22日、トラスツズマブおよびタキサンのいずれか、または両薬剤の併用による治療歴のあるHER2-陽性転移性乳癌患者の治療薬としてado-trastuzumab emtansine(Ado-トラスツズマブ・エムタンシン)(Kadcyla™、Genentech社)を承認しました。適応は、転移を有する患者、もしくは術後補助療法中またはその後6カ月以内に再発をきたした患者のいずれかとしました。

本承認は、HER2-陽性転移性乳癌患者991人を対象とした非盲検、多施設共同ランダム化試験に基づいています。本試験はタキサンおよびトラスツズマブによる治療歴のある患者を対象に行いました。これらの治療を補助化学療法としてのみ受けた患者については、同療法期間中または同療法後6カ月以内に乳癌の再発をきたした者としました。本試験の対象は、中央研究所が定める、免疫組織化学染色法によるスコアが3+、またはFISH法による増幅比が少なくとも2.0として定義されるHER2過剰発現がみられる乳癌の患者でした。

患者は、トラスツズマブエムタンシンを3週おきに3.6 mg/kg静注投与する群と、ラパチニブを3週間1日1回1250mgおよびカペシタビンを2週間1日2回2000 mg/m2(1回あたり1000 mg/m2)経口投与する併用群に無作為に割り付けられました(1:1)。病勢が進行する、許容できない毒性が発現する、または同意を撤回する、これらのいずれかがみられるまで治療薬の投与を続けました。

有効性の主要評価項目として、独立評価委員会による腫瘍奏効評価に基づく無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)の二つを設定しました。トラスツズマブ・エムタンシン投与群のPFSは、ラパチニブとカペシタビンを併用する群に比して統計的に有意に延長しました(HR of progression 0.65 (95 percent CI: 0.55, 0.77), p < 0.0001)。PFS中央値は、トラスツズマブ・エムタンシン投与群では9.6カ月であったのに対して、ラパチニブとカペシタビンの併用群では6.4カ月でした。二次中間OS解析時において、トラスツズマブ・エムタンシン投与群のOSは、ラパチニブとカペシタビンの併用群に比して統計的に有意に延長しました(HR of death 0.68 (95 percent CI: 0.55, 0.85), p = 0.0006)。OS中央値は、トラスツズマブ・エムタンシン投与群では30.9カ月であったのに対して、ラパチニブとカペシタビンの併用群では25.1カ月でした。

トラスツズマブ・エムタンシン投与群の患者で最も多く発現(25%以上の患者で発現)した副作用は、疲労感、悪心、筋骨格系の疼痛、血小板数減少、頭痛、トランスアミナーゼ値の上昇、および便秘でした。トラスツズマブ・エムタンシン投与中止に至った最も多く発現した有害事象は、血小板数減少およびトランスアミナーゼ値の上昇でした。最も多く発現(2%以上の患者で発現)したグレード3または4の副作用は、血小板減少、トランスアミナーゼ値の上昇、貧血、血中カリウム値減少、末梢神経障害、および疲労感でした。これまでにトラスツズマブ・エムタンシンを用いて行われた臨床試験において、薬剤性肝障害およびこれに付随する肝性脳症の少なくとも2例の致死性の症例を含む、重度の肝胆の障害が報告されています。他の臨床上重大な副作用としては、左室機能障害、間質性肺疾患、および注入関連反応が含まれます。

Kadcyla™は、患者および医療従事者に対して、本剤が肝毒性、左室駆出率の低下(心毒性)、胎児毒性、および先天性疾患を引き起こす可能性があること、ならびに本剤投与前に有効な避妊法をとる必要があるとする警告欄が付されたうえで承認されています。

トラスツズマブ・エムタンシンの推奨用量および用法は、病勢進行または許容できない毒性が出現するまで、3週おき(21日を1サイクルとして)に3.6 mg/kgを静注投与となっています。本剤は、3.6mg/kgを超える用量を投与してはいけません。本剤はトラスツズマブの代用薬として使用してはならず、あるいはトラスツズマブと併用してはいけません。

この薬剤情報のサマリーは、FDA抗腫瘍薬製品室長のRichard Pazdur医師により作成されています。米国食品医薬品局(FDA)とは米国保健社会福祉省(HHS)の一部門で、新薬その他の製品の安全性と有効性を確保するための機関です。 (FDA:医薬品・医療機器の承認方法の理解(原文)を参照。
FDAの使命は、安全かつ有効な製品の迅速な市場流通を促し、流通後も継続的に製品の安全性を監視することによって、国民の健康を守り、推進することです。

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翻訳担当者 谷口 淳

監修 原野謙一(乳腺科・婦人科癌・腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)

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