【SABCS25】モバイル健康ツールで若年乳がんサバイバーの生活の質向上か

【SABCS25】モバイル健康ツールで若年乳がんサバイバーの生活の質向上か

思春期および若年成人乳がんサバイバーを対象としたモバイルヘルス(mHealth)介入は、患者報告アウトカム電子情報(ePRO)のモニタリングにより個別化支援を提供するもので、生活の質および腟や腕の問題に関連する症状を著しく改善した。このランダム化臨床試験の結果は、2025年12月9日から12日にかけて開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表された。

15歳から39歳の女性における乳がん発生率は、1975年から2022年の間に年間平均0.6%上昇した。「若年成人乳がん患者は、高齢女性患者に比べ、乳がん診断後に精神的・医学的苦痛を経験する傾向が高い」と、研究発表者であるAnn H. Partridge医師(公衆衛生学修士)は述べた。同氏はダナファーバーがん研究所で医学腫瘍学副部長兼最高臨床戦略責任者を務め、同研究所内に「若年成人乳がん患者プログラム」を設立し統括している。

ハーバード大学医学部教授でもあるPartridge医師によれば、積極的がん治療を終了した後も後遺症に苦しむ患者たちの集中的ニーズに対応できる体制が、現在の医療システムには整っていないという。「多くの急性身体症状は初期治療後に改善するものの、若い女性の生涯にわたる身体的・精神的・心理社会的影響は、治療終了後に悪化したり、治療終了後に初めて明らかになったりする場合もある。治療後のこの時期には医療制度の対象となる可能性はかなり低い」。

思春期・若年成人乳がんサバイバーを支援するための、アクセスしやすく拡張性があり自己管理可能な介入策の必要性を認識したPartridge医師らは、若年層向けモバイル健康ツール「Young, Empowered & Strong(YES)」のパイロット研究を実施し、転帰が改善するかどうかを検証した。YESはウェブおよびアプリベースのツールであり、ePRO(患者報告アウトカム電子情報)の回答に基づいて情報と支援を提供する。例えば、女性が特定の症状(例:不安、痛み、更年期症状)や心配ごと(例:不妊、経済的不安、身体イメージに関する悩み)を報告すると、YESポータル内でそれらの問題に対処するための個別化された情報とリソースへのリンクが提供される。さらにYESは、記述式プラットフォームや、他の若年サバイバーとのピアサポートのための監視付きチャットルームなど、その他の補完的支援ケア戦略も組み込んでいる。

YESの多施設共同ランダム化比較試験において、Partridge医師らは過去3年以内にステージ0~3の乳がんと診断された15~39歳の女性360人を登録した。試験開始時に、一般QOL(こころのウェルビーイング、疲労、痛み、社会的関係、目的意識などの側面)とがん特有QOL(がん再発の不安、外見の変化、性的問題、がんが健康と人生観に及ぼす影響などの側面)を評価するための「成人がんサバイバーの生活の質(QLACS)」質問票に答えた後、参加者はYES介入群(179人)または通常ケア群(181人)に無作為に割り付けられた。

試験開始時、QLACSスコアの平均値は、YES群では一般QOLが86.3、がん特有QOLが52.5であり、通常ケア群ではそれぞれ79.7および48.9であった。QLACSスコアが高いほど、QOLは低いことを示す。

6カ月後、一般的QOLに関するQLACSスコアの平均値は、YES群で8.7ポイント、通常ケア群で1.6ポイント低下し、YES群に無作為に割り付けられた群で生活の質の改善がより大きいことを示した。さらに、がん特有QOLスコアの平均値は、YES群で7.8ポイント、通常ケア群で3ポイント低下した。全体として、両群間の試験開始時から6カ月時点までの変化における調整済み差異は、一般的QOL(YES群で4.8ポイント低下幅が大)およびがん特有QOL(YES群で3.2ポイント低下幅が大)の両方において、統計学的に有意にYES群に有利であった。

「患者のケアチームと直接連携せず、患者が自身の症状や心配ごとを自己管理できるように支援する遠隔・拡張可能mHealthによる介入が、著しい改善をもたらしたという事実はパラダイム転換をもたらすものです」とPartridge医師は説明する。「ePROを用いて有用性が示された介入のほとんどは、臨床医の多大な労力を伴う積極的治療を受けている患者を対象としていましたが、今回、臨床医の関与が限定的な低接触型介入でも、患者にとって重要なアウトカムを改善できることがわかりました」。

さらに、本試験では試験開始時からの特定症状の変化を、PROMIS疲労スケール、疫学研究センター抑うつスケール(CES-D)、乳がん予防試験(BCPT)スケールを用いて評価した。6カ月後、若年乳がんサバイバーに共通する心配ごとである腕や腟の症状も、YES群で有意に改善し、両群間の平均変化量の差は腟の問題で-0.57、腕の問題で-0.39であった。疲労感にもわずかな改善が認められたが、統計学的有意差はなかった。ただし、CES-Dで測定した抑うつ症状や、ほてり、吐き気、膀胱制御、筋骨格系の痛み、認知機能の問題、体重の問題などのBCPT症状については、両群間で差は認められなかった。

「この介入は特定の更年期症状、不安症状、抑うつ症状の改善にはつながらなかったため、ツールの改良に向けたさらなる取り組みが必要です」とPartridge医師は述べた。「しかし、この種の介入は、がんセンターの資源や支援を直接利用しにくい多忙な若年成人や地方在住のアメリカ人など、支援へのアクセスが困難な人々の健康とウェルビーイングを改善する可能性を秘めています」。

本研究の限界には、参加および関与に関するバイアスが含まれる。また、研究の途中で新プラットフォームを備えた新たなベンダーに変更されたこと、および最初の集計部分がCOVID-19による閉鎖に近い時期にとられたことも研究結果に影響を及ぼしている可能性がある。COVID-19による閉鎖状態は、参加者のポータル活用方法に影響を与えた可能性がある。また、女性参加者は3つの学術機関(ダナファーバーがん研究所、オハイオ州立大学、コロンビア大学アービング医療センター)から登録されたが、これらの施設では他の診療所より多くの支援や資源を提供している可能性がある。

*本研究の開示情報については、原文を参照のこと。

  • 監修 太田真弓(精神科・児童精神科/クリニックおおた 院長)
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  • 原文掲載日 2025/12/12

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