HPVワクチン―重要ながん予防手段を拡大

大統領府がん諮問委員会(以下「同委員会」)は1971年に米国家がん法(以下「同法」)の下で設立された。同法の下での同委員会の任務は、がん治療などの進展を妨げている最重要課題を特定し、関連する利害関係者を招集して、各課題に対処するための勧告を作成することである。こうした勧告は、大統領に提出される報告書に記載される。Barbara K. Rimer公衆衛生医師は同委員会の議長で、現在では唯一の構成員である。

2018年11月に筆者は米国の大統領および国民に対して、「がん予防を目的とするHPVワクチン接種―進展、接種の機会、新たな接種要請の呼び掛け」という報告書(以下同報告書)を発表した。同報告書には過去5年間にわたる、米国などの全世界におけるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの最大限の使用に向けた進歩が記載されている。

同報告書には、より多くの人々がこの極めて重要ながん予防ワクチン接種を確実に受けるための優先事項と方策についても記載されている。

2006年にHPV感染の予防ワクチンが最初に承認された。 HPVは子宮頸、中咽頭、肛門、陰茎、外陰部、および膣などのがんを引き起こし、また他の疾患の原因ともなり、がんとの闘いにおいて極めて重要な出来事であった。筆者が2011年に同委員会議長に任命された時までに、HPVワクチン接種の促進を目的とする大規模な新規計画および組織的活動が進行していた。

米国疾病管理予防センター(CDC)および他の機関による最初の報告書には残念ながら、HPVワクチン接種率は他の小児・思春期用ワクチン接種率ほど高くなく、米国の一部においては女児の接種率は12%と低いことが示された。

言い換えると、筆者らには毎年世界中で発症する何十万件ものがん発生を予防できるワクチンがあるとはいえ、その可能性の最大化に必要なワクチン接種水準を達成していなかった。

筆者が同委員会議長になった時に、委員のOwen Witte氏とHill Harper氏、ならびに筆者はHPVワクチンを次の報告書の課題として選択した。その理由は、HPVワクチン接種率の上昇が実行可能な勧告になりうる最重要課題であることに意見が一致したためであった。

この課題に関する同委員会による2012~2013年の最初の報告書には、ワクチン接種の障壁に対処するための以下の4つの目標が概説された。

 ・臨床現場でHPVワクチンを推奨し、接種する機会損失を減少させる
 ・保護者、介護者、および思春期児によるHPVワクチンの受け入れの拡大
 ・HPVワクチン接種事業の利用の最大化
 ・HPVワクチン接種の世界規模での促進

分野横断的なテーマがこうした勧告でいくつか浮き彫りになった。実例を挙げれば、臨床医や公衆衛生関係者によるHPVワクチンに関する声明は誤解のないように、がん予防を中心にすべきであるという明確な合意が存在した。それゆえ、この報告書では、がん予防手段としてのHPVワクチンを中心とする必要性が強調された。

さらにわれわれは、主要な関係者に最初から参加してもらうことが必須であることも知っていた。

実際、過去5年間にわたり、米国国立がん研究所(NCI)だけでなく、NCI指定がんセンター、疾病管理予防センター(CDC)、および米国がん協会(ACS)を含む非常に多くの機関などが多額の資金を投入し、HPVワクチン接種率の上昇を目的とする資金調達への強力な支援を表明してきた。米国がんムーンショット・ブルー・リボン委員会および米国がんムーンショット特別委員会による報告書を含む著名な報告書は、同委員会のワクチン接種率上昇要請に同調したものであった。

同委員会による最初の報告書の発表以降、関係者はHPVワクチン接種が著しく進展していると報告しているが、いまだ苦戦している。

筆者が多くの有識者と意見を交換した後、同委員会はHPVワクチン接種の現状の調査を実施することで、進展の継続に貢献できると判断した。筆者の実施した方法は、専門家との意見交換、最新の文献の調査、および追加調査を含むものであった。

