内視鏡技術の進歩により、大部分の複雑型結腸ポリープの外科手術を回避可能に

MDアンダーソンがんセンター

テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンターの新しい研究によれば、内視鏡的切除技術の最新の成果を活用することで、複雑型結腸ポリープ患者の75%超がポリープ切除の外科手術を避けることができた。

Gastrointestinal Endoscopy誌に発表されたこの研究結果では、内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection、以下EMR)が、複雑型ポリープ患者に安全かつ有効で、より多くの患者が外科手術を行わずに済み、外科手術に関連したリスクと費用負担を回避できることを明らかにしている。

複雑型結腸ポリープは大きいか、多くの場合平坦な病変であり、そのサイズや位置により内視鏡での切除は難しいと考えられている。そのため、患者は外科手術でのポリープ切除を奨められることが多い。有害事象が発現する可能性やポリープの分割切除後の高い再発率、および不完全なポリープ切除後に発現するがんと関連した医学的または法的リスクも、外科手術が奨められる一因となっている。

ここ10年の間、ポリープ切除法の改良、および出血と穿孔に対応するための技術の改良により、専門のトレーニングを受けた内視鏡医が消化管EMRにより複雑型ポリープを切除できるようになった。しかし、この方法は専門的なトレーニングが必要であり、そのようなトレーニングは一般的な医学コミュニティで必ず見つけられるものではない、と消化器病学、肝臓病学、栄養学教授であるGottumukkala S.Raju医師は述べた。

EMRは、内視鏡を用いたポリープ切除のための細心の注意を要する結腸内視鏡技術であり、腹壁の外科的切開の必要がない。まず病変下の結腸壁へ慎重に液体を注入し、病変を持ち上げる。続いて結腸の深層を損傷しないように結腸の表層に沿って病変を慎重に削り取る。

「複雑型結腸ポリープの完全切除は技術的に難易度が高く、外科手術を奨められることがいまだに多くあります。外科手術は患者に対する相当なリスクと費用負担を伴います。われわれの研究では、外科手術が医学的には必要がないことが明らかになっています。適切なトレーニングにより、患者の多くはEMRで治療することができるでしょう」と研究論文の責任著者であるRaju医師は述べた。

本研究では、2009年から2014年までの間に、外科手術とは別の選択肢としてMDアンダーソンがんセンターの結腸ポリープ外来とEMRセンターを紹介された複雑型結腸ポリープの患者203人のデータを収集した。研究の主要評価項目は完全切除率で、副次的評価項目は安全性、線腫残存率およびポリープ見逃し率であった。

203人の患者のうち、75%超(155人)がプロトコルに従ったEMRを受け、48人が外科手術を受けた。EMRを受けた患者のうち149人からは良性ポリープが、6人からはがんが見つかった。7人の患者(4.5%)にEMRに関連した有害事象が発現し、4%の患者から残存腫瘍が見つかった。5人の患者が入院した。有害事象が原因で死亡した患者はいなかった。

137人の患者のうち、良性病変切除4~6カ月後のサーベイランス結腸内視鏡検査により瘢痕部に残存した腺腫が見つかった患者が6人、さらに前がん病変が見つかった患者が117人であった。EMRセンターへの紹介があった際には、注意深く繰り返し全結腸を検査する必要がある、ということをわれわれの研究結果は控えめに示している、とRaju医師は述べた。EMRに失敗したために外科手術を受けた患者はいなかった。

さらに、MDアンダーソンがんセンターの著者らは研究の中で、すでに発表されている、内視鏡と外科手術での複雑型結腸ポリープ切除の費用効率を比較した分析に言及している。分析によれば、内視鏡によるポリープ切除が患者1人当たり5,570ドル、外科手術によるポリープ切除が患者1人当たり18,717ドルの費用が掛かった。Raju医師らは自身の研究で、独自の費用分析を含めた追加調査を計画している。

外科手術を回避できる患者の割合を向上させるためには、患者の長期転帰を研究対象とする必要がある。

「患者の転帰と内視鏡医の教育という両方の意味で、まだ改善の余地があります」とRaju医師は述べた。「われわれの知見と技術を内視鏡のコミュニティと共有するために、米国消化器内視鏡学会(American Society of Gastrointestinal Endoscopy)とともに教材を作成しました。そしてこれらの取り組みを広げていく計画です。患者に別の治療の選択肢がありうることを知ってもらい、もし医師がすぐに外科手術を奨めてきたらEMRの専門知識を容易に理解できるように、われわれが複雑型結腸ポリープ患者を教育することも重要です」。

MDアンダーソンがんセンターが行った研究に参加したRaju医師以外の共著者は次のとおりである:Phillip Lum; William Ross, M.D.; Selvi Thirumurthi, M.D.; Ethan Miller, M.D.; Patrick Lynch, M.D.; Jeffrey Lee, M.D.; Maoop Bhutani, M.D.; Brian Weston, M.D.; Mala Pande M.B.B.S., Ph.D.; Asif Rashid, M.D.; Lopa Mishra, M.D.; Marta Davila, M.D. and John Stroehlein, M.D., all of Gastroenterology, Hepatology and Nutrition.

本研究はJohn Stroehlein Distinguished Professorshipから資金援助を受けた。いずれの著者も、申告の必要な関連する金融情報の開示はない。

翻訳担当者 中島 節

監修 畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター)

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