初回治療への免疫療法薬トリパリマブ追加は、再発/転移鼻咽頭がんの進行を遅らせる

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「末期鼻咽頭がんの治療法開発は、他のがんの治療より遅れています。JUPITER-02試験の結果は、疾患が進行した患者さんの治療を変え、新たな希望を与えるものです」と、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の副会長および最高医学責任者のJulie R. Gralow医師(FACP:米国内科学会フェロー、FASCO:米国臨床腫瘍学会フェロー)は述べている。

再発/転移性鼻咽頭がん患者において、標準的な初回化学療法への免疫療法薬toripalimab[トリパリマブ]追加で病勢進行を有意に遅らせることが新たな研究でわかった。この第3相国際共同試験は、2021年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表され、現在、治療選択肢がほとんどない鼻咽頭がん患者の治療にパラダイムシフトをもたらす可能性がある。

【試験の概要】

焦点:再発/転移性鼻咽頭がんに対する初回治療としてのゲムシタビン/シスプラチン化学療法に併用するトリパリマブの有効性と安全性。

対象:化学療法治療歴のない再発/転移性鼻咽頭がん患者289人

結果:

病勢進行までの期間(無増悪生存期間)は、化学療法とトリパリマブを併用した患者(トリパリマブ群)において、化学療法とプラセボを併用した患者(プラセボ群)に比べて有意に延長した。中央値はそれぞれ11.7カ月、8.0カ月であった。

1年後に病勢進行が認められなかった患者の割合は、トリパリマブ群で49%であったのに対し、プラセボ群では28%であった。

有害事象および重篤な有害事象は、2つの治療群で同程度であった。

意義:

JUPITER-02は、鼻咽頭がんにおいて、初回治療としての化学療法とPD-1阻害薬による免疫療法を積極的に併用した最初の試験の1つである。承認されれば、こうした併用は新たな標準治療となることが期待される。

【主な結果】

鼻咽頭がんは、鼻咽頭に発生する頭頸部がんの一種で、世界的に大きな健康上の問題となっている。このがんは、特に東アジアおよび東南アジアで多く、2018年に世界で新たに診断された約129,000人のうち70%超を占めている。現在、再発/転移性鼻咽頭がんに対しては、プラチナベースの治療が標準的な初回治療であるが、奏効期間は平均6カ月に満たない。

JUPITER-02試験では、標準的な初回化学療法に免疫療法薬トリパリマブを追加した患者群は、プラセボ群と比べて病勢進行までの期間が延長し、同期間の中央値はそれぞれ11.7カ月、8.0カ月であった。1年後に病勢進行が認められた患者の割合はトリパリマブ群で49%、プラセボ群で28%であった。

グレード3以上の重篤な有害事象は両群で同様で、トリパリマブ群89.0%、プラセボ群89.5%であった。治療中止に至った割合はトリパリマブ群7.5%に対し、プラセボ群では4.9%であった。死亡に至った有害事象は両群間で同様で、それぞれ2.7%、2.8%であった。

免疫関連有害事象は、トリパリマブ群が39.7%で、プラセボ群の18.9%に比べて多くみられた。また、グレード3以上の免疫関連有害事象は、トリパリマブ群が7.5%で、プラセボ群の0.7%に比べて多くみられた。

トリパリマブは、チェックポイント阻害薬と呼ばれる免疫療法薬で、免疫細胞の表面に存在するプログラム細胞死タンパク質1(PD-1)を阻害することによって、免疫システムが正常に働き続けるようにする。

「鼻咽頭がんは、進行した段階で診断されることが多く、その段階での治療選択肢は非常に限られているため、治療困難な疾患といえます。トリパリマブ を投与された患者さんでの奏効の延長は、この疾患の治療を大きく前進させるものです」と、中国・広州にあるSun Yat-sen大学がんセンター腫瘍内科のRui-hua Xu医学博士は述べている。

【試験について】

本試験は、化学療法治療歴のない再発/転移性鼻咽頭がん患者289人を トリパリマブ群(146人)とプラセボ群(143人)に1対1で無作為に割り付けた第3相試験である。両群の患者はゲムシタビン/シスプラチンの化学療法も受けた。本試験の主要評価項目は、全患者の無増悪生存期間であった。副次評価項目は、全奏効率、奏効期間、全生存期間であった。

【次のステップ】

患者の全生存期間およびその他の副次的評価項目について引き続き追跡が行われる。

翻訳担当者 木水友子

監修 小宮武文(腫瘍内科・Parkview Cancer Institute)

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