成人のHPV関連がん増加を専門家が警告

オハイオ州立大学総合がんセンター

ヒトパピローマウイルス(HPV)関連咽頭・口腔がん発生率の急速な上昇が懸念されている。この傾向が続けば、HPV関連咽頭・口腔がんは近いうちに45~65歳の成人に最も多いがんの1つになる可能性があると専門家らは指摘している。

最近の推計から、中咽頭がんは2045年までに米国の中年男性におけるがんの上位3位内に入り、今後10年で高齢男性のがんの第1位になることが示唆される。

Matthew Old医師(頭頸部外科医、オハイオ州立大学総合がんセンター附属Arthur G. Jamesがん病院・Richard J. Solove研究所(OSUCCC‐James))によると、この年齢層における中咽頭がんの増加は、2006年に最新のワクチンが導入される以前のヒトパピローマウイルス(HPV)感染が直接影響しているという。

HPVは、性行為中の皮膚と皮膚の接触や口腔の接触によって感染するウイルスの一群である。HPVは容易に感染し、人口の98%が感染していると推定される。HPVは何十年もの間、休眠状態になる可能性がある。高リスク型HPVは以前から子宮頸がんリスクの上昇と関連することが分かっているが、過去10年間のデータから、頭頸部(口、舌根、および咽喉)がんとも強く関連していることが示されている。

2006年、ガーダシル(販売名:ガーダシル水性懸濁筋注シリンジ)がHPVワクチンとして導入されたが、このワクチンは9~12歳の思春期児に接種され、高リスク型HPV(16型と18型、子宮頸がん、外陰がん、咽頭がん、口腔がん、陰茎がん、および肛門がんなどのがんに関連する)から防護する。性器いぼなどの非がん性疾患を引き起こすHPV型は他にも多数存在する。

HPVワクチン接種は20年近く実施されているが、後期高齢者のがん予防手段としての認識不足が、がん予防の進展を遅らせている。HPVワクチンの適時接種により、子宮頸がんだけでも90%を予防できると米国疾病対策予防センター(CDC)は推定している。2020年時点で13~15歳の思春期児の54.5%しかワクチン接種を受けていないと米国国立がん研究所は推定している。

「思春期におけるHPVワクチン接種の重要性、ならびに、小児期にワクチン接種を受ける機会のなかった成人に対するHPV関連がんのリスク要因と徴候に関して、人々に啓発する道のりは長いです。ワクチン接種年齢の子供を持つすべての親に、HPVワクチンの接種を検討するよう強く勧めます。これが後年におけるがん予防の強力な手段であることがデータによりますます明らかになっています。また、HPVは、男女を問わず知っておくべきリスク要因です」とOld氏は述べる。

Electra Paskett博士(公衆衛生理学修士、がん疫学者、OSUCCC – Jamesがん抑制プログラム共同責任者)は、保護者と医療従事者の間でHPVワクチンの利点に関する会話を変える必要があると述べた。

「HPV関連がんの急増を食い止めるためには、HPVワクチン接種の目的を性感染症の予防から将来のがんの予防に移行する必要があります。HPVワクチンはこれまで、性行為に関連する感染リスクを予防するためのものとされてきました。小児期に接種する理由は、若年齢での性行為を奨励するためではなく、曝露される前にHPV感染を予防し、引いてはがんを予防するのに最も効果的だからです」とPaskett氏は述べた。

HPVワクチン接種は通常、9~14歳の間に2回、15~26歳の間に3回実施される。成人期のHPVワクチン接種は、ほとんどの人がすでにHPVに曝露されているため利益が少ないと考えられている一方、現在では27~45歳の人も、医療従事者と話し合い意思決定をした上で接種可能となっている。

CDCのデータによると、ひとつの領域で大幅な進展が認められる。HPV感染と子宮頸部前がん病変(子宮頸部の異型細胞)は、HPVワクチンが米国で初めて使用された2006年以降減少している。10代女児では、ほとんどのHPV関連がんと性器いぼを引き起こすHPV型が88%減少している。若年成人女性の感染は81%減少している。ワクチン被接種女性全体では、HPV関連前がん病変の比率も40%減少している。

「私たちは女性のHPVを監視していますが、パートナーが他のパートナーに曝露させるため、これはすべての性別の人々にとって懸念すべきことです。HPVワクチン接種を検討している成人には、これが自分にとって正しいかどうか、主治医と率直に話し合うようお勧めします。高リスク型HPVに感染していることが分かっている場合、パートナーを守り、自分自身が気になる症状を監視する方法が存在します」とOld氏は述べた。

OSUCCC - Jamesでの治療に関する詳細は、cancer.osu.eduを参照。HPVワクチン接種に関する詳細は、cdc.govを参照。

  • 監訳 加藤恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)
  • 翻訳担当者 渡邊 岳
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2023/06/12

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

頭頸部がんに関連する記事

FDAが上咽頭がんにトリパリマブを承認の画像

FDAが上咽頭がんにトリパリマブを承認

米国食品医薬品局(FDA)2023年10月27日、米国食品医薬品局(FDA)は、転移性または再発性の局所進行上咽頭癌(NPC)の成人患者に対する一次治療として、シスプラチンおよびゲムシ...
ヨガは放射線治療中の頭頸部がんの治療関連合併症を予防の画像

ヨガは放射線治療中の頭頸部がんの治療関連合併症を予防

米国臨床腫瘍学会(ASCO)ASCOの見解から引用「本結果により、対面またはオンラインで行うヨガ集中介入は、放射線療法中のがん患者だけでなく介護者にも効果があることが認められま...
頭頸部がんに多い治療副作用と口腔マイクロバイオームの関連を発見の画像

頭頸部がんに多い治療副作用と口腔マイクロバイオームの関連を発見

MDアンダーソンがんセンター口腔粘膜炎(口内のただれの発症)は、頭頸部がんによく見られる副作用であり、90%もの患者が罹患する。口腔粘膜炎は、経口摂取困難、体重減少、疼痛や感染症管理の...
MDアンダーソンによるASCO2023発表の画像

MDアンダーソンによるASCO2023発表

MDアンダーソンがんセンター(MDA)急性リンパ性白血病(ALL)、大腸がん、メラノーマ、EGFRおよびKRAS変異に対する新規治療、消化器がんにおける人種的格差の縮小を特集
テキサス大...