【ASCO2025】炎症を引き起こす食事が、ステージ3大腸がんの予後不良と関連
ASCOの見解(引用)
「この研究は、まだ検証の初期段階にあるものの有望な観察研究で、次のような相乗効果をはっきりと示しました。ステージ3の結腸がん患者で、炎症を抑制する食事をし、かつ定期的に運動を行ったグループは、炎症を引き起こす食事をし、運動をあまりしなかったグループと比べて、生存期間が良好でした」と、ASCO副会長および最高医学責任者であるJulie R. Gralow医師(FACP:米国内科学会フェロー、FASCO:ASCOフェロー)は述べた。
試験要旨
焦点 | 外科的切除を受けたステージ3の結腸がん |
対象者 | 患者1,625人、平均年齢約61歳 |
主な結果 | 炎症を引き起こす食事は、ステージ3の結腸がん患者の生存率の低下と関連していた。 |
意義 | ・ステージ3の結腸がんとは、がんが近くのリンパ節に転移しているが、体の他の部位には転移していない状態である。ステージ3結腸がんの患者の多くは、根治を目的として腫瘍の外科的切除を受けるが、治療完了後5年以内に25〜35%の患者が再発する。 ・慢性的な全身性炎症は、結腸がんの発症および進行の既知のリスク因子であり、その原因としては、慢性疾患(糖尿病や炎症性腸疾患など)、食生活、生活習慣、環境因子など多数考えられる。 ・近年の研究では、アスピリンのような抗炎症薬が、一部のステージ3の結腸がん患者において大腸がんの発症および再発リスクを低下させる可能性があることが示されている。また、ステージ3結腸がんでは、診断後に全身性炎症のレベルが高いほど、生存率が低くなることも報告されている。 ・がんの再発リスクに対する食事の影響を評価するため、第3相CALGB/SWOG 80702試験に登録された患者のうち、一部の患者について食事習慣を分析した。炎症を起こしやすい食事をしている患者と、炎症を抑制する食事をしている患者の予後を比較した。 |
ステージ3の結腸がんにおいて、炎症を抑制する食事を摂ることで死亡リスクが低下する可能性が、大規模な前向きコホート研究の結果明らかになった。結果はシカゴで開催された2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会(5月30日〜6月3日)で発表された。
試験について
「患者さんからよく聞かれる質問の一つが、がんの再発リスクを最大限に減らし、生存率を高めるためにどのような食事をすべきかということです。大腸がんの発症リスクに関する食事因子を扱った研究は多数ありますが、診断後の食事が予後に与える影響については、ほとんど分かっていません。この研究は、ステージ3結腸がんの患者さんにおける食事パターンと生存率との関連を明らかにしようとするものです」と、筆頭著者で、ダナファーバーがん研究所(マサチューセッツ州ボストン)のSara K. Char医師は述べた。
結腸がんの再発リスクに対する食事の影響を評価するために、第3相CALGB/SWOG 80702試験に登録された一部の患者の食習慣を前向きコホート研究で分析した。同試験では、術後化学療法の期間を3カ月と6カ月とで比較し、さらに抗炎症薬であるセレコキシブを投与する場合としない場合とで比較した。前向きコホート研究は、類似する特徴を持つ群の中で、ある重要な因子が異なる患者を長期にわたって追跡し、その因子が予後に影響を及ぼすかどうかを調べるものである。
CALGB/SWOG 80702試験に登録された約2,500人の患者のうち、この試験の対象として1,625人を追跡した。患者は全員外科的切除を受けたステージ3の結腸がんであった。参加者の平均年齢は60.9歳であった。患者はCALGB/SWOG 80702試験で治療群に無作為に割り付けられてから6週間後と、14〜16カ月後に、食事と運動習慣を報告した。食事は経験的食事性炎症パターン(EDIP)ツールを用いてスコア化した。
EDIPツールは、18種類の食品群(炎症を促進する9種類と炎症を引き起こしにくい9種類)の摂取量に基づいて、食事の炎症スコアを算出するツールである。炎症を促進する食品の例には赤肉(※牛・豚肉等のこと)、加工肉、精製された穀物、砂糖入り飲料がある。一方、炎症を抑制する食品の例にはコーヒー、紅茶、濃い黄色の野菜、葉物野菜がある。EDIPスコアが高いほど炎症を促進する食事で、スコアが低いほど炎症を起こしにくい食事であることを意味する。
主な知見
・炎症を促進する食事(EDIPスコアが高い)を摂取していた患者は、以下のような傾向があった:
ー年齢が若い(平均年齢58.7歳 対 61.3歳)
ー女性の割合が高い(64% 対 48.9%)
ーECOGスコアが1または2(日常生活動作の能力がやや低下している)(35.7% 対 19.4%)
ー白人の割合が低い(76.6% 対 92.0%)
ー黒人の割合が高い(15.4% 対 3.7%)
・炎症を促進する食事は、予後不良と関連していた。EDIPスコアが最も高く、炎症を引き起こすレベルが高い食事を摂っていた患者は、高い抗炎症作用を示す食事を摂っていた患者と比べて、死亡リスクが87%高かった。
・自分で改善可能な運動習慣も、全身の炎症に影響を与える因子であるが、これも生存率に関係していた。炎症を抑制する食事をして運動を頻繁に(週に9MET時間以上、MET:代謝当量)行う患者は最も良好な生存率を示し、炎症を促進する食事をして運動をあまりしない(週に9MET時間未満)患者よりも、死亡リスクが63%低かった。
・炎症を促進する食事をした患者群と、炎症を抑制する食事をした患者群との間で、無病生存率に有意な差は認められなかった。
・低用量アスピリンの使用状況、およびCALGB/SWOG 80702試験の一環として患者が受けた治療内容には、群間で有意な差は認められなかった。
次のステップ
研究者らは、食事と炎症、さらに運動が大腸がん患者の予後に与える影響について、今後も研究を継続していく。
この研究は、米国国立衛生研究所(NIH)、ファイザー、およびプロジェクトP基金の資金援助を受けた。
- 監修 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)
- 記事担当者 平沢沙枝
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- 原文掲載日 2025/06/2
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