ミニ臓器で乳がん治療反応は予測可能か?

ミニ臓器で乳がん治療反応は予測可能か?

患者由来オルガノイド(※サイト注:オルガノイドとは、幹細胞から立体的に培養された、体内の本物の臓器によく似た構造や機能を持つミニチュアの組織)と、乳がんにおけるバイオマーカーと治療反応との関連性を組み合わせることで、個々の患者にさらに適した治療につながる可能性が示唆された。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者らは、革新的な臨床試験I-SPYで得られた患者データと、研究室で培養したミニ腫瘍を用いた迅速な実験を組み合わせることで、さまざまな種類の乳がんが治療に対してどのように反応するかを予測する、新たな方法を開発した。

この新たな手法により、乳がん、特に悪性度が高く治療が困難なトリプルネガティブ乳がんに対して、患者個々に合わせた治療法の開発が加速する可能性がある。

8月6日にCell Reports Medicine誌に掲載された本研究では、オルガノイドが治療に対する腫瘍の反応を再現できることを研究者らが明らかにした。

「乳がんオルガノイドは、それぞれの患者の腫瘍が治療にどのように反応するかを再現するとともに、標準治療が効かないがんに対して併用療法の候補を特定しました」と、本研究の統括著者であり、UCSF腫瘍内科医・乳がん領域Sulochana Pradhan, MD, Endowed Professorを務めるJennifer M. Rosenbluth医師(医学博士)は述べる。「今回の結果は、オルガノイドモデルが臨床バイオマーカーと精密治療戦略をつなぐ橋渡しとなる可能性を示しています。」

研究者らは、患者から採取した腫瘍細胞を、元の腫瘍の生物学的特性を保持するよう設計されたゲルの中で培養し、乳がんオルガノイドを作製した。数週間かけて細胞は小さな球状の塊を形成し、元の腫瘍の構造や生物学的特性を再現するようになった。各細胞塊には最大で数千個の細胞が含まれており、非常に小さいため、顕微鏡を使わなければはっきりと見ることができない。最も大きなものは、ゲルの中で半透明の細胞塊として確認できた。

その後、研究者らはこのオルガノイドを使って、さまざまな種類の腫瘍を有する患者が現在の治療にどのように反応するかについて、I-SPY2試験から得られた知見を検証した。検討した治療は、免疫療法薬、PARP阻害薬、プラチナ製剤による化学療法、2剤のHER2標的治療法などであった。

オルガノイドの多くはトリプルネガティブ乳がんの腫瘍から作製された。そのため研究者らは、トリプルネガティブ乳がんの治療によく用いられるveliparib[ベリパリブ]+プラチナ製剤による化学療法(VP療法)に、腫瘍が反応するかどうかを予測するモデルの検証として、オルガノイドを使用した。

研究チームは、VP療法に抵抗性を示したオルガノイドを用いて、386種類の低分子阻害薬をスクリーニングした。その結果、ABT-263 navitoclax[ナビトクラクス]という有望な化合物を発見した。ナビトクラクスは、損傷した細胞の排除を促す作用を持つ。

さらにオルガノイドを用いた薬剤スクリーニングでは、HSP90阻害薬と呼ばれる薬剤クラスなど、その他にも有望な候補が見出された。さらに研究者らは、研究室で観察された結果を、I-SPY試験に参加した患者のうち、こうした薬剤により良好な反応を示した患者の一部と関連付けることにも成功した。

「乳がんオルガノイドには、重要ながんバイオマーカーが発現していることが明らかになりました。その多くは薬剤による治療の標的となり得ます」と、研究の筆頭著者でUCSFの博士課程に在籍するTam Binh V. Bui氏(MD、MSc)は述べている。「これらのオルガノイドによって、ヒトの組織で薬剤が及ぼす影響を直接調べ、このタイプに対して最も有望な治療法を優先的に検討することができました。」

今回の研究では、オルガノイドに基づいて治療を選択した場合に、その治療効果が長期的にどのように推移するかについては検討していない。また、オルガノイドは生体内の臓器全体が持つ複雑な構造を再現することができず、血管や免疫細胞など、腫瘍細胞が受け取るシグナルに影響を与える体内環境を再現することはできなかった。

それでも研究者らは、将来的には患者由来オルガノイドを利用して、がん患者一人ひとりに合わせた治療法を開発できるようになることを期待している。

「大規模な分子データおよび臨床データのコンピューター解析とオルガノイドモデルシステムを組み合わせることにより、今回の原理実証研究では、I-SPY2試験で特定された治療抵抗性のバイオマーカーや特徴を、残存腫瘍から作製したオルガノイド培養と対応付けることの有用性が示されました。」とRosenbluth氏は述べている。 「今回の研究結果は、患者ごとの臨床試験データとオルガノイドモデルを用いた検証を統合する逆トランスレーショナルアプローチが、創薬や将来の患者個々に合わせた治療戦略の開発に役立つことを示しています。」

I-SPY試験コンソーシアムについて:

UCSFが主導するI-SPY試験コンソーシアムは、10年以上にわたり、早期の高リスク乳がんに対する新たな治療法の開発を加速することに取り組んできた。現在実施されているI-SPY 2.2試験では、さまざまな乳がんタイプを対象に、複数のがん治療薬を同時に検討している。この試験では、治療への反応や治療抵抗性を示す臨床バイオマーカー、すなわち、腫瘍が治療にどのように反応するかを予測する、測定可能な腫瘍の特徴が用いられている。これらのバイオマーカーを用いることで、研究者らは、患者一人ひとりの治療への反応に基づいて治療を最適化する、より個別化されたアプローチを取ることができるようになった。

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  • 記事担当 岩﨑千穂
  • 監修 下村昭彦(腫瘍内科/国立国際医療センター乳腺・腫瘍内科)
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  • 原文掲載日 2026/08/6

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