がん治療前、治療中、治療後の歯科衛生と口腔ケア

MDアンダーソン OncoLog 2015年6月号(Volume 60 / Number 6)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

House Call「がん治療前、治療中、治療後の歯科衛生と口腔ケア」

がん治療、特に放射線療法と化学療法を行うと、歯科疾患など深刻な口腔合併症が発生することがあります。このような合併症が原因で不快感をもたらし、がん治療が中断されたり遅延したりすることがあります。また日常の口腔機能にも影響を及ぼすことがあります。がん治療前、治療中、治療後すべての段階で口腔衛生への取り組みを行うことは口腔合併症の予防や管理に役立ち、健康状態とQOL(生活の質)の向上につながります。

放射線療法と化学療法の副作用

頭頚部への放射線治療や一部の抗がん剤は、しばしば唾液腺に障害を与え、潤滑油として本来備わり、咀嚼(そしゃく:噛むこと)、嚥下(えんげ:呑みこむこと)および発話をしやすくしている唾液の流れが減少することがあります。この副作用はよくみられ、ドライマウス(口内乾燥症)と呼ばれます。ドライマウスになると歯周病、虫歯、およびプラーク形成のリスクが増加します。

他に、化学療法や放射線療法の合併症で頻度の高いものには粘膜炎があります。粘膜炎では、口内の粘膜に炎症が起こり、痛みや摂食困難の原因となります。それにより食欲不振と栄養失調をきたし、感染症に抵抗するための免疫力に影響が及びかねないのです。

ウイルスや細菌、真菌による口腔感染は、深刻な合併症に発展するおそれがあります。感染症は今患っている虫歯やcompromised tooth(機能が低下した歯)、ドライマウス、粘膜炎のほか、骨髄で作られる血球と血小板の減少による免疫力の低下から起こる場合もあります。

口腔合併症の中には、頭頚部への放射線治療に特異的なものもあります。放射線性う蝕または虫歯のリスクが生涯にわたって増加することなどです。放射線による組織損傷から、口が正常に開けられなくなる症状(開口障害または牙関緊急“ロックジョー”)や顎骨の細胞死(骨壊死)が生じます。

がん患者の多くはこうした合併症すべてを患っているわけではなく、また予防対策を行うことで合併症のリスクが低下し、がん治療の中断を回避できるのです。

予防対策

がん治療中は患者の免疫力が低下する可能性があるため、通常の歯科治療は勧められません。理想的には、患者はがん治療の開始前に口腔衛生状態について診察を受けておくべきです。

がん治療前

口腔衛生状態の全体的な検査のために、がん治療開始の少なくとも1カ月前か、またはできるだけ前に歯科受診をしておくべきです。歯科医は存在している感染症を特定することや、詰め物や抜歯をはじめとする歯科処置を行うことで感染に脆弱な箇所を安定させることが可能です。1カ月あれば、いかなる侵襲的歯科処置を行っても回復するには十分です。

がん治療中

がん治療中は、フッ素入り歯磨き粉を用いた歯磨きを継続して行うべきです。特別にやわらかい歯ブラシを使えば、がん治療で敏感になった口腔内の組織を傷つけずに磨けます。デンタルフロスで歯間清掃を毎日行い、またアルコール含有の洗口液の使用は避けるべきです。スパイスや酸味のきいた食べ物、爪楊枝、タバコやアルコールは炎症の原因となるため、同様に避けるべきです。砂糖が入ったガムやアメ、炭酸飲料はノンシュガーのものに替えることで虫歯を防ぐのに役立ちます。フッ素入りジェルやトリートメント剤を使うことで歯が強くなり、虫歯の発生リスクが減少します。

がん治療中は、緊急歯科治療のみ行います。いかなる緊急歯科治療も、がん治療医と協力して行う必要があります。がん治療医は患者の最新の血液検査の結果を調べ、歯科処置が安全に行えるかを判断します。テキサスMDアンダーソンがんセンター頭頚部外科准教授Theresa Hofstede歯学博士によると、感染症に抵抗する役目を担う白血球や血液の凝固に必要な血小板の数が少ないと「いかなる歯科治療でも患者が感染症や出血のリスクにさらされる」とのことです。

がん治療中のドライマウスやその他の副作用を軽減させるには、1日に何度も水を飲んだり、氷をなめたり、ノンシュガーのアメやガムを口にしたりするべきです。また歯科医によっては唾液刺激剤や人工唾液スプレーを処方することもあります。

入れ歯は口腔潰瘍の原因となるため、がん治療中は入れ歯の使用を最小限にすべきです。ですが、入れ歯をつける必要がある場合は、入れ歯を歯ぐきの形状にきちんと合わせ、入念に清掃するべきです。また、睡眠中は装着しないようにしましょう。

がん治療後

がん治療後の日常的な口腔ケアは、行った治療法や患者の免疫力によって異なります。完治していない口腔合併症や免疫力の低下は、患者が通常の口腔ケアに戻せるかどうかに影響します。通常、がん治療後2カ月待機してから歯の清掃を行います。頭頚部の放射線治療を受けた患者は、定期的に(担当歯科医が設定した間隔で)評価を受けるべきです。またHofstede博士によると、幹細胞移植を受けた患者は通常、いかなる歯科治療でも処置前に100日以上待機する必要がある、とのことです。

—U. Arizor

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翻訳担当者 渋谷 武道

監修 東海林 洋子(薬学博士/ 遺伝子医薬品、薬剤学、微生物学)

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