【SABCS25】ホルモン抵抗性進行乳がん、サシツズマブによる無増悪生存は標準治療と同等

【SABCS25】ホルモン抵抗性進行乳がん、サシツズマブによる無増悪生存は標準治療と同等

ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性の進行乳がんにおいて、ホルモン療法後の初回治療として、サシツズマブ ゴビテカン(商品名:トロデルビ)または標準化学療法のいずれで治療しても、無増悪生存期間(PFS)に差は認められなかった。サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)(2025年12月9日〜12日)で発表された第3相ASCENT-07臨床試験の結果により明らかになった。

「HR陽性HER2陰性乳がんでは一次治療としてホルモン療法が通常行われますが、治療抵抗性が生じるのが一般的です」とKomal Jhaveri医師(スローンケタリング記念がんセンターPatricia and James Cayne Chair for Junior Faculty、乳腺内科・早期薬剤開発部門アソシエイトアテンディング、およびホルモン療法研究プログラム部門長)は述べた。

「HR陽性HER2陰性の転移乳がんがホルモン療法に抵抗性を示した場合、化学療法は依然として一般的な標準治療です」と同氏は説明する。「化学療法薬はわずかな生存利益を示していますが、重篤で長期にわたる可能性のある多くの毒性を伴います。そのため、この治療環境においては、より有効な新たな治療選択肢が強く求められています」。

サシツズマブ ゴビテカンは、多くの乳がん細胞の表面に発現しているTROP-2タンパクを標的とし、細胞障害性薬剤をがん細胞および腫瘍微小環境内の隣接細胞へ送達する抗体薬物複合体である。本治療薬は、ホルモン療法および化学療法後に病勢進行を認めたHR陽性HER2陰性の進行乳がんに対する治療として承認されている。この承認は、第3相TROPiCS-02臨床試験において、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)データの改善が示されたことに基づくものであると、Jhaveri氏は述べた。同試験では、2レジメン以上の化学療法後にサシツズマブ ゴビテカンによる治療を受けた患者は、別の化学療法を受けた患者と比較して、病勢進行または死亡のリスクが34%低下し、OSが3.2カ月延長した。

Jhaveri氏らはこれらの結果を受け、ホルモン療法後、化学療法未治療のより早期の治療段階においてもサシツズマブ ゴビテカンが有益であるかどうかを検討した。

この仮説を検証するために実施されたのがASCENT-07試験であり、ホルモン療法既治療で初回化学療法の適応があるHR陽性HER2陰性の進行乳がん患者690人が登録された。患者は、サシツズマブ ゴビテカン群と標準治療の化学療法群とに2対1で無作為に割り付けられた。

ASCENT-07試験では、盲検下独立中央審査によるPFSの改善という主要評価項目は達成されなかった。追跡期間中央値15.4カ月時点でのPFS中央値は、両群ともに8.3カ月であり、ハザード比は0.85であった。

OSに関するデータは本解析時点では未成熟であったが、Jhaveri氏は、サシツズマブ ゴビテカン群で死亡リスクが低下する可能性を示唆する予備的な結果が得られていると指摘し、「この治療環境におけるサシツズマブ ゴビテカンの長期的な影響をよりよく理解するためには、OSについて引き続き患者さんを追跡することが重要です」と付け加えた。

奏効率は両群で同程度であったが、数値上はサシツズマブ ゴビテカン群の方が高く、同治療を受けた患者の37%に奏効が認められたのに対し、化学療法群では33%であった。サシツズマブ ゴビテカン群では、化学療法群と比較して奏効期間の中央値が数値的に長かった(12.1カ月対9.3カ月)。

Jhaveri氏によると、本試験におけるサシツズマブ ゴビテカンの毒性プロファイルは、これまでの乳がん研究で観察されてきたものと一貫していた。両群において、多く認められたグレード3以上の治療関連有害事象は好中球減少症と白血球減少症であり、いずれもサシツズマブ ゴビテカン群で発生率が高かった。治療関連有害事象により治療中止に至った患者の割合は、サシツズマブ ゴビテカン群で約3%、化学療法群で7%であった。

「本研究では、化学療法未治療患者におけるPFSという主要評価項目は達成されませんでしたが、サシツズマブ ゴビテカンは、TROPiCS-02試験で示されたPFSおよびOSの結果に基づき、ホルモン療法と化学療法治療後のHR陽性HER2陰性転移乳がんにおける標準治療であり続けます」とJhaveri氏は述べた。

さらに、「HR陽性HER2陰性転移乳がんは非常に不均一性の高い疾患であり、この複雑さが、特に複数ラインのホルモン療法後に病勢進行を認めた患者さんの治療を困難なものにしています」と付け加えた。

本研究では、HER2を標的とする抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)との有効性比較は行われていない。トラスツズマブ デルクステカンは、HER2発現量が「HER2低発現」または「HER2超低発現」と分類される一部のHR陽性HER2陰性乳がんに対する治療として承認されているが、トラスツズマブ デルクステカンが化学療法未治療のHER2低発現および超低発現乳がんに対する適応を取得したのは、ASCENT-07試験の患者登録が終了した後であった。

「ASCENT-07試験のデザインおよび比較対照の選択は、試験の計画および実施当時の治療ガイドラインに沿ったものでした」とJhaveri氏は述べた。

*本研究の情報開示については、原文を参照。

  • 監修 下村昭彦(腫瘍内科/国立国際医療センター乳腺・腫瘍内科)
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  • 原文掲載日 2025/12/10

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