【ASCO2025】トラスツズマブ デルクステカンが進行胃がんの生存期間を3カ月延長
ASCOの見解(引用)
「トラスツズマブ デルクステカン(販売名:エンハーツ)は、過去の第2相試験に基づき、トラスツズマブをベースとしたレジメンを受けた転移性HER2陽性胃がんまたは食道胃接合部腺がんの患者に対して承認されています。本試験において、ラムシルマブ+パクリタキセルの併用療法と比較して、トラスツズマブ デルクステカンによる全生存期間の改善が認められたことは、トラスツズマブ デルクステカンが二次治療において果たす役割を立証するものです」と、スミローがん病院およびイェールがんセンター消化器がんセンター所長であり、消化器がんのASCO専門家であるPamela Kunz医学博士は述べた。
試験要旨
焦点 | 一次治療中に進行した転移性または切除不能なHER2陽性胃がんまたは食道胃接合部腺がん(GEJA) |
対象者 | アジア、ヨーロッパ、南米からの494人の患者 |
主な結果 | トラスツズマブ デルクステカンを二次治療として投与したところ、進行したHER2 陽性胃がんまたは食道胃接合部腺がんの患者の生存期間が約3カ月延長した。 |
意義 | ・ 胃がんは、特に病気が進行した段階では予後が悪いとされている。 ・ これまでの第2相臨床試験の結果に基づき、トラスツズマブ デルクステカンは、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陽性転移性胃がんの二次治療またはそれ以降の治療薬として多くの国で承認されている。 ・ これまで、二次治療としてのトラスツズマブ デルクステカンとパクリタキセル+ラムシルマブとの直接的な比較は行われていなかった。DESTINY-Gastric04試験は、この設定におけるトラスツズマブ デルクステカンの生存率向上を裏付ける第3相試験データを提供する。 |
国際第3相臨床試験DESTINY-Gastric04において、トラスツズマブ デルクステカンを用いた二次治療により、一次治療中に進行したHER2陽性胃がん患者の生存期間が約3カ月延長することが示された。これらの知見は、これらの患者に対する二次治療におけるトラスツズマブ デルクステカンの使用をさらに裏付けるものである。本試験は、5月30日から6月3日までシカゴで開催される2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。
試験について
「転移性HER2陽性胃がんの一次治療中に病勢進行が認められた場合、HER2標的薬のうち、二次治療として第3相臨床試験で生存率の改善を示したものは、これまでありませんでした。DESTINY-Gastric04試験の結果は、HER2標的トラスツズマブ デルクステカンを用いた二次治療が、化学療法をベースとしたレジメンよりも生存期間を延長できることを示しています」と、国立がん研究センター東病院(柏市)の主任研究著者である設楽浩平医師は述べた。
転移性胃がんの患者は予後不良となることが多く、5年生存率は5%から10%である。これらのがんの約5%から17%はHER2陽性である。一次治療中に病勢進行した転移性HER2陽性胃がんまたは食道胃接合部腺がんの患者に対する標準的な二次治療は、パクリタキセル+ラムシルマブ(販売名:サイラムザ)の併用療法である。これまで、二次治療において転移性HER2陽性胃がんの患者に対して、HER2タンパク質を直接標的とする治療法はなかった。
トラスツズマブ デルクステカンは、がん細胞表面のHER2タンパク質を直接標的とする分子標的薬である。これまでの第2相臨床試験の結果に基づき、トラスツズマブ デルクステカンは、トラスツズマブをベースとしたレジメンによる治療を受けたHER2陽性進行胃がんまたは食道胃接合部腺がんの患者を対象に、65カ国以上で承認されている。DESTINY-Gastric04臨床試験は、これらの患者を対象とした二次治療において、トラスツズマブ デルクステカンとパクリタキセル+ラムシルマブを直接比較した初の第3相臨床試験である。
主な知見
DESTINY-Gastric04試験には、トラスツズマブをベースとしたレジメンによる治療中または治療後に進行した転移性または切除不能なHER2陽性胃がんまたは食道胃接合部腺がんの患者494人が参加した。患者年齢の中央値は約64歳で、患者の大半は西ヨーロッパまたはアジア出身であった。患者は、トラスツズマブ デルクステカン群(246人)またはパクリタキセル+ラムシルマブ併用群(248人)に無作為に割り付けられた。各治療群の患者の約60%が胃がん、約40%が食道胃接合部腺がんであった。
トラスツズマブ デルクステカン群では中央値16.8カ月、標準治療群では14.4カ月の追跡調査の結果、研究者らは次のことを発見した。
・ トラスツズマブ デルクステカンは、患者の生存期間を3.3カ月延長した。全生存期間の中央値は、トラスツズマブ デルクステカン群で14.7カ月、パクリタキセル+ラムシルマブ併用群で11.4カ月であった。
・ トラスツズマブ デルクステカンは患者の死亡リスクを30%低減した。
・ 無増悪生存期間の中央値は、トラスツズマブ デルクステカン群で6.7カ月、標準治療群では5.6カ月であった。
・ トラスツズマブ デルクステカン群では、病気の進行リスクが26%減少した。
・ 客観的奏効率(ORR)、つまり治療後にがんが縮小した患者の割合は、トラスツズマブ デルクステカン群で44.3%、標準治療群で29.1%であった。
・ 疾患制御率(DCR)、つまり治療後にがんが縮小または安定した患者の割合は、トラスツズマブ デルクステカン群で91.9%、標準治療群で75.9%であった。
トラスツズマブ デルクステカン群の患者全員は副作用を経験し、標準治療群のほぼ全員(97.9%)も同様であった。両群の患者のほとんどにおいて、これらの副作用はグレード3以上であった(トラスツズマブ デルクステカン群で68%、標準治療群で73.8%)。全体として、トラスツズマブ デルクステカン群での副作用は、この薬剤の既知の副作用と一致していた。トラスツズマブ デルクステカンで特に多くみられた副作用は、疲労(48%)、好中球減少症(48%)、吐き気(44.3%)、貧血(31.1%)であった。
次のステップ
研究者らは、DESTINY-Gastric05、DESTINY-Gastric03、およびARTEMIDE-Gastric01という3つの別々の臨床試験で、HER2陽性胃がん患者に対する一次治療としてのトラスツズマブ デルクステカンの安全性と有効性について引き続き研究する予定である。
この研究は第一三共株式会社の支援を受けて行われた。2019年3月、アストラゼネカ社は第一三共株式会社とトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd; DS-8201)の世界的な開発および商業化に関する提携契約を締結した。
- 監修 泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)
- 記事担当者 仲里芳子
- 原文を見る
- 原文掲載日 2025/05/31
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
米国臨床腫瘍学会(ASCO)に関連する記事
【ASCO2025】トラスツズマブ デルクステカン+ペルツズマブ併用はHER2陽性進行乳がんの一部でがん増殖を抑制
2025年6月19日
【ASCO2025】サシツズマブ ゴビテカン、一部のPD-L1陽性乳がん(TNBC)でがんの進行なく延命効果
2025年6月19日
【ASCO2025】頭頸部がん術後化学放射線療法にニボルマブ追加で再発を抑制
2025年6月20日
【ASCO2025】標準治療へのニラパリブ追加で、一部の転移性去勢感受性前立腺がんの増殖を抑制
2025年6月18日