一部の大腸がん肝転移では肝移植が治療選択肢となり得る

大腸がん肝転移の特定の患者において、門脈塞栓術(PVE)および肝切除よりも肝移植を実施した方が5年生存率が高いことが新たな研究で示唆された。

JAMA Surgery誌に掲載された臨床試験の結果によると、移植を受けた患者50人と切除を受けた患者53人のデータを解析したところ、患者の腫瘍量の多少を問わず、移植を受けた患者の5年生存率が有意に高かった。

「肝転移が広範囲に拡がった大腸がん患者にとって、肝移植は最善の治療法である可能性があります」と本研究の筆頭著者である、オスロ大学病院(ノルウェー)実験的移植・悪性腫瘍研究グループの腫瘍内科学シニアコンサルタント、Svein Dueland医師は述べている。「問題は、治療に必要なドナーの移植肝が世界的に不足していることです」とも言う。

移植は患者を慎重に選択すれば意味があるとDueland医師は電子メールで述べた。

「大腸がん患者を厳選して肝移植を行うと、肝移植後に全生存期間が10年以上延長すると思われます」と付け加えた。「現在、切除不能な肝転移を有する大腸がん患者に対する標準治療は緩和的化学療法であり、全生存期間中央値は約2年です」。

肝転移を有する大腸がん患者のうち、この治療法(肝移植)の候補となるのはごく一部であるとDueland医師は述べる。「肝臓に加えて他の臓器にも転移病変がある患者は、肝移植対象から除外されるでしょう」。

残肝容積を大きくするために門脈塞栓術(PVE)後に切除を行うのではなく肝移植を行った場合、患者の転帰が良くなるかどうかを検討するために、Dueland医師らは、肝移植を行った患者50人の結果と切除を行った患者53人の結果を比較した。

腫瘍量が少ない(病変数が9個未満、かつ、直径5.5cmを超える腫瘍がない)患者21人において、5年生存率は移植を受けた患者で72.4%であったのに対し、PVEを受けた30人の患者では53.1%であったという。

腫瘍量が多い(腫瘍が9個以上、または、最大の腫瘍の直径が5.5cm以上)患者において、5年生存率は肝移植を受けた患者で33.4%であったのに対し、PVEを受けた患者では6.7%であった。また、腫瘍量が多く、左側に原発腫瘍がある場合、5年生存率は肝移植を受けた患者で45.3%、PVEと切除を受けた患者で12.5%であった、とDueland医師らは記述している。

腫瘍量が多い患者の場合、全生存期間の中央値は移植を受けた患者で40.5カ月であったのに対し、PVE群では19.2カ月であった。

「この論文の重要なポイントは、大腸がん肝転移を有する患者の特定の一部にとって、肝移植が選択肢となることです」とピッツバーグ大学医学部直腸・結腸外科助教のJames P Celebrezze医師は言う。

「詳しく言うと、肝転移は大腸がんの一般的な死因であり、約半数の患者は診断時あるいは経過中に転移病変がみられ、その最も多い部位が肝臓です」と電子メールで述べている。

「非常に多くの場合、これらの患者は、化学療法による治療を受けますが、その効果はさまざまで(この30年間で大幅に改善されてきたが)、転移巣を完全切除できる患者はほとんどいません。肝転移病変に対する治療法は他にもありますし、切除可能な患者を増やすための技術も研究されています。したがって、肝移植は、他の選択肢がない患者に厳選して利用されれば、さらにもう一つの治療法になると示唆されます」。

移植用の肝臓は不足しているものの、一部の大腸がん肝転移患者にとっては、移植が一つの選択肢になる可能性があるとCelebrezze医師は指摘する。

同医師は今回の研究には関与しておらず、次のようにも述べている。「大腸がん肝転移患者の肝移植は、臓器が限られているとしても有意義であると考えます」。「適切な患者選択基準が多職種チームアプローチで用いられ、検討され、高度技術をもつ移植外科チームを編成可能であり、臨床試験や症例登録結果の慎重な分析が行われるのであれば、肝移植は実行可能な選択肢となります。肝移植の適応は、初期の頃から確実に拡大してきました。他の方法では根治できない転移性疾患に対する移植が革新的な一歩となる可能性があります」。

JAMA Surgery誌2021年3月31日オンライン版:https://bit.ly/2PLHxe8  https://bit.ly/3wu5APM https://bit.ly/2ObPoBc

(*サイト注:元記事を一部改修して掲載)

翻訳担当者 山本哲靖

監修 泉谷昌志(消化器がん、がん生物学/東京大学医学部附属病院消化器内科)

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