がんに伴う静脈血栓塞栓症発病率は過小評価されている

がん患者における静脈血栓塞栓症発病率についてのインド人研究者らの報告

 議題:緩和ケアと支持療法

がん患者における静脈血栓塞栓症の発病率は予想以上に高いとの研究結果が、シンガポールで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)アジア会議で報告された。

インドの一医療施設において、2014年から2015年の間に新規にがんと診断された通院患者507人のうち、18.14%に両側下肢静脈ドップラー検査または病期画像診断で静脈血栓塞栓症が見つかった。そのうち、12.22%は偶発的所見であり、5.91%は症状が発現していた。

静脈血栓塞栓症の発病率が高かったのは、肝細胞がん患者(15人中86.6%)と膵臓がん患者(12人中75.0%)であった。これに対して、発病率が低かったのは、胃がん患者(78人中16.6%)、肺がん患者(62人中12.9%)、結腸がん患者(48人中14.5%)であった。

また、偶発的所見による症例割合が最も高かったのは肝細胞がん患者(21.0%)、次いで胃がん患者(16.1%)、膵臓がん患者(11.3%)であった。

対照的に、症状のある静脈血栓塞栓症が最も多くみられたのは、肺がんと卵巣がんの患者であり、いずれも16.7%であった。

血栓塞栓が最も多くみられた部位は、大腿膝窩部(39.2%)、次いで門脈(27.3%)、下大静脈(19.6%)であったと、インド、ティルパティ市、Sri Venkateswara Institute of Medical Sciences 医療チーム代表のRadhakrishna Balambika氏が報告した。

また、肺血栓塞栓症、上腸間膜静脈血栓症、脾臓静脈血栓症の発病率は、いずれも4.4%であった。

発表著者が強調する点は、静脈血栓塞栓症ががん患者の死因としてがん自体に次いで2番目であるということである。しかし、国際ガイドラインでは予防策の実施を必ずしも勧めていないことを付け加えた。

同氏は、「出血性合併症を考慮すると、がん患者の血栓予防は難しいが、静脈血栓塞栓症のスクリーニングを行うことや適格患者に一次予防策を実施することで、臨床転帰が改善する可能性はある」と結論づけた。

今回の研究討論において、ルクセンブルク医療センターのMario Dicato氏は、静脈血栓塞栓症例の分布について、特に門脈血栓症25人、下大静脈血栓症18人、上腸間膜静脈塞栓症4人、肺塞栓症4人というデータは「きわめて異例」であり、症例の発表時期として尚早ではないかと述べた。

同氏はさらに、報告された静脈血栓塞栓症の発病率は全体的に高く、偶発的所見による発病率は発症率よりも2倍高く、「西ヨーロッパや北米での調査結果とは異なる」と述べた。

Mario Dicato氏は、患者の静脈血栓塞栓症の合併有無によってどういう点に特徴があるのか、進行病期だけでなく、生物学的および検査上の特徴を比較評価するなど、データの検証と解析をさらに進める必要があると強調する一方、世界中での分布に相違があることは興味深いと結論づけた。

参考文献
Balambika RG, Manickavasagam M, Silpa K, Pai A. Venous thromboembolism in cancer patients – an elephant in the room. Presented at:ESMO Asia 2015 Congress. Singapore; 18–21 December 2015; 368O

翻訳担当者 岐部幸子

監修 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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