著しく進展しているとはいえ、さらに実施すべきことは多い

米国においては、HPVは現在でも毎年34,000例近くのがんを引き起こす原因となっている。しかし、米国におけるHPVワクチン接種率が過去5年間にわたり上昇しているという朗報が存在する。2013~2017年の各年で、HPVワクチンの複数回接種を受け始めた思春期児で平均して5%ずつの上昇が認められた。

しかしながら、筆者らは現在でも達成目標であるワクチン接種水準には遠く及ばない。実例として、2017年には米国の思春期児における HPVワクチンの全接種率は49%で、『the Healthy People 2020』における年齢適格思春期児の達成目標である80%を大幅に下回っていた。また、HPVワクチン接種率は、他の思春期児用ワクチン接種率よりも低いままである。

改善すべき分野が現在でも多いという事実が存在する。達成目標であるワクチン接種水準には、関係者による途切れない研究と支援の実施、および改善すべき重要な分野に焦点を当てることで、到達できる可能性がある。

ワクチン接種率をさらに上昇させるための優先事項と方策

新しい報告書では、かつてないほどに、臨床現場でのHPVワクチンを推奨し、接種する機会損失の減少がより重要であることが力説されている。実際、さまざまな研究から、医療従事者が推奨することで、HPVワクチン接種率が著しく上昇することが示されている。

意思疎通戦略と制度の改善は、全ての適格思春期児と若年成人が医療施設でHPVワクチン接種を確実に受けるようにするためには最も重要である。

科学的根拠に基づく啓発活動(例えばCDCやACSによる活動)を介して、保護者によるHPVワクチン接種の受け入れの拡大を継続する必要もある。ありがたいことに、さまざまな研究から、未接種思春期児の保護者の大多数が自分達の子供がHPVワクチン接種を受けることを了承していることが示されている。

HPVワクチン接種を米国の全ての思春期児にとって、受けやすく、かつ便利なものに確実にすることで、ワクチン接種率も上昇することになる。

同報告書から、全世界でHPVが毎年630,000例近くのがんを引き起こし、かつ、HPVワクチン接種がもたらす効果が、子宮頸がん症例とその死亡の大多数が認められ、HPVワクチン接種率が極度に低い開発途上国で最も顕著であるという事実も浮き彫りになっている。それゆえ、米国が全世界のHPVワクチン接種プログラム、特に低・中所得国での実施と継続を支援し続ける必要があることが力説されている。

重要視する価値がある同報告書からの残りの論点の一つが、地域社会と地域全体の提携および協力の重要性である。

HPVワクチンの導入以降、筆者らはHPVワクチン接種率の上昇という課題に対処するために、新規の提携が形成されるところを目撃している。実例として、2012年に筆者らが最初に発表した報告書に先立つ会議に向けて初めて関係者を招集した時には、明らかに、がん研究団体と予防接種研究団体は日常的に協力してはいなかった。

しかし、こうした関係者が協力し合うことで、一般市民へのHPVワクチン接種の重要性に対する認識の向上、HPVワクチン配送における医療従事者と医療システムの支援、およびHPVワクチン接種の促進のための国際的な努力への貢献などの目覚ましい偉業をいくつか達成している。実際、彼らは主として活動の推進に必要な機運を生み出す責任を負っている。

接種要請を再確認、最終目標はがんを予防すること

HPVワクチン接種率上昇の進展に沸き立つ理由が多く存在するものの、現在でも課題が多く存在する。筆者らはHPV関連がんの可能性がある全症例の予防を目指す必要があり、そのための手段を有している。最も大きな効果をもたらす部分に全力を注ぎ、がん予防に向けて提携することが良い結果を生み出すのに重要になる。

筆者は、HPVワクチン接種を受ける資格がある人が確実に受けられるように取り組む全ての人々に敬意を表する。それは人命を救う仕事である。

翻訳担当者 渡邊 岳

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター)

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