定位放射線療法(SBRT)と増感剤スーパーオキシドの併用は膵臓がんの治療成績を改善

MDアンダーソンがんセンター

高線量の体幹部定位放射線療法に対する腫瘍の放射線感受性を高める

局所進行膵臓がんにおいて、増感剤と特定の放射線療法との併用がより効果的で、より高い無増悪生存期間(PFS)と全奏効率(ORR)をもたらす可能性があることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびモフィットがんセンターによる第1b/2相試験によって明らかになった。

スーパーオキシドジスムターゼ模倣薬として知られる一群の薬剤は、腫瘍の体幹部定位放射線療法(SBRT)に対する感受性を効果的に高めるが、これにより高線量の放射線(手術が不可能な場合に腫瘍を縮小させる)を安全に照射することが可能になった。

本日The Lancet Oncology誌に発表されたこの研究は、MDアンダーソンの消化器(GI)放射線腫瘍学准教授である故Cullen Taniguchi医学博士(※下部参照)とモフィットの消化器放射線腫瘍学部長であるSarah Hoffe医学博士が主導した。

「現在、膵臓がんの唯一の治療法は手術ですが、その対象となる患者はわずか10~15%に過ぎません。一方外科的切除が不可能な局所進行がんも多く、約30~40%を占めます。そのような患者には放射線療法を行ってきましたが、多くの患者で十分な奏効を得るには、従来の照射量では不十分であることが以前からわかっていました」とTaniguchi博士は述べた。 

このような状況において、比較的最近導入された体幹部定位放射線療法(SBRT)が有望視されている。この技術は、従来の放射線治療が数週間にわたるのと比較して、通常5日間という短期間に、より集束させた放射線ビームを照射するものである。この技術により、臨床医は腫瘍をより効果的に縮小させることができ、より有意な奏効が得られ、より多くの患者が手術を受けられるようになる。

このような改善と体幹部定位放射線療法(SBRT)により、患者の生活上の支障が減り生存期間が延長したが、多くの患者にとってこれは治癒が得られる治療ではなかった。より良い治療成績を得るためには、腫瘍に照射される放射線量を増やす必要があるが、研究者たちは、体幹部定位放射線療法が正常組織に与える影響を減らすか、放射線の腫瘍に対する毒性を強めるか、いずれかの方法を見つけなければならなかった。スーパーオキシドジスムターゼ模倣薬は、その両方を行うことを目的としている。

本研究では、体幹部定位放射線療法に対する腫瘍の感受性を高める新たなアプローチとして、最近進歩した体幹部定位放射線療法とアバソパセムマンガンというスーパーオキシドジスムターゼ模倣薬とを組み合わせた。本試験では、体幹部定位放射線療法+プラセボと比較した場合の体幹部定位放射線療法+アバソパセムマンガンの有効性および毒性を評価した。 

本試験は両群を比較するようにはデザインされていなかったが、PFS中央値は併用群で12.4カ月であったのに対し、プラセボ群では3.4カ月であった。ORRは併用群で88%、プラセボ群で67%であった。

スーパーオキシドジスムターゼ模倣薬は、体幹部定位放射線療法のような電離放射線療法の副産物を分解する酵素であるスーパーオキシドジスムターゼの合成体である。電離放射線は、スーパーオキシドと呼ばれるフリーラジカルを生成する。スーパーオキシドは、対になっていない電子を持つ非常に不安定な原子や分子で、DNAのような他の原子や分子と反応し、細胞を損傷したり、複製を妨げたりする。

健康な細胞では、これらのスーパーオキシドはスーパーオキシドジスムターゼによって酸素と過酸化水素に分解される。過酸化水素は依然として有害であるが、正常な細胞はさらに過酸化水素を水と酸素に分解することができる。まだ完全には解明されていないが、膵臓がん細胞は正常細胞ほど過酸化水素を分解できないため、過酸化水素が蓄積し、がん細胞が死滅する。

高線量の放射線が照射されると、スーパーオキシドジスムターゼ模倣薬は、健康な細胞が過酸化水素に対処する能力を高めると同時に、がん細胞における過酸化水素の蓄積を増加させる。

「この臨床試験では、膵臓がん患者にこれまでで最も高線量の放射線が照射されましたが、注目すべきは、コントロール群でさえ、このレベルの放射線が許容範囲内の副作用で安全に照射できたことです」とTaniguchi氏は述べた。「それでも、アバソパセム投与群で全生存期間に有意な改善がみられました」。

42人の試験参加者の年齢中央値は71歳で、患者の67%が男性、88%が白人であり、化学療法の治療歴は平均18週間であった。いずれの群においても用量制限毒性およびグレード3以上の治療関連有害事象は認められなかった。グレードを問わない治療関連有害事象は、治療群で83%、プラセボ群で89%と同程度であった。

本試験の中間データは、2020年の米国放射線腫瘍学会(ASTRO)年次総会で発表された。本試験の結果から、拡大第2相試験(GRECO-2)が開始され、最近終了した。  

本試験はGalera Therapeutics社の支援を受けて実施された。

著者一覧および開示情報、論文全文


※ 筆頭著者であるCullen Taniguchi医学博士は本研究の最終発表前に急逝した。優秀な医師、科学者であったTaniguchi氏は、家族の罹患を機に消化器がんの治療選択肢および予後の改善に専心し、意欲的な医師や科学者を指導した。

「Taniguchi博士はパイオニアであり、膵臓がんの低い生存率に納得せずに予後改善に向けて限界に挑んできました。彼が行った科学的に斬新な取り組みが、これまで誰もやったことのない新規薬剤と高線量の体幹部定位放射線療法との併用につながりました。パンデミック中にTaniguchi医師とMDアンダーソンの研究チーム全員が協力して2020年の登録を終了したことは、大きな節目でした。膵臓がんコミュニティは献身的な戦士を失いましたが、われわれは彼のビジョンを引き継ぎ、この恐ろしい病気の現状を変えるべく尽力します」と最終著者であるモフィットがんセンターのSarah Hoffe医師は述べた。

この研究に対するTaniguchi博士の貢献に敬意を表し、本プレスリリースを発行する。

  • 監訳 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院)
  • 翻訳担当者 奥山浩子
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  • 原文掲載日 2023/11/28

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