FGFR2を標的としたKRAS変異膵臓がん予防・発症遅延の可能性
前臨床研究が膵臓がんの予防的介入に新たな方向性を示唆
KRAS変異を有する膵臓の前がん病変および一部の膵管腺がん(PDAC)において、通常より高いFGFR2タンパク発現が認められた。また、マウスモデルにおいてFGFR2を不活性化することで、KRAS変異を有する膵管腺がんの発症が遅れることが示された。この研究成果は、米国がん学会の学術誌Cancer Research誌に掲載された。
膵管腺がんは最も一般的な膵臓がんの一種であり、致死率が極めて高く、多くの場合、前がん病変を経て発症する。このような前がん病変は比較的よく見られるものの、実際に膵管腺がんへと進行するのはごく一部であると筆頭著者であるコールド・スプリング・ハーバー研究所のClaudia Tonelli博士[AACR元会長David A. Tuveson医学博士(FAACR)の研究室所属]は説明する。
変異型KRASタンパクは膵臓がんの発症に重要な役割を果たすことで知られているが、それだけでは前がん病変からがんへの進行を促すには不十分である可能性があると、Tonelli博士は指摘している。「前がん病変からがん化を促進する他の経路を解明することで、より有効な治療戦略や、膵管腺がんの発症を未然に防ぐ介入方法の手がかりが得られる可能性がある」と付け加えた。
マウスおよびヒトの膵臓組織を解析した結果、正常組織と比べて、KRAS変異を有する前がん病変および一部の膵管腺がんにおいてFGFR2の発現が高いことが明らかになった。特に、マウスの前がん病変におけるFGFR2発現は、変異型KRASシグナル伝達の活性化と相関していた。
「膵臓の前がん病変にはKRAS変異がしばしば認められます」とTonelli博士は語る。「今回、FGFR2の発現がKRASシグナル伝達の活性化と関連していたことが明らかになったことから、FGFR2がKRAS変異を有する前がん病変のがん化促進に重要な役割を果たしている可能性が示唆されました」
この仮説を支持する結果として、研究者らはFGFR2遺伝子を欠損させたKRAS変異マウスにおいて、前がん病変の数が有意に減少し、膵管腺がんの形成も遅れることを確認した。さらに、FGFR2ともう一つのシグナル伝達タンパクであるEGFRの両方を阻害することで、KRAS変異マウスにおける前がん病変の形成が著しく抑制されたことがわかった。
Tonelli博士によれば、本研究結果は、膵管腺がんへの進行リスクが高い前がん病変を有する患者にとって、FGFR2を標的とした治療が有益である可能性を示唆している。ただし、FGFR阻害薬はすでに臨床で使用されているものの、実際に膵管腺がんの発症予防に有効であるかどうかは、臨床試験で検証する必要があると注意を促している。
「本研究は、膵臓がんの発症メカニズムに関する重要な知見を提供しており、膵臓がんの予防および早期介入戦略の開発に向けた指針となる可能性があります」とまとめた。
本研究の限界としては挙げられるのは、前がん病変におけるFGFR2の不活性化が、その後の膵管腺がんの発症を阻止または遅延させるかどうかについて、直接検証が行われていない点である。Tonelli博士は、長期的なFGFR2阻害または遺伝学的手法を用いたさらなる検証が今後の研究で必要だと述べている。
研究資金提供元の詳細については、原文を参照のこと。
- 監修 泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)
- 記事担当者 為石 万里子
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- 原文掲載日 2025/04/02
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