遺伝子パネル検査で大腸の遺伝性がん症候群をより多く検出できる可能性

遺伝性がん症候群を有する大腸がん患者の最大38.6%(リンチ症候群患者6.3%を含む)は、現在の一般的な腫瘍スクリーニング法ではその病態が見逃された可能性があり、そして大腸がん患者の7.1%以上は、特定可能な遺伝性の遺伝子変異を有している。このことは、オハイオ州立大学総合がんセンター-アーサー・G・ジェームズがん病院およびリチャード・J・ソロベ研究所(OSUCCC-James)の研究者らが発表した新しいデータで示された。

このデータは、オハイオ州内の51の病院で治療を受けた大腸がん患者3,300人以上から得られたもので、遺伝子パネル検査(複数の遺伝子のセットを一度に調べられる検査方法)をすべての大腸がん患者の標準治療の一部として導入することを科学的に強く支持していると専門家らは述べている。

本研究の代表著者であり、OSUCCC-Jamesの遺伝カウンセラー/研究員であるRachel Pearlman氏は、「大腸がん患者の中からハイリスクの人を特定する方法を見つけることは、この病気をより良く管理し、影響を受ける可能性のある家族を未然に特定するために非常に重要です。遺伝子検査は、この10年間で劇的に変化し、数多くの既知の遺伝子変異を、かなりの低コストでスクリーニングできるようになりました。これは強力なツールであり、私たちはがんの予防と監視のためにもっと広く受け入れる必要があります」と述べている。

研究方法と結果

OSUCCC-Jamesの研究者は今回の研究で、複数の遺伝子検査によって遺伝的リスク因子(家族に受け継がれる)をより効率的に特定できるかどうかを究明しようとした。遺伝的リスク因子は、ある人の生涯がんリスクを劇的に高めるが、がんになるまで検出されないことが多い。

研究者らは、2013年1月から2016年12月の間に浸潤性大腸がん手術を受けた成人3,310人を特定した。対象者の募集は、Heather Hampel氏が主導する全州研究構想「オハイオ大腸がん予防計画(OCCPI)」(Pelotoniaが資金を提供)の一環として行われた。Hampel氏は、OSUCCC – James の分子発がん・化学予防プログラムのメンバーであり、オハイオ州立医科大学の人類遺伝学部門の教授・副部長でもある。

この研究は、新たに大腸がんと診断された患者とその生物学上の親族を対象に、リンチ症候群(4つの遺伝子のうちの1つに変異が生じた場合に発生し、がんの原因となる疾患)のスクリーニングを行うためには始められた。リンチ症候群の人は、大腸がん、子宮内膜がん、卵巣がん、胃がんを発症するリスクが、平均的なリスクの人よりも高いとされている。

また、参加者全員に、ミスマッチ修復(MMR)欠損の有無を確認するための一般的な腫瘍スクリーニングを実施した。MMR欠損は、リンチ症候群の患者の腫瘍によくみられ、必要に応じて体の免疫系を使って腫瘍と闘う新しいがん治療法である免疫療法によく反応することを示唆する特徴である。

本研究が規定する基準を1つでも満たした患者は、有害な変異を特定するための遺伝子パネル検査を受けた。遺伝子検査を受ける基準には、MMR欠損症があること、50歳未満で大腸がんと診断されていること、多発性原発腫瘍(大腸がん/子宮内膜がん)があること、一親等親族に大腸がんまたは子宮内膜がん患者がいることが含まれる。

研究者らは、今回の新たな解析で、参加者の約16%(525人)がMMR欠損症を有し、約7%が遺伝性の変異を有していたと報告している。研究者らは、遺伝性がん症候群のスクリーニング方法がリンチ症候群関連腫瘍スクリーニングだけであったならば、陽性と判定された患者の38%以上は見逃されていただろうと述べている。これには、遺伝子パネル検査法によってリンチ症候群であることが判明した6%以上の患者も含まれる。

「これは意義のある重要な発見です。すべての大腸がん患者にがん種を超えた遺伝子パネル検査を実施することで、将来のがん発症リスクが高い患者を多数特定し、現在のがんに対する実行可能な治療標的を特定することができます」と本研究の統括著者であるHampel氏は述べている。「最新の検査方法を大腸がん患者の標準的な臨床診療の一部として採用すれば、遺伝性の遺伝子変異によりがん発症リスクが高い家族を早期に発見し監視することで、文字通り何千人もの命を救うことができます」。

翻訳担当者 青葉かお里

監修 石井一夫(計算機統計学/公立諏訪東京理科大学工学部情報応用工学科)

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