【ASCO2025】胃がん周術期治療、デュルバルマブ+化学療法で再発リスク減少
ASCOの見解(引用)
「上部消化管がんの治療は、この数年で進歩のペースが加速しています。今回、胃がん周術期治療におけるFLOT化学療法とデュルバルマブの併用が、FLOT化学療法単独と比較して、再発リスクの低減という点で優れているいうことが、MATTERHORN試験によってわかりました。この試験は、早期または局所進行胃がんおよび食道胃接合部がん患者に対する新たな治療パラダイムを示すものであり、最も有効な治療を早期に導入することの意義を証明しています」と、スミローがん病院およびイェールがんセンターの消化器がんセンター長であり、ASCOの消化器がんエキスパートであるPamela Kunz医学博士は述べる。
試験要旨
焦点 | 治療歴のない切除可能な胃がん(GC)および食道胃接合部がん(GEJC) |
対象者 | 948人 |
主な結果 | 治療歴のない切除可能な胃がんおよび食道胃接合部がん患者において、周術期にデュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)と化学療法を併用した治療は、プラセボと化学療法による治療と比較して、がんの再発、進行、治療に伴う手術中止や追加処置のない状態の生存期間を延長した。 |
意義 | ・胃がんは世界で5番目に多いがんであり、がんによる死因としては5番目である。食道胃接合部がんや食道下部がん(食道胃接合部のすぐ上にできる腫瘍)は、生物学的特徴や治療が胃がんと共通していることから、しばしば胃がんとまとめて扱われる。胃がんや食道胃接合部がんはアジアでよくみられるが、アジアでは検診プログラムが広く実施されており早期に発見される傾向がある。アジアでこれらのがんの発症率が高いのは、ヘリコバクター・ピロリ感染、食習慣、喫煙などのリスク因子によるとされる。 ・西洋諸国において、胃がんや食道胃接合部がんに対して最もよく行われている治療は、5-FU(5-フルオロウラシル)、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセルを組み合わせたFLOT化学療法による周術期治療である(周術期とは、手術の前後の期間)。 ・アジアでは、手術後に化学療法を行うのが従来の標準治療であったが、近年のガイドラインでは、胃がんおよび食道胃接合部がんの大部分の患者に対する治療選択肢として、FLOTを用いた周術期治療が推奨されている。 ・デュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)は、がん細胞や正常細胞の表面に存在するPD-L1タンパク質を阻害するPD-L1阻害薬である。PD-L1をブロックすることで、患者自身の免疫系が腫瘍細胞を認識し攻撃する能力を高める。免疫チェックポイント阻害薬は、より進行したステージである切除不能な胃がんおよび食道胃接合部がんがんに対して、化学療法との併用ですでに承認されている。 |
ステージ2、3、4Aの切除可能胃がんおよび食道胃接合部がんに対し、周術期にデュルバルマブとFLOT化学療法による治療を行ったところ、プラセボとFLOT化学療法による治療と比較して、がんの進行、再発、治療に伴う手術中止や追加処置のない状態での生存期間が延長した。本研究は、国際共同第3相臨床試験の結果によるもので、シカゴで開催された2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会(5月30日〜6月3日)で発表された。
試験について
「治療やバイオマーカーの開発が進んでいるにもかかわらず、早期の胃食道がんの治癒率は依然として50%を下回っており、再発の大半は手術後2年以内に起こっています。MATTERHORN試験は、切除可能な胃がんおよび食道胃接合部がんにおいて、免疫療法を基盤としたレジメンが無イベント生存期間(EFS)を改善することを示した、初めての国際共同ランダム化第3相試験です。周術期にデュルバルマブを用いた今回のアプローチで示されたように、早期ステージのがんに免疫療法を行うことで、再発リスクを低減し、治癒率を改善することができる可能性があります」と、本試験の筆頭著者であるスローンケタリング記念がんセンター(ニューヨーク州ニューヨーク)のYelena Y. Janjigian医師は述べた。
MATTERHORNランダム化試験では、周術期治療としてFLOT化学療法にデュルバルマブを追加し、その後デュルバルマブのみのフォローアップ治療を行うことで、未治療の切除可能ステージ2、3、または4Aの胃がんおよび食道胃接合部がん患者における治療成績が改善されるかどうかを検証した。本研究には、中央値62歳の患者948人が参加した。患者の居住地はヨーロッパ(53%)、アジア(19%)、南米(19%)、北米(9%)であった。
474人の患者が、手術前後にデュルバルマブとFLOT化学療法を併用した周術期治療を受け、その後デュルバルマブ単独を投与する群にランダムに割り付けられた。474人の患者が、手術前後にプラセボとFLOT化学療法を併用した周術期治療を受け、その後プラセボ単独を投与する群にランダムに割り付けられた。大部分の患者は胃がんであった(デュルバルマブ+FLOT群で68%、プラセボ+FLOT群で67%)。デュルバルマブ+FLOT群では、69%が男性で、中央値の年齢は62歳であった。
主な知見
・デュルバルマブ+FLOT併用群とプラセボ+FLOT併用群を比較すると、無イベント生存期間(EFS)に統計学的に有意な改善が認められた(EFS:治療開始後、がん再発、進行、または治療関連合併症が発生しない期間)。デュルバルマブ+FLOT併用群の患者は、プラセボ+FLOT併用群の患者に比べてEFSが29%改善された。
・プラセボ+FLOT群の中央値EFSは32.8カ月であった。デュルバルマブ+FLOT群では、報告時点においてEFS中央値は未到達、つまり、デュルバルマブ+FLOT群の半数以上が、がん再発、進行、または治療に関連する合併症を経験していなかったことを意味している。
・12カ月時点でのEFS率は、デュルバルマブ+FLOT群が78.2%、プラセボ+FLOT群が74%であった。24カ月時点ではこの差がさらに広がり、デュルバルマブ+FLOT群で67.4%、プラセボ+FLOT群で58.5%であった。
・デュルバルマブ+FLOT群の全生存期間の中央値は未到達である。プラセボ+FLOT群の全生存期間の中央値は47.2カ月であった。
2つの治療群では、グレード3および4の有害事象の発生率は同等であった。デュルバルマブ+FLOT群で最もよくみられた副作用は、下痢、悪心、好中球減少症(好中球と呼ばれる白血球の数が減少する状態)、脱毛、食欲減退であった。デュルバルマブ追加により、手術やその後の治療が遅延することはなかった。
次のステップ
今後はこれらの患者を継続的に追跡し、生存率に関する報告を行う予定である。
MATTERHORN試験はアストラゼネカの資金提供を受けた。
- 監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
- 記事担当者 平沢沙枝
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- 原文掲載日 2025/06/2
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