PIK3CA変異大腸がんでセレコキシブにより再発リスクが低下する可能性

ステージ3の大腸がん患者を対象としたランダム化臨床試験のデータを解析したところ、PIK3CA変異のある患者が手術後に抗炎症薬であるセレコキシブを服用すると、変異のない患者よりも有意に長く生存し、無病生存期間も長いことが明らかになった。この研究は、がんの個別化治療における画期的な進歩の可能性を強調するものであり、ダナファーバーがん研究所とブリガム&ウィメンズ病院の臨床研究者らが主導した。

これらの知見は、セレコキシブなどの抗炎症作用のあるプロスタグランジン阻害薬による術後補助療法がPIK3CA変異陽性の大腸がんの生存期間を改善するという、これまでの観察結果を検証する初の臨床試験結果である。この結果はJournal of Clinical Oncology誌に本日発表された。

「プロスタグランジン阻害薬が大腸がん患者の一部のグループで有益であることを示唆するエビデンスが蓄積しつつありますが、これらの知見はそれを強化するものです」とJeffrey Meyerhardt医師、公衆衛生学修士は言う。同氏はこの論文の最終著者でありダナファーバーがん研究所のColon and Rectal Cancer Center共同ディレクターである。「今回の結果は、早期大腸がん患者に対する追加治療に個別化アプローチが可能であることを示唆しています」。

ステージ3の大腸がんの一次治療後、患者は通常、がんの再発リスクを減らすことを目的とした術後化学療法を受ける。このような患者の一部ではがんが再発し、再発した患者には治療の選択肢がほとんどない。ダナファーバーがん研究所とブリガム&ウィメンズ病院の共同研究を通して、研究者らは術後補助療法を改善し、再発を食い止める方法を模索している。

ステージ3の大腸がん患者の無病生存率に対するセレコキシブの有用性を検討するため、Meyerhardt医師らは2010年にランダム化臨床試験のAlliance 80702試験を開始した。この試験には2010年から2015年の間に2,526人の患者が登録された。治療後、患者はフルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン(FOLFOX)による3カ月または6カ月の術後化学療法に加えてセレコキシブを3年間毎日内服する群としない群に無作為に割り付けられた。セレコキシブ服用群ではそれなりの有益性が認められたものの、統計学的には有意ではないという結果が2021年に発表された。

この試験の実施中に、抗炎症薬は一部の大腸がん患者に有益であるが、その他の患者にはそうでない可能性があることを示唆する新たな証拠が得られた。例えば、2012年にダナファーバーの研究者らは、Nurse's Health StudyとHealth Professionals Follow-up Studyという幅広い個人を対象とした長期観察研究で、その兆しを観察した。この試験では、セレコキシブと同様の作用機序を持つ抗炎症薬のアスピリンを常用していた大腸がん患者は生存期間が長かったが、それはPIK3CA変異陽性の大腸がんであった場合に限られた。その後行われた他の観察研究でも、この関連は裏付けられている。

「PIK3CA変異がセレコキシブに対する反応の予測因子であるかどうかを判断するために、Alliance 80702試験データのサブグループ解析を行う必要がありました」と、筆頭著者のJonathan Nowak医学博士は言う。同氏はブリガム&ウィメンズ病院およびダナファーバーの分子・消化管病理学者であり、ダナファーバーHale Family Center for Pancreatic Cancer Researchの研究者である。


この新たな研究で、Meyerhardt医師とNowak医学博士らは、Alliance 80702試験の患者から採取した1200の腫瘍サンプルについて、全エクソーム配列決定と呼ばれる包括的遺伝子配列決定を行った。その結果、患者の22%にPIK3CA変異が認められた。セレコキシブを投与されたPIK3CA変異陽性の腫瘍を有する患者は、セレコキシブを投与されたPIK3CA変異陰性の腫瘍を有する患者と比較して、全生存期間が有意に長かった。

この解析では、患者の死亡リスクは約50%減少し、がん治療とは関係ない理由で低用量アスピリンを使用していた患者を除くと約60%減少した。無病生存率も改善したが、統計学的有意差には達しなかった。

「これらの結果が実施中の他の研究でも確認される場合、他の標準的治療にセレコキシブを加えることで利益を得る患者を知るために、医師は早期大腸がん患者の腫瘍内の遺伝学的特徴を理解することが重要になるでしょう」とMeyerhardt医師は言う。

資金提供 :米国国立衛生研究所、Alliance for Clinical Trials in Oncology Foundation、Karen Guo Colon Cancer Fund、Douglas Gray Woodruff Chair in Colorectal Research Fund、Stone Research Fund

  • 監訳 泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)
  • 翻訳担当者 坂下美保子
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  • 原文掲載日 2024年6月18日

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