小児白血病治療が思春期・若年成人にも有効

ある臨床試験から得られた最新の結果によると、急性リンパ性白血病(ALL)小児患者のために特別に開発された強化治療は、より高い年齢の若年成人(AYA世代)患者にも有効である。

今回の臨床試験では、新規に診断されたALL若年成人患者に小児白血病治療(強化治療)を行った。過去の試験で成人向け治療を受けたALLを有する若年成人患者(既存対照群として知られる群)の転帰と比較した場合、良好な結果が得られた。

この小児白血病治療を行ったところ、衰弱に至ったり白血病を再発することのない期間(無イベント生存期間として知られる尺度)の中央値が2倍以上に延長した。本試験(CALGB 10403)の無イベント生存期間中央値は78.1カ月であったのに対し、既存対照では30カ月であった。研究チームは、1月18日付のBlood誌にこの結果を発表した。

「CALGB 10403試験により、(小児医療が専門でない)血液腫瘍医/がん専門医が、40歳未満の若年成人に小児白血病治療を施すことは有効かつ実施可能であることが実証されました」と本試験を率いたWendy Stock医師(University of Chicago Comprehensive Cancer Center)は述べた。

ALL成人患者に対する治療と比較して、小児向けの治療は特定の薬剤の強化投与を行っている。また、ALLの脳や脊髄への転移を防ぐためにより長期間かつ集中的な治療を行う。

強化治療をうける小児患者の大半は、小児がんセンターで経験豊富な小児腫瘍医から治療を受ける。今回の試験が行われるまで、研究者らは「若年成人患者が小児向け強化治療に対し耐えられるかどうか」また「成人の治療を行っている血液腫瘍医およびがん専門医が小児腫瘍医と同様に効果的な強化治療を行うことができるかどうか」について分かっていなかった。

「こういった疑問に対する答えは今回の試験で判明しました」とNCIがん治療評価プログラムの小児固形がん治療部門責任者であるNita Seibel医師は述べた。Seibel医師は本試験には参加していない。

「この小児向け治療は新規診断を受けたALL若年成人患者の新たな標準治療となるでしょう」と同医師は述べた。また「われわれ研究者はALLに対する治療法の改善を試みていますが、今回のレジメンが、他の治療法と比較する際の対照となります」とも述べた。

若年成人患者で強化治療を検証

この小児向け治療法は米国小児腫瘍学グループによる臨床試験(AALL0232試験)で用いた治療法と同一のものである。この治療法にはメトトレキサートの強化投与後のPEG-アスパラギナーゼの投与が含まれた。

強化治療を受けたALL小児患者の最大90%が治癒を示すものの、これまでの治療による若年成人患者の転帰は悪く、無病生存率は30~45%である、と試験著者は述べた。

Stock医師らのチームは、10年以上前にALLを有する一部の若年成人患者では、成人向けの治療よりも小児向けの治療のほうが転帰が良好なことを確認し、その後、現行の臨床試験を実施した。

前向き試験でこの観察結果を検証することを目的とし、NCIが助成する臨床試験グループ3団体が、新規にALLと診断されて小児向け強化治療を受けた17~39歳の患者295人の結果を分析した。参加者の年齢中央値は24歳であった。

5年超の追跡調査期間中央値の後に、患者190人(64%)が生存、105人(36%)が死亡した。

これまでの時点での3年生存率は概算で73%であるのに対し、16~29歳の既存対照では58%であった。本試験の生存期間中央値は、結果の発表時点で未到達となっている。

試験中に治療関連死が8件発生し、治療関連死亡率に換算すると3%となる。この結果はこれまでに行われたALLに関する小児試験の結果と同じである。

「治療関連死の件数は、ALLと新規診断を受けた小児患者を対象とした場合よりも、今回の若年成人患者を対象とした場合の方が多くなることはありませんでした。ですが、強化治療を若年成人に行った場合に副作用の発生率が高まると予測しまし、その通りとなりました」とStock医師は述べた。

たとえば、CALGB 10403試験では、治療の初期に一部の合併症(肝臓関連合併症など)の発生率がAALL0232試験と比較して高くなった。

「一部の患者では副作用の発生率が高くなりましたが、本試験に参加したがん専門医チームは治療を調整し、予定されていた治療を行うことができました」とSeibel医師は述べた。

治療に対する反応を予測する

本試験に参加した患者のうち、肥満患者「そして特に著しい肥満であった患者の転帰は、そうでない患者の転帰よりも悪いものでした」とStock医師は述べた。本試験に参加した患者の約1/3は肥満度指数が30以上であり、この数値は肥満とみなされる。

「患者の転帰に肥満が及ぼす影響は著しいものでした」と付け加え、この関連性の原因を解明するためにさらなる研究が必要であることを認めた。

「肥満患者の転帰が非肥満患者の転帰よりも悪くなるのか分かっていません。また、その原因について若年成人患者を対象とした試験で検証したいと考えています」とSeibel医師は述べた。

ALL患者を対象とした過去の試験では、肥満以外で転帰が悪化する危険因子が明らかになっている。それは、フィラデルフィア染色体様遺伝子発現特性と呼ばれる遺伝的特徴を有する腫瘍が存在することである。(この腫瘍はフィラデルフィア染色体と知られる遺伝子変異を有する腫瘍の特徴と類似している。)

「こういった知見が本試験で確認できました」とStock医師は述べた。

現行の治療法を基礎とする

過去の試験と同様に、本研究チームは導入化学療法後に検出可能ながん細胞(微小残存病変)を有さない 患者の生存率が優れていたことを確認した。しかしながら本試験では、ALL小児患者を対象とした過去の試験結果と比べて、微小残存病変がない状態を示した若年成人患者の割合は少なくなった。

若年成人患者においてフィラデルフィア染色体様遺伝子発現特性の発生率が高いことが、本試験において微小残存病変陰性の患者の割合が低いことの原因である可能性を、著者らは指摘した。

また、導入療法後に微小残存病変がない患者の割合が低下したことは、「治療抵抗性を克服出来るかもしれない新規薬剤を加える必要性」が強調される、と著者らは記した。こういった方法について研究チームが取り組んでいるが、その1例として、若年成人患者を対象とした本試験の治療レジメンにイノツズマブ・オゾガマイシンと呼ばれる分子標的薬を加えるという試みがある。

医師の認識を高める

本試験から得られた中間結果は、これまでに学術集会で発表されている。そのため、多くの小児腫瘍医はこれを認識している。しかしながら、地域の腫瘍内科医はこの知見について知らない者もいる可能性があると、Seibel医師は述べた。

「最終結果が出るのを待っている状態です」と続け、「本試験結果について腫瘍内科医がきちんと認識することは重要です。そうすれば、若年成人(AYA世代)患者に対して成人向けの治療プロトコルを用いることはありません」。

一方、イノツズマブ・オゾガマイシンを用いた試験のように、研究者らは本試験の結果に基づいてさらなる転帰の改善を試みている。

「ALLの治療法は驚異的に進歩しました」とStock医師は述べた。「ですが、ALL若年成人患者の生存率を向上させ、副作用発生率を低下させるためにはまだまだ課題が残っています」。

さらに、Stock医師は「われわれが行う次世代試験はすでにこういった目標の達成を掲げています」と付け加えた。

翻訳担当者 三浦恵子

監修 吉原 哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)

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