遺伝性大腸がんにおける運動効果ー抗がん免疫力上昇と炎症抑制

MDアンダーソンがんセンター

リンチ症候群患者において、運動が免疫系に生物学的影響を及ぼすことが初めて研究で示される

定期的な強度の有酸素運動は、有害化しうる細胞を検出して除去する免疫系の能力を向上させ、リンチ症候群(LS)の大腸がんリスクを低下させる可能性があることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らにより明らかとなった。

本研究結果(Clinical Cancer Research誌掲載)によれば、高強度トレーニング療法に参加したリンチ症候群患者では、大腸と血液中の炎症マーカーであるプロスタグランジンE2(PGE2)が減少した。また、ナチュラルキラー(NK)細胞とCD8+ T細胞という2種類の免疫細胞が多いことも判明し、大腸における免疫反応の向上が示唆された。

「運動がこれほど強力で持続的な変化をもたらすとは驚きでした」と研究責任者のEduardo Vilar-Sanchez医学博士(臨床がん予防学教授)は言う。「高強度トレーニングは、身体ががんと闘う力を初期の段階から高めるだけでなく、他の多くの健康効果ももたらすことがわかりました」。

リンチ症候群は米国で100万人以上が罹患している遺伝性疾患で、大腸がんと子宮内膜がんの生涯リスクが高い。同疾患の男性では大腸がん発症リスクは60%~80%、女性では40%~60%である。女性はまた、同じ確率で子宮内膜がんを発症する。

この非ランダム化試験では、18歳から50歳までのリンチ症候群患者21人を12カ月間にわたって追跡した。11人が運動群に、10人が通常ケア群に割り付けられた。21人の患者全員に活動量計が配布された。運動群では週に3回、45分の高強度トレーニングのサイクリングセッションに参加した一方、通常ケア群では運動の有効性を説明されただけだった。

運動群の参加者は、最大心拍数の70%以上で週164分の運動時間を記録した(中央値)が、通常ケア群の運動時間は週14分(中央値)だった。

試験開始時、両群とも開始前に健康に関するアンケートに回答し、生検を伴う標準治療の下部消化管内視鏡検査と血液検査を受けた。心肺運動負荷試験(CPET)は最初の内視鏡検査後30日以内、2回目の来院時に行われた。すべての参加者は1年後内視鏡検査を受け、1年後内視鏡検査後30日以内の4回目の診察時にCPETを受けた。有意な有害事象はみられなかった。

次世代シーケンシングによる発現解析では、運動群と通常ケア群との間で、正常大腸粘膜の遺伝子発現に統計学的に有意な変化が認められた。運動を行った群では、行わなかった群と比較して、13遺伝子の発現が増加し、33遺伝子の発現が減少した。活性化された遺伝子は免疫シグナル伝達経路に関与し、抑制された遺伝子は筋収縮と代謝に関連していた。

また、体内の酸素利用能力(VO2peak)が高まると、免疫系の調整に役立つミオカインやサイトカインの産生が促されることもわかった。運動はまた、PGE2のレベルを下げ、CD8+ T細胞やCD57+ NK細胞など、がん防御に重要な役割を果たす大腸内の特定の免疫細胞の増加にも関連していた。

「患者が決められたとおりに薬を飲めないこともあるでしょう。今後の研究で運動による予防効果を検証できれば、『ライフスタイルの処方箋 』を提案して、リンチ症候群患者に長期にわたってがんリスクを低下させる新しい方法を提供することができます」とVilar-Sanchez氏は述べた。

リンチ症候群保因者における有酸素運動トレーニングの予防効果を確認し、何らかのがんリスク低減につながる可能性のある免疫関連経路をさらに解明していくために、今後ランダム化臨床試験を行う必要がある。

この研究の限界は、人種の多様性がない小さなサンプルサイズであること、および非ランダム化試験であることである。参加者はインフォームドコンセントに署名する前に自分の割り付けを知り、それが試験への参加意欲に影響を与えた可能性がある。さらに、検体の採取時期や冷凍庫での保管時期の違いが、代謝産物レベルの違いを引き起こした可能性がある。

本研究は、Duncan Family Institute for Cancer Prevention and Risk Assessment、T. Boone Pickens Fund、National Cancer Institute(CA016672, P50 CA221707)およびMD Anderson's Moon Shots Program®の支援を受けた。Vilar-Sanchez氏は、Janssen Research and Development社、Recursion Pharma社、Guardant Health社でコンサルティングまたはアドバイザリーの役割を担っている。共著者および開示情報の一覧は原文を参照のこと。

  • 監訳 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
  • 翻訳担当者 奥山浩子
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  • 原文掲載日 2023/09/19

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